しののめの空
郵便受けに投函された「コトン」という音で目が覚め、我が家に新聞が配達されたことを知る。布団から出るがおっくうでないのは、ひいきにしている地元サッカークラブが勝ったから。記事が気になり、急いで新聞を取りに行く。
玄関を出て、ふと空を見上げた。凛と張りつめた冷たい空気の中、群青の空が広がっている。闇から光へと移りゆく夜明け前、暁色に染まる「しののめの空」には、ほのかに白い三日月が浮かんでいる。
幻想的でなんと美しい景色だろう。美は決して永遠に続くものではなく、その一瞬一瞬に輝きを放ち、自らの存在を示しているように思われる。
以前の私なら、この美を写真に収めていたかもしれない。でも今は、刻一刻と変化するしののめの美しさをフィルムではなく、脳裏に焼き付けることをむしろ好んでいる。記憶の中にいつまでも、大切に収めておくことができるから。夜明け前のひと時、この景色を独り占めできることは、何事にも代えがたい喜びである。
朝食を済ませ、出勤の支度がととのい再び玄関を出る。すでに朝日が昇り、東の空の景色はすっかり変わっていた。あの美しい姿は、もうそこにはなかった。しののめの美は、永遠でないことを知った。
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