【掌編小説】嫌なやつ調理法

ストレス発散クッキング

嫌なやつのさっぱりいため

（シェフ）
こんにちは。今日は、日頃わたしたちの周りに存在する嫌なやつと、それによって引き起こされる憂鬱な気分を一緒にさっぱりいためていきます。
蓄積された憎悪と鬱憤を全力投球で食材にぶつけるのがポイントです。

（アシスタント）
よろしくお願いします！

（シェフ）
まず、嫌なやつを一体用意します。嫌なやつの数を絞った方が憎悪をよりに強力にぶつけることができるため、ここは復讐心をぐっとこらえ、とびっきりの嫌なやつをひとり選抜しましょう。

嫌なやつが一体準備できたらさっそく材料を準備していきます。

（アシスタント）
嫌なやつの存在が耐えられないという方は、メを潰してから準備に取りかかるのも良いかもしれませんね！

（シェフ）
そうですね。それでは下準備です。嫌なやつは執拗に絡んでくる場合がほとんどですので、まずは嫌なやつと自分との間にある縁を切っていきます。こうすることによって仕上がりがさっぱりするだけでなく、自分もすっきりとした気分になります。

そうしましたら、嫌なやつをはがきくらいの大きさに切っていきます。

（アシスタント）
ずいぶんざくざくと大きめなんですね。

（シェフ）
しなっとしていて柔らかいのでこのくらいの大きさでも十分仕上がります。

（アシスタント）
嫌なやつには芯がないって事なんですね。

（シェフ）
はい。そうしましたら、次に嫌なやつ特有の抑えきれない自己顕示欲を用意します。今回の料理ではこれがピリっとしたアクセントになるんですよ。行きすぎた自己顕示欲はスパイシーな風味を引き立ててくれるんです。

風味を引き立たせるために、自己顕示欲はうす切りにしていきます。同じように嫌なやつが持っているねじ曲がった性格もうす切りにしていきます。

（アシスタント）
ねじまがった性格は深い苦みを感じさせてくれますよね。

（シェフ）
そうですね。この二つによってスパイシーなゴーヤチャンプルといった雰囲気に仕上げることが出来ます。

それでは、いためていきます。

まずは、ざく切りにした嫌なやつをフライパンに入れます。嫌なやつは生焼けで食べるとおなかを壊してしまうため、強火で4分ほど、じっくりと炒めていきます。炒める際のポイントは嫌なやつをフライパンに押しつけて焼き目をつけたり、たまに裏返してまんべんなく熱を通していくことですね。いかにここで日頃の恨みをぶつけることが出来るかがポイントになってきます。

（アシスタント）
なるほど、ここで恨みをたくさんぶつけることでさっぱりとした仕上がりになるということですね。

（シェフ）
しっかりといためていくことで、嫌なやつ独特のえぐみも飛ばすことができるんですよ。
それではここで、うす切りにした自己顕示欲とねじ曲がった性格をいれていきます。火の強さは強火のままで、じっくりといためつけてやりましょう。

（アシスタント）
いためていく内に嫌なやつもしんなりしてきて、かさが小さくなってきましたね。

（シェフ）
そうですね。ただその見た目に騙されずしっかりと念入りにいためつけていきましょう。嫌なやつとはしぶといものですよ。

ではですね、いためつけている時間を活用してあわせ調味料をつくっていきましょう。

（アシスタント）
はい。嫌なやつから採れる腐った正義を大さじ3、見栄を大さじ1、なけなしの善意を少々いれて混ぜ合わせていきます。嫌なやつの善意は少なめで大丈夫なんですね。

（シェフ）
はい、嫌なやつの中でも一番おいしい部分なんですが、なにせ希少性が高く高価なものなので気持ち程度に入れておくといった感じです。

（アシスタント）
なるほど、嫌なやつの善意って町中で見かける白い鳩くらい見ないですもんね。

（シェフ）
合わせ調味料を入れたら後は混ぜ合わせるだけなので、調味料を入れる前にもう一度しっかりといためていきます。

（アシスタント）
焦げ目がついていておいしそうですね。

（シェフ）
そうですね。ここが憎悪や鬱憤をぶつける最後の調理工程となりますので、しっかりと痛めていきましょう。おすすめなのが、へらを使ってフライパンの底にぎゅぅっと押しつける方法ですね。こうすることによって焦げ目を付けることが出来てしっかりと痛めつけることが出来ます。

そしたら、合わせ調味料をフライパンの中に入れていきます。調味料をいれたら具材と絡めていきます。
では盛り付けていきましょう。

（アシスタント）
強火で痛めつけたことによって嫌なやつもしんなりしておいしそうですね！
では、ここで今回使った材料を紹介します。

材料（2人分）

嫌なやつのさっぱりいため
（エネルギー 18782 kcal ，塩分　過多）

●嫌なやつ（一体）
　・抑えきれない自己顕示欲　・・・　丸々1個
　・ねじ曲がった性格　・・・　採れる分だけ


　★合わせ調味料
　　・見栄　・・・　大さじ1
　　・腐った正義　・・・　大さじ3（扱う際には十分注意しましょう）
　　・なけなしの善意　・・・　少々（希少性が高いため）

（シェフ）
できあがったものは所詮嫌なやつを素材にした料理なので、すべて燃えるゴミにだします。

ゴミ収集車の回収を見送り、燃えさかるゴミに思いをはせたら「嫌なやつのさっぱり痛め」の完成です。