デジタル国家デンマークの"テック・スタートアップ"事情。移住してみて感じたこと【テック・スタートアップ編】
こんにちは。
最近筋トレを頑張っているのですが、オフィスにあるスイーツの誘惑にいつも負けてしまってる、甘党ゴリ芸人wakkiです。
2022年からデンマークの脳科学系のAI会社でエンジニアとして働いており、デンマークに移住してから約9ヶ月が経ちました。(記事のトップ画像は弊社のオフィス。)
デンマークに来る前から"テック/スタートアップ"にのめり込んでおり、以前はシリコンバレーの環境に身をおいてテックやスタートアップ界隈の最新動向を追っていました。
現在は脳科学領域でのスタートアップ創業に向けて、どの場所が良いのかという思いも持ちつつ、デンマーク含むEUのスタートアップエコシステムの調査やテック動向を追っています。
僭越ながら軽く僕の背景を説明させていただくと、
ここデンマークでは、ヘルステック/Lifescience領域向けやスタートアップ/テック向けのミートアップ・イベントに参加しており、徐々にデンマークのテックやスタートアップの現状がわかってきた気がします。
良い部分含め悪い部分含め、今回はその内容をnoteに書き綴りたいと思います。
なお、これらは僕が肌で感じた内容や、人に教えてもらった内容がベースですので、誤ってるかもしれないことをご了承下さい。
デンマークの街・生活編も興味あればご一読ください
ユニコーン企業や著名人はいるも、コミュニティとしてのテックの盛り上がりは低い
デンマーク発のユニコーン企業は16社あり、大手VR/AR会社Unityや大手SaaSのZendeskがそのうちの一つです。また、プログラミング言語の世界でも、PHPやRuby on Rails の著者の一人はデンマーク人のプログラマーです。
ある程度企業や人としてのテックの盛り上がりはあるものの、テックの最先端を追い求めるようなコミュニティの活気はあまり感じられません。
実際のところ、テックに関わる面白そうなイベントやミートアップはほぼ見つかりません。
以前シリコンバレーにいた時は、Eventbriteを開けばAIの最新動向や著名人による講演など、テックの最先端に関連する興味深いイベントが毎日複数開催されていました。
しかし、デンマークでは、TechBBQなどの大規模なカンファレンスが夏に主に行われるものの、テック系の人とのネットワーキングができるようなテックイベントやミートアップはあまり多くありません。
現在注目を集めているLLMなどのイベントも開催されていません。プログラミング言語に関するミートアップにもいくつか参加しましたが、最新のトレンドに追いついておらず、少しオジさん多め、盛り上がりもないといった微妙なものが多かった印象です。
Green tech, Life science 産業などは強い
デンマークと言えば、社会福祉やエコが浸透している国という印象がありますが、その実績は世界的にもトップレベルです。
特にGreentech領域では、1970年代の石油ショック以来、「Green transition」と呼ばれる取り組みが始まり、現在では風力やバイオマスなどの再生可能エネルギーが電力供給の約80%を占めています。
また、Lifescience領域(生物学、医学など)でも、コペンハーゲンを中心に多くの企業が集まり、デンマークから海外へ輸出されるプロダクトの約22%をこの領域のプロダクトが占めています。
この成長を促進している背景としてGreentech やLifescience分野などは政府が特に投資をしている領域であるゆえ、これらの領域のスタートアップは資金援助等を受けやすいという事実があります。
どの分野でも返済不要の補助金(soft-funding)は存在しますが、特にLifescience領域では患者が既にいるなどのトラクションがあれば、政府やその他の機関から返金不要の大規模な資金援助を受けることができます。
日本にも政策金融公庫などの資金援助機関があると思いますが、デンマークはその資金援助の数がもっと多いイメージです。また、殆どのケースで自身の何かを担保にする必要もありません。
起業の失敗にやさしいデンマーク
上記で述べたsoftfundingに関してですが、デンマークのスタートアップは、米国や日本などと異なり、VCや個人投資家だけでなく、softfundingを活用した資金調達も一般的です。2019年の調査データ(https://dtusciencepark.com/news/entrepreneurship-in-denmark/)によると、デンマーク発のdeeptech企業の資金調達元の約43%がsoftfundingによるものだそうです。
デンマークの大学DTUでは、ビジネスとテックに特に力を入れており、スタートアッププログラムが発展しています。具体的には、学生起業を支援するインキュベータ施設はもちろん、プロジェクトごとに最高300万円ほどの返済不要の資金援助を受けれるプログラムも充実しています。
このように、返済不要でリスクの少ないsoftfundingの環境が整っているため、起業のハードルが低く、失敗に対しても柔軟な環境が整っているのです。
医療系には良いスタートアップエコシステム
全体的にデンマークのスタートアップエコシステムは、他国や都市のエコシステムと比べて規模は変わらないか、少し小さいのかなと感じています。
ただし、Lifescienceの領域では、大学、企業、投資家、そして病院との産学連携を促進するエコシステムが多数存在しています。
たとえば、医療用デバイスを開発する場合、研究所の確保、人員の確保、病院との連携、資金調達など、さまざまな要素が必要になると思いますが、デンマークではこれら全てをサポートしてくれるコミュニティやインキュベータといったエコシステムが存在し、研究や医療を基盤にした起業にとって非常に良い環境だと感じました。
そして、そのエコシステムをベースにイベントが多く開催されており、繋がりもできます。デンマークは狭いので、僕はそういったLifescience領域のイベントに行くたびに、同じ人を見かけ、多分相手側からも"調子乗ったアジア系ニューロサイエンスガイ"と記憶され、少し自分のアイデンティティを確立しつつあるところです。
デンマークでの起業に関する個人的な感想
特にGreentech領域やlifescience領域などで起業をするのであれば、デンマークは資金的にもエコシステム的にも大変良い場所かなと思いました。
一方、AIなどのコンピュータサイエンスに関わるテックを使ったスタートアップを起業したいのであれば、もっと良い場所があるのかなと思いました。
僕が今働いている会社では、脳科学を応用したAIのSaaSツールを提供しています。脳科学はlifescience領域の一部ですが、患者等がいる医療サービスではないため、資金援助が多いLifescienceの企業としてのsoftfundingはうけられず、少し資金調達に苦労しているイメージがあります。
僕自身が今考えているビジネスプランも、AIを使った非医療目的の脳科学応用だということもあり、デンマークでの起業は少し違うのかなと思いました。
さいごに
この記事が、テックやスタートアップ好きなデンマーク移住予定者に届いたら嬉しいなと思います。
デンマークは一労働者としては、給料も良いし、労働環境も住み心地も良い場所ですが、テック領域のスタートアップ起業みたいなところでいうとやはり米国や他の国の方が良いのかなと思いました。
ということで、僕自身も来年くらいには場所を変えてまた挑戦しようかと思います。
おわり