すずらん通りでまたあいましょう。【エッセイ】
この街は夜になると染み入る雨のように暗闇がひろがり、それをさけて通るために蛾のようにネオンに狂気する。
赤線ーー。あの時代の残り香は昭和の色香ただよわせ、今はスナック街だ。伝説の店。名物ママ。酒とすこしの肴で寝つけない夜をともに酔い、過ごす。近くのカラオケ喫茶からはうまくもないへたでもない歌謡曲が聴こえる。
ぼくがその街に出入りするようになったのは、志なかばで大学を中退してからだ。いつでもアスファルトは濡れたようにギラリとひかり、赤目のよいどれが集まるおでん屋の角を曲がり、いつもの店。
壁一面に貼られた1ドル札。ベトナムから帰ったら、とりにくるから。そんなことばからはじまった物語。当時激情の雨にうたれたのを覚えている。ぼくの高校3年間をともにしたドル紙幣を貼らせてもらった。まだとりに行くほど、ぼくは戦果をあげられていない。
ここでは国籍も性別も年齢も変わりない。ただ、夜を愉しみたいだけ。吐瀉物をつつくカラスは、最近から見るようになった。ビッグママに挨拶して2件目。地元のラップスターのやってる店は、あいかわらず混雑している。はいるのはよして、一度キャメルのシガーに火をつける。吐き出された煙は分厚い雲に届く前に風になる。
結局、すこし離れた、古馴染みの店に行くことになり、Sがタクシーを手配する。その店でしっぽりとのんで、なんの打ち上げだったかすら忘れれたなら最高だ。
それが、もう2年前になる。あの街は酒がのめなくなってしまったぼくには用事はないし、開いてすらいないが、あの日々を思い出して、みんな元気でやっているのだろうかと思う。そんな感傷、抱きたくもないが、夕暮れがそうさせる。
15年前は、登校前に集まる場所、下校時にタバコを吸う場所だった、あのスナックも名前が変わっていた。
ひとの営み。今日は満月なんだね。それぞれの記憶の中で、すずらん通りであいましょう。
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