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朝ごはんと見つめ合う

私は「おいしい」「おいしくない」で判断する女だ。

青汁を飲むのは、朝のスキンケアとベランダでのストレッチが終わってからにしている。

こぼさないように流しにガラスのコップを置いて、粉タイプの青汁を出し注ぎ込む。
青汁はガラスのコップで飲みたい。これは個人的な嗜好なのか、多くの人が感じていることなのか。
青汁粉タイプが個包装にしてあるのは日本だけだと思う。

青汁だけではない。日本はほかの飲み物もお菓子も、消費者が飲みやすいように工夫を凝らしていることに、フランスに住んでいたときに気づいた。
フランスのスーパーで買った食べ物はやたら開けづらく、「これ、消費者に食べさせないつもりなのではないだろうか」と真剣に考えたことがある。
ベトナムやフィリピンに短期滞在をしていたときもそうだった。
つまり、食べやすく飲みやすいことを意識して、食べ物や飲み物の入れ物を作っている日本が珍しいのだろう。

そんなことを思いながら、青汁の粉の上から昨晩から冷やしておいたミネラルウォーターを注ぎこむ。
沈殿しないように、水を入れたらすぐに箸でかき混ぜる。
数年青汁を飲み続けて、粉が飛び散ることもなく一日分の青汁を残さずにすべて飲むために、いちばん最適な方法だ。

最近の青汁がおいしくなっているのか、私の舌がもともと青汁と相性が良いのかわからないが、私にとって青汁はとてもおいしく、健康にもいい最高の飲み物だ。
一気に喉に流し込むのはもったいなくて、少しずつ飲む。

その間にトースターでパンを焼く。
「おいしい」「おいしくない」で食事を二分することしかできない私と異なり、パン作りが趣味でグルメな夫は毎日のパンにもこだわりがある。
少しでもふんわりと。
甘くおいしく。
ということで、前に引っ越したときに思い切ってバルミューダのトースターを買った。
「おいしい」「おいしくない」しかわからない私も、最初はトースターによってこんなに味が変わるものかと驚いていたが、最近はバルミューダで焼く食パンが当たり前になり、「ただただおいしい」としか感じなくなってしまった。

「今度はチーズ乗せパンにしてみたいな」と思いつつ、引っ越してから二年以上のあいだ、一度もチーズ乗せパンにしていない。
夫と違って面倒くさがりなのだ。

そんな夫は、いつも深夜までフルリモートで仕事をしている。
朝5時台に目がさめる私とは生活のリズムが異なるため、ゆっくりと動いて音をたてないようにする。

音をたてないようにするゲームは、始めてみると毎朝の楽しみになった。
夫が音に気付いて「うーん」と言ったらゲームオーバーだ。

私は静かに冷蔵庫を開け、おととい作った野菜を茹でた料理(名前はまだない)やゆで卵、クリームチーズを取り出す。
そういえばチーズ乗せパンにしないのにクリームチーズはよく食べている。

まずは野菜だ。
ほうれん草とエノキタケの相性はとてもいい。
おととい作ったものだし、残り少ないし、食べきってもええよねと心の中で夫に確認し、心の中で承認を得て食べきる。
茹でたのは私だが、味付けは夫にまかせている。
「おいしい」「おいしくない」しかわからない私にとって、夫の口に合う料理を夫が作ることは理にかなっていて、しかもおいしいのですぐに食べきってしまう。

ほうれん草の色は、青汁の色と似ていた。

次にゆで卵だ。
ゆで卵は、日本人の食べるものとして意外と伝統があるものなのではないだろうか。
茹で卵に塩をつける派と、何もつけないで食べる派の攻防は今も続いているが、何もつけないで食べる派の私は、早く黄身にたどり着くことを楽しみに白身にかぶりつく。

そして、気がついた。
夫、このゆで卵に塩をふってるわ。

「おいしい」「おいしくない」で食事を判断する私にとって、おいしかったので特に問題ない。
茹で卵に塩をつける派、何もつけない派の攻防。私はあっけなく戦線離脱した。

さて、トーストだ。
「私を食べるために朝があるようなものじゃない?」と朝ごはんの中心に君臨するトーストは、ダイエットも兼ねて、最近バターもマーガリンもジャムもつけずに、そのまま食べている。

きっとトーストは「素材そのままでもおいしいでしょう」と得意げだ。
トーストが入っていた袋をよく見ると、「麦のめぐみ 全粒粉入り食パン」と書かれていた。
私なら安さ重視で普通の食パンを買ってきてしまうのに、こんなところにも夫のこだわりを感じる。

いろいろなところで夫の存在を感じるから、夫は寝ていて私ひとり朝食をとっていても寂しくないのだ。
なんだか良い締めになったぞ、と思ったが、まだクリームチーズが残っていた。

クリームチーズも個包装で、日本のホスピタリティに感謝する。

トーストにバターもマーガリンもジャムもつけなかった私が、朝食の最後だけ自分を甘やかす。
クリームチーズは可愛い四角。
口に入れると溶けるように、私の舌になじむ。

以前は本を読んだり仕事のメールチェックをしたりしながら朝ごはんを食べていたが、それがもったいないと感じて「朝ごはんを食べることに集中する」と決めた自分の判断は正しかった。
食べるものと向き合うと、おいしさやその食べ物の価値が増す。

締めはコーヒー。
ちらっとコーヒーメーカーを見るが、さすがに豆を挽くと音が鳴り夫が起きる。
そうなると夫を起こさないように工夫していた私のゲームも終わってしまう。
しかも私は、おいしいコーヒーを作る才能に恵まれていない。
つまりちょうどいい分量の豆、水の量を確認し、夫がコーヒーメーカーでコーヒーを作ったほうが何倍もおいしいのだ。

夫が起きたらコーヒーが飲める。
今日はブラックで飲もうかな、牛乳を入れようかな。
そんなことを考えながら、私の朝食の時間は終わる。

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ブログで小説バージョンを書きました。

視点が私から朝ごはんに変わっています。




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