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輸入レモンはイヤですか?

輸入柑橘類に使う防かび剤の話は、農薬や添加物批判をしたい人たちの定番です。1970年代に消費者団体などによって不買運動が展開されましたし、とくにレモンは、写真のさわやかさ、スライスして紅茶に入れて飲むと言われて思い浮かべるほっとする光景と、防かび剤というちょっと怖そうな言葉のコントラストがはっきりしていて、好まれる題材ですね。


で、この記事のなにが問題か、というと、「残ってはいけない」「食べてはいけない」にとどまっていて、その先がないこと。

防かび剤は輸入農産物において収穫後に使われるので、日本では農薬としてではなく添加物として安全性評価が行われ、問題がないものが使用を認められています。農産物が袋に入って売られる場合には添加物として袋に表示しなければなりませんし、ばら売りの場合には売り場に掲示されます。チアベンダゾール(TBZ)やオクトフェニルフェノール(OPP)、イマザリルなど見かけたことがあるでしょう。

どれも、1日摂取許容量(ADI)が科学的に決められていて、どの食品に使って良いかルールがあり、各食品における残留基準が定められています。違反はごくわずかで、たとえば2018年の厚労省の輸入食品監視指導結果によれば、農産食品に含まれる添加物については572件を検査して、違反3件。アルゼンチンのレモン(イマザリル0.0066g/kg)とチリのレモン(同0.0059g/kg)、南アフリカのグレープフルーツ(同0.0054g/kg)です。残留基準は5.0ppm(=0.005g/kg)なので、どれも少しだけですが超過してしまい、違反となりました。

とはいえ、イマザリルのADIは0.025mg/kg体重/日。つまり、体重50kgの成人が毎日1.25mgのイマザリルを一生涯食べ続けても影響はありません。違反レモンを1kg食べてもイマザリルの摂取量は0.0066kgでADIにはほど遠いので、レモンを普通に紅茶に入れたりレモンサワーに絞ったりはちみつ漬けにして食べる程度であれば事実上、リスクはありません。

というような計算をしてリスクの大きさを検討せずに、「わざわざ摂取したくないでしょう」と感情に訴えかけるのが記事の論法ですね。

その感情は別に否定するものではありませんが、指南している方法の除去“効果”を考えると、なんだか内容のない記事だなあ、と思ってしまうわけです。

防かび剤をなぜ使うか、というとやっぱり、輸入柑橘類は船で運んでくる間にかびの被害を避けがたいからです。防かび剤を使わなかった場合、日本に持ってきて大量廃棄、そして、もしかするとかびが作った毒性物質による汚染リスクが……と考えると、私自身はきちんと防かび剤を使って運んできてもらいたい。

ちなみに、国産レモンがあるのだから輸入レモンなんて要らない、という声もありあすが、国内の生産量がどの程度か知っていますか? 農水省の平成29年(2017年)産特産果樹生産動態等調査によれば、全国で8259トンです。一方、輸入レモンは財務省の貿易統計によれば2019年、5万4287トン。国産で輸入レモンを代替する、というのは無理ですよ。

もう一つちなみに、ですが、レモンの皮に含まれる化学物質も、レモンの大事な風味のもと。私は、皮もひっくるめて国産、輸入両方のレモンのおいしさを満喫しています。

食品安全委員会のトップページの右、ハザード別情報から添加物の名称で探せます。

厚労省の「平成 29 年度マーケットバスケット方式による 酸化防止剤、防かび剤等の摂取量調査の結果について」です。この調査結果から、一般的な人たちの防かび剤6種の1日摂取量は、ADIの0〜0.0005%程度とみられます。