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あの日わかとらは、頭を開いた

 今回のタイトルは、「あの日わかとらは、頭を開いた」です。いったい何が言いたいのか、シャチと全然関係ないじゃないか、と思われる方もいらっしゃるかもしれません。

でも。

実は今回も、シャチとも関係のあるお話です。


おみくじは「病気 医者を必要とする」

話は2019年にさかのぼります。この年は、虫垂炎の手術を受けており、なかなかテンションが上がらない年でした。

そもそも2019年は、年に一回引いている鶴岡八幡宮のおみくじで『病気 医者を必要とする』と書かれており、だいぶ不安な幕開けの年でもありました。

結果として、虫垂炎は、確かに医者を必要とした。おみくじに書いてあったことは、このことだったのか、と自分の中で納得。不安はなくなりました。

ところが。

11月、ひょんなことから受けたMRI検査の結果の画像に、もっと物騒なものが映っていました。

「これは何なんでしょうか…?」と、隣にいた親が訊くと、「腫瘍ですね。小脳脳腫瘍です。」という答えが返ってきました。まあ、「では脳神経外科になりますので、エスカレーターを上がっていただいて…」と案内された時点で、なんとなく、これは何か問題があったのではないか、という不安はありましたが…。

これが10万人に1人とは、運がいいのか悪いのか。

その後は、「ここまで大きいとなると、普通に生活しているのが不思議なくらいですね」「メチオニンペットの検査を」「この検査は、ここではできないので、東京の」「悪性かは取ってみないとわからないですね」「80歳とかだとそのままにすることもありますけど、お子さんはお若いので、手術で取ってしまう方がいいですね」「ええ、じゃあ日程としては12月の…」

淡々と話が進みその結果、東京の病院でさらに細かい検査を受けました。

さらに、最初の脳神経外科の後、腫瘍が大きく、症状がいつでてもおかしくはない、ということから、鴨川シーワールドなどの水族館へ行く計画はすべて中止になりました。シャチをはじめとする動物の行動観察は一番の趣味だったので、なかなかもどかしいですが、腫瘍をさらに放っておくと最終的には死に至ることから、手術日までは家で安静にしていました。


ついに頭を開くことに

12月下旬、ついに腫瘍を摘出する手術を受けることになりました。小脳なので、後頭部のあたりを約13センチ切って、頭を開いて、腫瘍を取り出します。

なんで自分だけがこんなことを受けなくてはならないのか。戸惑い、怒り、悲しみ…。虫垂炎の時もそうでしたが、手術を受ける直前って、存在するマイナスの感情全てが同時に現れるものだと個人的には思うんですよね。そしてその感情も、全身麻酔とともに、すーっと消えていくのです。

次に目が覚めた時には、手術は終わっており、頭がずっしり重く、手首や腕、首から管が繋がっていました。親が撮ってくれた、頭に医療用のホチキスの針がダダダッと留められている写真があるんですが、こういうのはちょっと無理、という方もいらっしゃるかもしれないので、今回は見送りです。

手術が終わったのは午後6時くらい。その夜は、どこからか別の患者さんのうめき声が聞こえたり、機械のアラームの音が鳴り響いていました。「ICU」と呼ばれるところにいたため、夜になっても寝ることができず、何時間もずっと時計を眺めていました。後頭部を切っているので、枕に頭をつけると、かなり痛いです。そして、ずっとそのまま寝ているとよくないのか、足に血圧測定器のようなものが巻かれており、それがパフパフ言うのが気になってしょうがない…。

そんな夜中の、何も考えられない状況の中で、ふと頭に出てきたのは…。

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シャチ。

シャチに会いに行きたい。自分の一番好きな動物、シャチに会いたい。

その思いが、人生の中でも一番強い瞬間であったことは、間違いありません。

人は、何かの目標があると、意外と頑張れるものです。初めはよろけながらしか歩けなかったのも、1日でまっすぐに歩けるようになり、リハビリの自転車みたいなやつを漕ぐのも、階段を登ったり降りたりする動作も、徐々にできるようになりました。

そして、脳神経外科の先生曰はく、「今まで見てきた患者さんの中でも間違いなく一番早い、驚異的です」という回復力を見せ、術後1週間で退院することになりました。この回復力は本当に、自分の中の自慢です!


こうして『病気 医者を必要とする』年は、大みそかのEテレ「年越しをご一緒にスペシャル」を見て、幕を閉じました。


美しさ、信頼、人は感動に涙する

そして年が明けて2020年1月、ついに念願だった退院後初めての鴨川シーワールドへ。

何回も来ている、何回も見ている、シャチのパフォーマンスですが、この日は何かいつもより輝いて見えました。

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この日3回目のパフォーマンスは、「You Raise Me Up」が流れるプログラムでした。後半の盛り上がるこのシーン。(下)

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信頼関係がなければできない大技です。シャチの美しさ、人間との信頼、いつも見ているものよりも、グッとくるものがありました。思えば、身動きできないICUの中でずっと「早くよくなってシャチに会いに行くんだ」という気持ちが、生きる力になっていました。

本当に早く良くなって、本当にシャチに会いに来ることができたこと。喜び、楽しみ、感動…。存在するプラスの感情全てが同時に現れるのは、人生初めてでした。今後はもうないかもしれません。こんな時、人間ってどうなるかというと…。


自然と涙が出てくるものなんです。ほんとに。


今までは、「すげえ!」とか「感動したー!」という感想でした。それが、ついに、声を出さず、ただ涙を流す、こんな日が来るとは…。隣の席の方に見られていたら、変な奴と思われていたかもしれませんが(笑)。


鴨川シーワールドだけでなく、シャチのパフォーマンスは、人間との信頼関係があってこそ、違う種類の動物がここまで心を通わせることができるものなのか、という感動や驚き、サマースプラッシュの衝撃などなど、いろいろなものを、実際にこの目で捉えることで具体的に感じることができると思います。

もちろん「この水槽は狭い」「かわいそう」そう感じるのも、実際に現地に行ってシャチたちを自分の目で捉えることによって具体的なものになるでしょう。

noteやYouTubeを見てくださった方も、ぜひ実際にシャチのパフォーマンスをご覧になってみてはいかがでしょうか?映像だけでは伝わらないものを感じることができると思います。私自身は、現在水族館に動物観察に行くことは自粛するのが妥当という判断をしていますが、またいつかシャチに会いに行く、という思いが強いです。手術直後の時よりも強いかもしれません(笑)。

それではまたお逢いいたしましょう。さようなら。

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