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ペインフル【散文】

 「ひとの痛みをわかるひとになりなさい」ってだれかに言われた。ぼくはすぐに納得した。そんな強いひとに、ぼくはなりたかった。だから、だれかの痛みによりそってきた。家族や友人、恋人に。

 わかるひとになるには経験することがいちばんだと思った。ときに苦境のなかに自らをおいた。

 血だるまになるほどじゃないが、多少の痛みは抱えて生きてきた。ドラッグやバイオレンスだって手を染めた。どっちも痛みに耐え切れずやめた。

 入れ墨、睡眠薬、水。ノートと鉛筆。今のぼくにかかせないのはそれぐらいか。

 自殺したいひとによりそおうとした。気がつくと、自殺しないか心配されている自分がいた。

 死が身近に迫ってくるたび、ぼくは死のとなりにある勇気に腰かけてきた。本土への進学。文章の寄稿。音楽ライブ。祭り。学生運動。ふるさとへの帰郷。大学編入。小説の出版。ラジオ出演。脚本の挑戦。

 あの日から必死に走ってきた。つぎはどんな勇気にたどりつくだろう。ぼくはぎりぎりだが、ぎりぎりな今こそ思うことがある。

 ぼくは、幸せなんじゃないかということだ。

 ぼくは追いかけてくるなにかと、追いかけなくてはいけないなにかが、手をとるのを見た。なら、どんな風に走っても幸せなんだろう。

 ぼくは言いたい。できることなら、今まで出会ったひと全員にあって言いたい。

 ありがとうございます。と。

 ありがとうございます、これがあなたのくれた人生ですと。ぼくは寂しいにんげんだけど、寂しさの中に懐かしさを見出し、おもいっきり泣くことのできるぼくはにんげんですと。幸せですと言いたい。

 そして愛したひとに、今も愛していますよと、高らかには言えないけど、目を見て言いたい。

 まだ、ぼくにはやるべきことがあるみたいだ。

 死なせないよ。

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