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わかおの日記244

ぼくの彼女は慶應で1番人数が多いとされるダンスサークルに入っている。彼女からサークルの飲み会で後輩がゲロを吐いた話とか、合宿で桃色なことがあったらしい話とかを聞かされるたびに、ぼくはそんな別世界が同じ大学にあるのかと、さながら黄金の国ジパング伝説を半信半疑で耳にする中世ヨーロッパの商人みたいな気持ちになっていたのだ。

そして今日はそのサークルのイベントが、新宿FACEというクラブであった。彼女から聞いた話によると、彼女のダンスを見に来た彼氏はお花を持って行くのが筋だということらしく、かわいい彼女に恥はかかせられないので、ちょっとした子供くらいのサイズの花を西武柳沢から持っていった。母親と弟も連れて、一家総出のスタイルだ。

イベントが終わるまで直接彼女には会えないかと思っていたが、そんなことはなく、会場に入る前に会えて、写真も撮れた。彼女の友達もとても優しくて「こっちが背景のほうがいいかも」などと言いながら、何枚も何枚も写真を撮ってくれた。

そしてクラブの中に入ると、そこは演者やら保護者やら友達やらでごった返していて、総じてみな陽のオーラを纏っていた。あちらこちらで繰り広げられている明るい人たちの会話に萎縮しながらドリンクチケットとハイボールを交換し(この間も彼女の知り合い数人に話しかけられて、この時点で去年の7月の女性と喋った回数を上回った)、席に座るとまもなくダンスがはじまった。当たり前だけどクラブだから音がいい。そして選曲もいい。はるか昔に体育館で見たアイドル気取りの高校ダンス部とはレベルが違う。

彼女が出てくるスロージャズのショーケースはだいぶ先だったのだが、その前のダンスを見ているだけでだいぶぼくは涙ぐんでいた。自分が逃した青春がそこにはあった。色とりどりの照明にあたって輝き落ちる爽やかな汗が見えた気がした。ほんとうに自分は人の幸せをまっすぐ祝わずに、自分のことばかり考えて生きてきたのが良くなかったのだ。だからこういう人たちの仲間に自分は入れてもらえなかったんだろうと思った。仲間に入れてもらえなかったという書き方がもうよくない。入れてもらえなかったんじゃなくて、入ろうとしなかったのだ。ラリーテニスサークルをTwitterで見つけたときの嫌悪感のままにその後4年間の大学生活の方針を固めてしまったのが悪かったのだ。

全て我が臆病な自尊心と尊大な羞恥心のせいである。そしてぼくは虎になった。スロージャズが始まるころにはすっかり虎になって、後列でぼくは「ホナミー!!!!」と吠えていた。虎の鳴き声はよく響き、彼女の先輩たちがぼくのほうをチラチラと見ていた。しかし構わない。おれは虎なのだから、、、おれは悲しい虎。盆踊りと阿波踊りしか踊れない虎。ブレイクダンスには縁がなく死んでいく運命の虎なのだ。せめて愛するひとの踊りだけは見届けて死にたかったのだ、、、

そんなふうに青春コンプレックスを拗らせながら、しっかりダンスを楽しみ、なんか運動しないといけない気になってバッティングセンターに寄って帰った。いい経験だった。


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