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コザの夜に抱かれて 第17話

「みんなおつかれーい!」
 良平が来たのは、それから八時間後だった。取引で時間をくったのだろう、岬はそう思った。
「差し入れだよー!」
 両手に大きなスーパーのビニール袋を四個も下げている。新人の娘以外は、みんな良平と顔見知りだったので、みなが良平に群がる。そんな若い子に囲まれ、まんざらでもない表情だった。
「ウェイト! 訳すと待て」
 黄色い声に囲まれた良平は、それをかきわけ、テーブルの上に荷物を置いて、岬とみゆきのところに来た。
「岬ちゃん。これ、たのまれてたやつ」
 そう言って、良平は背負っていたリュックから、すこし大ぶりの紙袋をとりだし、岬に渡した。中身はもちろん。
「すいません。良平さんに頼んじゃって」
「いいのいいの。ゆいまーるだよ。これはみゆきちゃんに」
 そう言うと、良平はカバンからラベルに<瑞泉>と書かれた酒をとり出した。そしてどや顔である。
「イエロー泡盛ですか。いいですね。ありがとうございます」
「で、こいつをさしつさされつ酔っ払いながら、ちょっとふたりだけで話がしたいんだけど……」
 良平は横目で岬をみた。
「なんであたしを見るんですか。いいですよ、どうぞどこかの部屋で」
 その言葉を聴いて、みゆきはすっと立ち上がり良平の手をとって、歩き出した。
「すげー。こうなってんだ」
 はじめてVIPルームに招かれた良平は感嘆の声をあげた。
 天井からぶら下がったシャンデリア。壁も床も肌色の大理石で、シャワールームはすりガラス。キングサイズのベッドに、猫足のバスタブ。そして、棚に入った高級そうなワイン。良平はちょっと自分の買ってきた泡盛をみた。気にせずにいこう。こころの中でそっとつぶやいた。
「座りましょう」
 みゆきにそう言われ、良平はハッとなった。良平が部屋に見とれている間にみゆきは、ベッドの脇にテーブルをよせて、氷とグラスをふたつ。灰皿と水とマドラーを用意していた。
「みゆきちゃんは、この部屋はじめてじゃないんだ」
 良平が腰かけてから、みゆきもゆっくりと腰かけた。
「ええ。何度か」
「どんなひとがくるの?」
「偉いひとです」
 その言葉でなんとなく察した良平は、話し出した。
「実はあるひとからの頼まれごとなんだけど」
「はい」
「ヴェポライザーを使ってマリファナ吸ってたやつがいるのね、おれの友達に」
「医療大麻」
「そうそうそうそう」
 良平はさすがみゆき、と言うように何度も縦にうなずいた。
「ただ、そいつ、のどやっちゃって、煙吸うと今吐いちゃうんだよね」
「なるほど」
 話を聴きつつ、みゆきは泡盛の水割りをふたつ、つくっていた。
「で、だ。みゆきちゃんに<魔女の軟膏>をもう一度つくってほしいなー。ってわけよ。どうかな?」
「……いいですけど、ちょっと、材料が今は手に入らないので」
「さっき、方々に連絡してなんとか集めてきた」
 リュックから、良平は大きなビニール袋をとり出した。すると、みゆきがクスクスと笑った。
「なに?」
「なんでも入ってるんですね、良平さんのリュック」
「あ、あはは。そうだね」
 そう言って、良平は材料のはいった、すこし厚手のビニール袋を渡した。
「計量器も入ってるから」
「わかりました」
「前払いがいい?」
「どちらでも」
 良平がほっとした顔をする。
「よかった。上客を引っぱってきてくれる岬ちゃんが、今動けないからさ、実はそんなに金ないんだ」
 ぼりぼりと、良平はワンブロックにしている髪の、坊主頭の部分をかいた。
 みゆきがそっと、耳元に近づく。ソープのにおいがした。そしてそっとささやいた。
「それで、していかないんですか?」
 この言葉が、良平の中の野獣を目覚めさせた。ふたりはベッドに倒れこんだ。行為が終わって、良平がタバコに火をつけたとき、みゆきはふと窓の外に目をやった。オリオン座が見えた。

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