コザの夜に抱かれて 第4話

四階建てビルの屋上。そこはみゆきのお気に入りの場所だった。控室でもタバコはすえるのだけれど、みゆきは夜風に吹かれながらタバコを吸うのが好きだった。
「みゆきさん。おっつー」
「岬さん、お疲れさまです」
 岬はビール片手にやってきた。その日の業務は終了だった。すこしづつ紫がかっていた夜空が、明るみをおびている。国の夜明けだ。
「今日は、勝ったんですか?」
「ん? ああ、勝ちましたよ。四千円ほど」
「そうですか」
 太陽が昇ってくる。朝を告げに。その閃光は、ひとびとを街に駆り立てる。夜の深さで生きているひとを置いて。ふたりは酔いはじめたところだ。これから、ようやく彼女たちは生きるためにメシを食らい、寝るのだ。
「みゆきさん。また幸枝に金貸したでしょ?」
「はい」
「正直だねー。みゆきさんは」
 みゆきはウィスキーをのどに通した。焼けるような熱さが、彼女の食道をけがした。
「――わたし、嘘つきですよ」
「え?」
「嘘です」
 岬は一瞬目を丸くしたが、そのあと豪快に笑った。目に涙が浮かぶほど、楽しそうに。それを見て、みゆきは軽く微笑み、太陽にウィスキーの瓶をかざした。それから、もうひと口だけのんだ。ウィスキーの瓶はもう半分はなくなっていて、みさきの胸の前で茶色い海が揺れている。
「面白い言葉のパラドックスっすね」
「受け売りですけどね」
 そのとき、外階段をのぼってくる音がした。カン、カン、カンと。
 あらわれたのは、黒服だった。
「みゆきさん。岬さん。おれ、もう帰りますよ」
 すると、みゆきが言った。
「わたし、まだここでお酒がのみたいので、控室にカギ、置いといてください」
「げ! もうこんな時間か! みゆきさん、あたし帰るわ」
 岬は携帯のディスプレイを見て驚いて、あわててタバコを消し、黒服の横を通って、控室へと入っていった。
「じゃあみゆきさん、カギだけよろしくお願いします」
「はい」
 みゆきは黒服のほうを一瞥することなく返事をして、目を細めて朝日を眺めていた。

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