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磨けば光る、全ての人にチャンスを!

PEPとはなんぞや?

『Second-Chance Entrepreneurship』と名付けられたイベント。テキサスで2004年にスタートしたPEP(刑務所アントレプレナーシッププログラム)のCEOであるBryanさんからのご案内で、ピッチイベントを拝聴する機会を頂きました。


これはテキサスにある服役囚向けプリゾン(刑務所)アントレプレナーシッププログラム卒業生によるピッチイベントなのですが、是非多くの人に知って頂きたくまとめてみました。

このプログラムに入るためには、選抜される必要はありますが、基本的には服役期間が残り3年以内の服役囚に対して募集をし、最終的に選ばれた人が参加の権利を得ます。『選ばれた人だからうまく行っているんではないのか?』という疑問はもちろんあるでしょう。

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3年以内の再犯率比較(緑はプログラム不参加、オレンジは参加グループ)

ところが驚くべきことに、実際選ばれても参加しない人もいるわけで。プログラムに参加した人としなかった人の再犯率の差は前者が8.5%に対し後者が20%(全米の再犯率は50%)。もちろん受講者の選抜はありますが、基本的に本人のやる気次第。例え起業しなかったとしてもその後の人生において、給与、持家率などにおいてアップしているとの結果が出ているのも特徴的でした。

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卒業後の給与や生活水準なと

アーノルドベンチャーのレポートによると、服役囚が社会に復帰する際に44,00のハードルがあるとされているらしく、そんなにあるのか?と自分の無知が恥ずかしくなってしまいましたが。アメリカテキサスの刑務所では、1日分のバス代程度を渡されて出所するとのこと。その後は誰が雇ってくれるわけでも、受け入れてくれるわけでもなく、ホームレスになる場合も多く、再犯に至ってしまうこともあると。このような現状を知らなかった私にとっては、非常にショッキングな内容でした。普通に暮らしていても、いきなりバス代だけ渡されて、『はい、今日から頑張ってやってね』と言われても、どこに行けばいいのか。結局元の環境に戻る人も多くいるでしょう。本人がいる環境を変えることが難しい。それは今回のスピーカーもそう話していたので印象的でした。

何よりこのPEPが特徴的なのは、CEOのBryanを筆頭に、75%が元PEP卒業生=元服役囚であるということ。そして彼らは『自分と同じ道を歩んできたからこそ、話を聞いてくれる。通ってきた道だから。』と。それだけに、PEP受講者の気持ちも分かっているし、何より受講者たちが信頼してくれると。絆もとても強くなるのだそう。

さらに再犯率が下がるだけで無く、経済的な話で言えば、テキサスでのPEPの経済効果は約135億円。プログラムにかかっている費用が約3億円だとのことなので、ざっと45倍ですよ!!これだけの効果がある、ものすごいプログラムが2004年からスタートしていたことに驚きです。そしてその事を自分自身知らなかったのも、アントレプレナーシップ教育に興味を持っているものとしてはお恥ずかしい限りですが。

数字に見るPEP

好調な雇用
PEPの卒業生は、出所後90日以内に100%就職しています。実際、PEPの卒業生の「出所から給料日まで」の平均日数はわずか20日です。2010年5月以降、毎月就職率100%の目標を達成しています。(全米平均は60%6ヶ月経っても就職できていない。)

スモールビジネス形成/インキュベーター
PEPの卒業生が立ち上げたビジネスは500以上にのぼり、そのうち5つは年間総収入が100万ドル(1億円以上)を超えています。

優れた雇用維持
PEPの卒業生のほぼ100%が、12ヶ月後にも就職しています(全国の元犯罪者の失業率が50%近くであるのに対し)。

強い雇用、平均よりも高い初任給
PEP卒業生の平均初任給は時給12.63ドル(最低賃金を68%上回る)。
出所後1年目の平均賃金は17.97ドル、3年目の平均賃金は23.62ドルとなっています。

例外的に低い再犯率
PEPの卒業生の卒業後3年間の再犯率は8.3%と非常に低いです(全米平均は約50%)。

起業率
2004年から2018年の間において、テキサスでの起業率は53%に対してPEP卒業生では57%、Defyベンチャー卒業生の9人に1人が起業しているのに対して、4人に1人が起業しているのが事実です。

PEPの内容

まずは服役囚の対象者1万人に応募用紙を送り、3千人が応募。うち2千人が20ページほどある応募用紙を提出。50ほどのインタビューに答え、最終的には450から500人が参加可能。合計6ヶ月ほどのプログラムに参加。

最初にリーダーシップアカデミーを3ヶ月 20時間、その後ミニMBAプログラムが6ヶ月1000時間実施されます。こちらは高校も出ていない受講者もいる中、大学とも提携した本格的プログラムに参加します。かなりしっかり勉強するので、耐えられるだけの精神も気力も必要とされます。その中には金融リテラシー、雇用ワークショップ、ビジネスエチケット、ピッチの練習であるトーストマスターズ(ピッチ練習の場)などがあり、また、出所してから取り組むであろうビジネスについてプランを練ります。最終的にはビジネスプランコンテストを実施し、卒業式も開催します。その際、家族などにも参加してもらうよう金銭的サポートも実施しており、彼らの変わった姿を見てもらうことを大切にしています。卒業後には住居も用意されていたり、オンラインプログラムなどもあります。

051221PEPご提案

そして広がりをみせる

今となっては、女性服役囚向けのプログラムもでき、全米で多くのプログラムがスタートしています。『革新的な刑務所起業プログラムは、元受刑者に富をもたらし、再犯率を低下させる』としたこちらのブログに詳しい表も載っています。

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ピッチイベントで心に残った言葉

このピッチイベントでは、PEP受講者の中から選抜された3名が登場しているのですが。すでに卒業をして、その事業を実際に実行しているCEOです。このプログラムの特徴は、本当に卒業してから自分がやるであろう事業を扱うというところです。決して華々しいテック系のスタートアップ!ではなく、地に足のついた事業。個人事業主レベルです。そしてこのピッチでは銀行融資の足しになるよう賞金が出るというものでした。

まずはそれぞれピッチ発表の前に、彼らの人生について紹介する短編ビデオがあるのですが、その内容に驚かされます。彼らがいた環境が違えば、これ程までに違いがでるのか?と思うほど。本当に誰か別人の話なのではないかと思ってしまうくらい、しっかりと過去の自分に向き合って話しており、その様子を見て、つい涙が出てくるほどでした。それと同時に、一度罪を犯した人間を、どれ程までに受け入れることが出来るのだろうか?と、自問自答しました。被害を受けた方にしてみたら、どんな気持ちになるのだろう?まだまだわからない事は沢山ありますが、共通して言えることは、彼らが全員元服役囚であるとは誰も思わないほど、堂々とピッチをしていたということ。自信を持って受け答えしている様子は、どこかの有名ビジネススクールを卒業したかのようにしか見えないという迫力で。人というのは、環境でここまで変わるのだと。

PEPに関わる職員の話も印象的でした。彼女は服役経験のない方だったので、まず最初に家族にPEPへの転職を伝えた時には『危険ではないのか?』と言われたと。もちろん怖かったというのが彼女の意見でしたが、その理由が職員の75%がPEP卒業生であることで、彼らの絆が強いことが怖かったと。自分は受け入れられるのか?という怖さがあっただけだと。実際に仕事を始めてみて、家族のように受け入れてくれた、人生の一部であると。

そして、Bryanが言っていた言葉で、とても心に残った言葉があったのでご紹介したいと思います。

I want to be a part of the solution instead of part of the problem.
私は問題の一部ではなく、解決の一部になりたいのです

シンプルな言葉ですが。。。これは本当に元服役囚だからこそ出てくる言葉なのだと思いました。自分が世の中の問題の渦にいたこと。そして今その場所から解決する側にいること。このことが彼ら自身も前に進み続けていられる様子が、このイベントから伝わってきました。また、『どんな問題を解決できるのか?』とよくビジネスコンテストやピッチイベントでは耳にしていたものの、『自分が問題であって、解決になりたい』という彼の考え方に、新しい価値観を見つけたような気持ちになりました。

冒頭の説明では、私たちは皆さんに何かをお願いしているのでは無く、一人の人生が変わっていく様子をみる機会を得ているのだと。皆さんが投資(寄付)したお金で、彼らが大きく成長する姿を見ることができる、そしてもしかしたら自身にも変化が起こる可能性があると。キリスト教の教えに関わる部分もあるとは思いますが、このような考え方はとても共感できました。

そしてこの活動に賛同する方々のおかげで、どんどんPEPが広がりをみせており、HPにも寄付を募るメッセージが掲載されています。

私たちのプログラムを受刑者に届けるためには、個人や企業からの寛大な寄付が必要です。 2017年、PEPは新たに2つの刑務所に進出し、女性向けのプログラムを開始しました。 テキサス州の刑務所から毎年帰還する男女の10%(4,000人)にサービスを提供するという目標に向けて成長を続けるためには、皆様のご支援が必要です。

日本でこのモデルが通用するのか分かりませんが、経済効果があって、再犯率も減っていくのであれば、導入されればいいのではないかと思い、微力ながらお手伝いしたいと思っています。

終わりに

アントレプレナーシップ教育を提供するものとして、これから何ができるのか?自分たちが変えられるものは何なのか?改めて考え直す良い機会を頂きました。CEOのBryanとは引き続き情報交換をさせて頂くつもりですので、またアップデートがありましたら、みなさんにご報告したいと思っています。


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