豆柴の大群_クロちゃんはトリックスターだった___物語とアイドルの関係を読み解く_good

豆柴の大群 クロちゃんはトリックスターだった!? ~物語とアイドルの関係を読み解く~

番組「水曜日のダウンタウン」の企画「モンスターアイドル」で誕生した「豆柴の大群」。これは安田大サーカスのクロちゃんがプロデュースするアイドルグループだ。

しかしデビューCD「りスタート」3バージョン(「続行」「解任」「解任&罰」)の各売り上げ枚数でプロデューサーとしての今後が決定することになり、先日の番組SPで「解任&罰バージョン」が最も売り上げ枚数を伸ばす結果となった。

そしてクロちゃんプロデュース時代のオーディションで不合格となった元アイドル候補生のカエデちゃんが豆柴の大群メンバーになることが発表された。


番組の企画を観ていた人はご存じだがクロちゃんがオーディションでカエデちゃんを落としたのは、本気で好きになったから自分の彼女にするためという理由だった。これにはスタジオ出演者も視聴者も衝撃を受けただろう。

その後カエデちゃんとデートをするも当然のようにフラれたクロちゃんだったが、その様子がバラエティ的に最高に面白いフラれ漫談だとスタジオ出演者や視聴者に大ウケした。

さて、こうしたバラエティ番組企画としての面白さもさることながら、こんにちのアイドル売り出し戦略に目を向けるとロケットペンダント、いやロケットスタートとして強烈な印象を残す物語の有効性は今も昔も変わらず大きいことがわかる。

こんにち、日本のアイドルはそのほとんどがグループに所属している。メンバーにはそれぞれ固有の物語があるが広く知られるにはきっかけが要る。パンチの効いた劇的なものであるほど効果的だ。

個々のメンバーの物語を利用する方法はいくつかある。わかりやすいのはAKB48の選抜総選挙だ。ファンの投票でアイドルに順位をつけることによって彼女たちの物語を浮き彫りにするその手法の劇的にする要素が年に一度の明確な順位であった。総選挙という仕組みによってパンチの効いた劇的なきっかけ(チャンス)を作ったわけだ。

では豆柴の大群ではどうだったのか? そのきっかけはもちろん、クロちゃんである。

既に番組の名物企画モンスターシリーズの人気者だったクロちゃんにアイドルをプロデュースさせる。これほどパンチが効いた企画はそうはない。

そしてアイドルが大好きな彼の目的は、
「本気でアイドルグループをつくること」
「本気で彼女をつくること」

プロデューサーという立場上このふたつは相いれないわけだが、当然のようにこれを貫こうとするのはクロちゃんのキャラであり役割でもあったわけだ。

もちろんオーディション参加の女の子たちの願いはひとつ、アイドルになることだからそこにズレと歪が生じ、思惑が交差してドラマができる。

視聴者はその過程をアイドルグループの誕生物語として共有・共感していく。

グループ結成から物語を利用する手法は「モーニング娘。」の誕生をテレビ東京系のオーディション番組「ASAYAN」で放送していたことからも、スタート時に物語をつくることによってロケットペンダント、いやロケットスタートを切るこれはずいぶん以前から定番である。

そんなわけでモンスターアイドル企画は斬新なようでありながらも「物語」を軸に捉えるとひたすら基本に忠実だとわかる。

もちろん、なにより大きな働きをしたのがクロちゃんである。彼は神話や物語でいうところのトリックスターである。これは秩序を破り物語を展開する者であり、いたずら好きで善と悪、破壊と生産、賢者と愚者など異なる二面性を持つとされる。ウォルト・ディズニーの「スティッチ!」がトリックスターの典型だ。

スティッチは可愛いがクロちゃんは……というのはさておき、物語におけるトリックスターの重要性は計り知れない。

アイドルグループという物語においてトリックスターの存在の有無はとても大きい。常に必要というわけではなく、ある時期に登場すればじゅうぶんにその役割を果たす。

豆柴の大群ではスタート時においてはクロちゃんがトリックスターであり、AKB48グループでは第2次ブレイクのきっかけにおいてはさっしー(指原莉乃)がトリックスターであった。

このようにイベントだったり人だったりといった違いはあれど、売れるアイドルグループには物語があり、それが劇的になるような仕掛けがある。

クロちゃんのプロデューサー就任、そして解任&罰。カエデちゃん新メンバーといった流れはシナリオのひとつが思惑通りに運んだという見方もある。仕掛け、伏線を張り、回収してみせる物語構築の手法の一例として、またバラエティとして、音楽として、アイドルとしてじゅうぶんに魅力を発揮した。

オーディション合宿ではクロちゃんの元スパイのアイカちゃんをはじめ、自分に正直にクロちゃんPと向き合えるようになったナオちゃん、そして劇的な展開の担い手となったカエデちゃんなど、各メンバーの物語にもスポットライトが当たった。これにより人間性やキャラを浮き彫りにしてファンの獲得に大きく貢献した。

そして豆柴の大群のプロデュースやマネジメントはBiSHの所属音楽プロダクションとしても知られるWACKであり、そのアイドル運営の手腕には定評がある。今回の水曜日のダウンタウンのモンスターアイドル企画にしても古き定番の物語の手法をきっちり用いつつ、クロちゃんにグループ名を考えさせ作詞をさせるなどして唯一無二のインパクトを打ちだすことにも成功している。

日本の女性アイドル戦国時代真っ只中、ロケットペンダント、いやロケットスタート(しつこい!)において成功を収めた豆柴の大群。トリックスターとしての役割をこれ以上ないほどに果たしたクロちゃんがそういう意味で優秀であったのは間違いない。カエデちゃんが新メンバーとなったこのグループが今度どのような展開と活躍をみせるのか注目である。


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