コザの夜に抱かれて 第16話

 袋を開け、どんぶりにうつす。その上から熱湯をかけ、三分。香ばしい香りがしてきたら、チキンラーメンの完成だ。そのままだとメガネが曇るので、みゆきはメガネを外してすすった。
「あ、なんかみゆきさんがそんなの食べてるのって珍しいっすね」
「そうですね。基本的にここではごはんを食べませんからね」
 そのとき、事務所の電話が鳴った。岬がぼやきながら立ち上がる。
「またタコ社長かな」
 前室では、雀卓の上に人生ゲームをひろげて、なんにんかの風俗嬢が遊んでいた。その他のものは、部屋で寝ていたり、シャワーを浴びていたり、洗濯ものをまわしていたり、おのおの好きなように過ごしている。
 すると、事務所から前室に声が飛んできた。
「みゆきさーん! 良平さんが近くに来てるみたいなんだけど、みゆきさんにおねがいがあるって! どうする?」
「あのひとは信用できるので、通しましょう。着いたら連絡を下さいと、そう伝えておいて下さい」
「ラジャー!」
 みゆきはゆっくりと、ラーメンを食べ終えた。メガネをかけて時計を見る。五分速いその時計はちょうど昼の十二時を指すところだ。みゆきが短い黒髪をかき上げながら、前室にもどってきた。
「なんなんすかね。営業はしてないって言ったら、良平さん、個人的な用事だって言ってましたけど」
「さあ。わたしにもわかりません」
 岬はにやついた。そしてふざけた口調でこう言った。
「わかりました! ほんとはふたりできてるんでしょ?」
「はい」
「え」
 みゆきはその鉄仮面の微笑みで岬をみた。
「嘘です」
「……あーびっくりした。ほんとか嘘かわからなない冗談はやめてください」
「ほんとか嘘かわかるものは冗談とは言いませんよ」
「なるほどっすね」
 勉強になるっす。などと言いつつ、岬はマリファナに火をつけた。独特の葉っぱの香りが漂う。
「岬さーん。回してくださーい」
 人生ゲームで、人生の伴侶を手にして喜んでいた十代の女が岬に声をかけた。
「はいはい」
 するとみな手をとめ、岬の周りに集まって、その葉巻を裂いてつくったブラントを回しはじめた。
 濃厚な煙に巻かれ、みんな飛んだ。みゆきは締め切ったカーテンの隙間から、良平が来ないか見ていた。
 トリップ。とひと口に言っても飛び方は様々だ。笑いが止まらなくなるひと、まったりして口数のすくなくなるひと、食欲が止まらないひと(これをマンチー言う)、いろいろなものに勘ぐり過ぎてびくびくしだすひと、寝るひと。岬はどちらかと言えばまったりとするひとだった。そんな岬の横にみゆきが戻ってきた。
「ああ。みゆきさん」
「どんな感じです?」
「いいですよ。ただちょっとダウナーっすね」
 岬の目は充血している。完全にキマッていた。
「あとどれぐらい残ってるんですか?」
「3グラムくらいっすよ。なので良平さんに頼んどきました。ツケで」
 そうですか。みゆきはタバコに火をつけた。食後の一服は、彼女にはかかせないものになっていた。二本並んだ蛍光灯のうち一本はもう、切れていた。

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