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【短編小説】ヒエラルキーの牢獄 第4話

 二人は、ハーシーからエリサの職場の詳細を聞きとり、病院を出たその足で、彼女のもとへ向かった。
 電車を乗り継ぎ、最寄駅からさらに20分ほど歩く。二人がようやく記された住所に着いた時には、すっかり日が暮れていた。
 彼女の勤める会社は「エレガントラボ」という美容サプリを取扱う会社のようだ。
 ラボ、というくらいなのだから、大掛かりな施設があるに違いない。そう、テレサは思っていた。
 しかし、周囲には、それらしい建物は見当たらない。目の前にあるのは、2階建ての、こじんまりとした建物だった。
 テレサは、敷地内を覗きこんだ。どうやら、看板の類はないようだ。 
 やはり、住所が間違っていたのだろうか。会社なら、社名の一つくらいは掲げているものだろう。 
 そんな考えを巡らせながら、建物を見つめる。事務所の窓から漏れる明かりに、微かな人影が映っていた。
「とにかく、中の人に聞いてみようよ」
 痺れを切らしたアレンが、入り口の方へと駆けていった。
「待ちなさい」
 テレサが声をかけるが、その時にはもう、アレンの指はインターホンにかかっていた。
 ピンポーン。
 チャイムが鳴り、足音が近づいてきた。ギー、と金具が軋む音と共に、鉄製の扉が開く。
「どちら様?」
 出てきたのは、随分とがたいのいい男だった。190cm近くありそうな長身を、少し屈めて顔を覗かせる。
 面長な顔に、張り付けたような仏頂面。白い開襟シャツを着ているが、そのボタンは第3まで開いている。
 どう見ても、普通のサラリーマンとは思えなかった。二人は委縮し、一瞬固まった。
「何? いたずら?」
 男の切れ長の目が、二人を睨め付ける。テレサは冷や汗を噴き出しながら、慌てて口を開いた。
「こちら、エレガントラボさんですか?」
 男は「そうだけど」と言って頷く。
「私、こちらに勤めているエリサの母です。父親のことで、どうしても伝えたいことがあります。お仕事中に申し訳ありませんが、少し娘と話をさせてもらえませんか?」
 テレサは深々と頭を下げた。男は後ろを振り返り、「エリサ」と声をかけた。
 すると、すぐに小走りの足音が近づいてきた。男は顔を引っ込め、「お袋さんが話したいんだと」と声をかける。
「えっ、母が?」
ドア越しに、驚いた声色が聞こえてきた。
「あんまり長話するなよ」
 男は最後にそう釘を刺し、その場を去った。瞬間、ドアが大きく開き、1人の女性が出てきた。
 そこには、約15年ぶりに見る、娘の成長した姿があった。

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