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一日一鼓【四月の話。】

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夜が来ない街で、青い目の青年と出会った。 でも、彼は本当に存在しているのだろうか?
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四月の話。 - Day1

四月の話。 - Day1

Day1

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スズキ タダシ、29歳。

春。

雨に濡れた桜を踏みつける足取りは

社会人を7年経験した絶妙な貫禄……いや

絶妙な慣れを醸し出していた。

この7年間

それなりに歩んできたつもりだし

それなりに結果を出してきたつもりだし

それなりに人付き合いも上手いほうだったと思う。

そんな“それなり”の30歳男になろうとしていた。

学生時代の友人は結婚、出世、転職、消息不明…と

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四月の話。 - Day2

四月の話。 - Day2

Day2

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世界には、夜が来ない街というものがあるらしい。

地球が傾いた状態で太陽の周りを回っているため起きる現象だという。

年に数ヶ月その現象が続く街の住人を本当はどこか羨ましいく思っていたのかもしれない。

気が付いたら……

(……もしかしたら、焦りとか不安とか熱意とか

    そういう物をどこかに置いてきてしまった時から?)

とにかく、それくらいの頃から

夜が明けなくなった

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四月の話。 - Day3

四月の話。 - Day3

Day3
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フィルムに浮き上がる数秒前の俺は確かに“ぼやっとした顔”を写しているんだけど
想像していたよりも“変な顔”はしていなくて
「あぁこれが考えてる顔なのか」と納得してしまった。
青い目をした彼はフィルムを眺める俺をじっと見つめて
 「自分の顔、初めて見たんだね」
なんて言うから
 「今朝顔洗う時に見たよ」
そう言ったら
 「そうだね。でもきっと、君は初めて自分の顔を見たんだよ」
と、よく

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“あの”四月の話。- Day X

“あの”四月の話。- Day X

もう1ヶ月以上も前のこと。

1ヶ月以上も前のことを、人はどのくらい覚えているだろうか。
いま目の前で本を読んでいるあのおじさんは、
1ヶ月前…正確には「39日前」に誰の本のどんなシーンを読んでいたのか覚えているだろうか。

ベンチで前髪にカーラーをつけるあの女子大生は39日前の“ある明るい時間”に誰とどこにいたのか、覚えているだろうか。

俺は覚えている。はっきりと。

あの日の、あの時の、あの

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