私をとらえる物語 ~前編~
繰り返し観たくなる映画がある。
仕事の帰り道、友達に会いに行く途中、買い物をしながら。
タイミングは様々だけれど、『ああ、あの映画を観たいな』とふと思う。
けれどほとんどの場合、観ないのだ。不思議なことに。
観たいと思っているその時すでに、もうその物語は私のなかで再生されている。観なくても十分、その映画の中に私はいる。
私の生きる物語は?
櫻本真理さんのnoteで、面白いことが書かれていた。
うちの会社の戦闘系メンバーはダークヒーローものが好きだし、当事者運動系メンバーは反権力を描いた映画が好きだ。好きな映画の構造は、その人が生きている物語の構造とも似ている。
その人が生きている物語の構造。なんとも興味をそそられる言葉だ。
私が生きている物語はどんな構造だろう。好きな映画を振り返れば、わかるだろうか。
まずは洗い出してみたい。
1『Before Sunrise』
リチャード・リンクレイター監督作品。イーサン・ホーク演じるジェシーとジュリー・デルピー演じるセリーヌが列車で出会う。
初対面だが互いに話すのが楽しく、ジェシーの提案で一緒にパリで下車、翌朝の彼のフライト時間まで一緒に過ごすことにする。
三部作になっていて、私はこの『Before Sunrise』と続編『Before Sunset』がとくに好きだ。
Sunriseでは、ジェシーから見るセリーヌ、セリーヌから見るジェシーがそれぞれ可愛らしい。惹かれているのが互いにわかっているけれど、はっきりと伝えるわけでもなく、伝えないでもなく、パリの街を2人で気ままに散策しながら歩き続ける。気ままそうに見えて、タイムリミットが近づいてくるのはわかっている。
とにかく話しながら歩き続ける映画だ。2人の様子をみながら、私は寂しいような満たされるような、不思議な気分になる。こんなふうに会話をしたことを、その後の2人はどんなふうに思い返すのだろう。この2人はどう生きていくのだろうか。
結末を知ってからも何回か観ているが、観る度に会話の細かな声の調子や、相手を見つめる目に宿るちょっとした色がちがって見える。
こぼれ落ちそうでいて妙に残る言葉たちも面白い。
2『イルマーレ』
これは小学校6年生の頃にみて、ずっと好きな映画。今でも1年に1回くらい観ている。
サンドラ・ブロック演じる医師ケイトは、湖畔の家から引っ越し、新しい住人に向けて手紙を出す。
しかしその手紙を受け取ったのは、同じ家にケイトより先に住んでいた、キアヌ・リーブス演じる建築家のアレックスという男性だった。
アレックスと、彼からみて3年後の世界に暮らすケイト。ふたりは時を超えて知り合い、手紙を通して交流するようになる。
晴れた日に、2人で街を散歩するシーンが好きだ。2人でといっても、生身の相手と一緒にいられるわけではない。それでも同じ街をそれぞれの時間の中で歩く。ここがこの映画の裏クライマックスなんじゃないかとさえ思う。
『アバウト・タイム』や『君の名は』もそうだし、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』もそうだ。私が好きな映画には“パラレル・ワールド”や“時空を超える”という要素が入っていることが多い。
想いがルールを超えようとするその様に、惹かれるのかもしれない。
3『マイ・インターン』
言わずとしれた人気作。一時期日本語を一緒に勉強していたベトナム出身の知人も『ああ、The Internでしょ?』とすんなり頷いていた。
もう、ロバート・デニーロ演じるベンがかっこよすぎる。
派手にかっこいいのではなく、その言動にはさりげなく信念が宿り、誠実さがにじみ出ている。
ブルックリンの電話帳会社で勤め上げ、妻に先立たれてから生きがいを探していた彼が、ファッション通販を手がけるベンチャー企業にシニア・インターンとしてやってくることが始まりだ。
アン・ハサウェイ演じる社長ジュールズの専属インターンという名目だが、当初ジュールズは乗り気でない。しかしベンの人柄と仕事に対する姿勢から自分を見つめ直しはじめ、彼に信頼を寄せるようになる。
若い社員たちが影響を受けるばかりでなく、ベン自身も彼らから影響を受けて考えを深めていく。年齢・経験を重ねてもなお学び、行動し続けるベンは私の憧れだ。
4『アバター』
こちらも言わずと知れた人気作。ジェームズ・キャメロン監督作品の壮大なファンタジーだ。
ファンタジー、と言ってしまったけれど、実はそんな気がしない。分断や共生といった言葉で語られるであろう物語。そもそもファンタジーが“現実でないこと”といった意味合いを込められた言葉であるとしたら、『アバター』は正反対という気もする。どこまでも現実的で、どこまでも私たちの業の深さを感じさせる。
最後の『I see you』という台詞が、胸にすっと入り込む。
ああ、そういうことだったんだなと初めて理解する。
大切な存在、理解したい存在に向けて『I see you』と私は言えるだろうか。
生きる物語はまだ見えない
好きな映画をあげれば、思い浮かぶかなと思った「私の生きる物語」。
ほかにも好きな映画はあるが、とくに好きなのはこの4つ。並べるとまた観たくなってしまう。
でもまだ見えない。私が生きる物語はどんな構造なのだろう。
後編では、ほかの映画や本も思い出しつつ、自分が生きている、あるいは支配されている物語があるかどうかじっくり考えてみたい。
読んでくださってありがとうございます!