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フェーズ01の終わり、そろそろ次の役割へ。#高校日記

都立第一商業高校で学校改革をはじめてから、2年目の後半にさしかかっている。まずは3年間と仮決めしたこのプロジェクトも、あっという間に後半戦になったようだ。

そんな今週、学校改革をすすめてきて、はじめての嬉しい気持ちになった!うまく言葉にできないが、この感覚は二度と味わえない気がしてならない。これまでは課題をクリアしたり、とても嬉しい出来事がおきたり、その一つひとつの「変化」に対する喜びだった。しかしこの感覚は、一言でいえば、はじめて建てた建築物が竣工した建築家のような気持ちだ。

この2年間、ほとんど毎週2日間も1、2年生全学年の授業を届けていて、自分も一つの教室でファシリテーションをしてきている。しかし今週はお客さんの対応をするために、みんなにお願いすることになった。だからすでに始まっている授業に、お客さんをつれて、遅れてゆっくり教室に向かった。いつもは自分が指揮をしてつくっている場を手放して、初めて見る人と一緒に、ぼーっとまずは眺める。学校改革の風景に、その場をつくるつくり手ではなく、その一部として溶け込んでいく。それはいつもとは全く別の役割で、感覚だった。俯瞰すると多くのことに気づく。

そうやって自分から働きかけるというスイッチを切ったまま、ぼーっと眺めていると、さっそく生徒たちから「お、わこさん、やっときた〜」と呼ばれた。AdobeのXDDesignのあのデータがほしいとか、いつなら富士吉田に傘づくりを観に行けるかとか、前髪がハゲてきて困ってるとか、メールを送ってみたら見学に行けることになったとか、色々。
一緒に覗きにきたお客さんも、「一つ前の授業にきてくれたゲストだよ〜」と紹介だけすると、あとはもう勝手に打ち解けていた。

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その時の一枚。この写真を撮りながら初めて思った。
とても、心地よいと。

私たちの存在は、教員免許ももたない学校の「よそ者」だ。
だからいつもない非日常が生まれたり、「今日はなにをするんだろう!」というそわそわが、教室に入るたびに生まれていた。存在だけではなく、授業中に校舎をはなれて街を歩いたり、机をぜんぶ後ろに下げてみたり、クラスを横断させたり、私たちがくる前にはほとんど微動だしなかった教室のレイアウトや学びの空間をがんがん変えてきた。

でも、今週場を手放してみることで初めて感じたのは、とても心地よいということだ。いつもよりちょっと頑張ろうとか、外部の人が来ています、という緊張感がぜんぜんない。「何してるひとなんですか〜」とお客さんにも話しかけて、あっという間に仲良くなっている。
たしかに最近では廊下ですれ違うときも、珍しさというよりも「おでん屋さんのチラシができてきた」とか「前髪切ったね」とか日常ぽく話しかけてくれる。数々の実験を経て、様々な人たちとオープンに学びを進めていくことが特別のことではなく、いわば「当たり前の風景」になっていたのだ。安心安全な日常がここにある。この学校にきたときや、始まったばかりの一年生の状況と比べたら、奇跡みたいなものだと思う。このプロジェクトを存続するかどうかまで悩み果てていた一年目では、全く想像できない風景だ。もちろん全然まだまだ課題だらけではあるけれど。

・・・こうして自分の手をはなれて、その場が生きていく。新しいエネルギーや関係性を持ち込みながら場を設計をすることで、心地よい風景が生まれてくる。初めて自分自身を認められた気持ちになった。5年間自分で組織をつくってやってきたなかで、一度もなかった気持ちだ。
たぶんずっと施工中だったんだと思う。ある時は模型を、ある時は小さなリノベーションを手掛け、だんだん出来ることが増えてきた。で、これが初めての竣工、初めての作品、と言いたい気持ち。これからもっといい作品にしていきたいし、もっともっと新しい風景をつくりたい。これまでの近代にはなかったような学校を、前衛的に。

改めて自分がつくりたいのは、ピカピカの教育コンテンツではなく、場をデザインすることで、個のユニークネスが勝手に開いていく一つの生態系をつくりたいんだと思う。自分たちだけで素材の調達も設計も建築もするのではなく、人を信じ、想定外や操作不可能は存在をそのままに、むしろ生かそうと何ができるかを考えること。
そう考えると、もし本当に少しずつ竣工に向かっているのであれば、こうして自分たちの手でつくることよりも、ここから手放して育てていくほうが難しい。自分という意図で形をつくることよりも、ある意味自分という存在を少しずつむしろ風景の一部にずらしながら育てていくには、他者を信じ、誰よりも自分を信じることが必要だ。相手に手を伸ばすことは、時折上手くいくのか、自立できるか不安で信じれない気持ちがそうさせる時が多いだろうから。限定的な誰かによって作られたコンテンツよりも、手放されたエコシステムのほうが、曖昧だが、複雑で奥が深いと思う。未体験のフェーズ2、格闘しながらその面白さを一つひとつ見つけたいと思います。

2019年12月1日(日)

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