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感想&雑感:『「心」が分かるとモノが売れる』鹿毛康司 (著)

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで。

 今回は、この本の感想&雑感を書いていきたいと思います。ちなみに、この本に関してはnoteさん主催のYouTube配信で著者の鹿毛康司さんとnoteの徳力基彦さんとの対談がありましたので、それも参考にしてみてください。それについての感想noteも書いてみましたので、おまけついでにお読みいただけると嬉しいです(笑)。

1.顧客目線の置き換えとしてのインサイト(心)

 営業やマーケティングに問わず、顧客目線で考えて仕事しろというアドバイスを受けた人がいるかもしれません。顧客目線っていうとなんとなく抽象的な印象を持つワードかもしれませんが、この本を読む過程の中で顧客目線という言葉の行き着く先にあるのはインサイトだと私は思いました。

 インサイトという言葉を直訳すると「洞察」や「物事を見極める力」という意味になり、マーケティングにおいては「人を動かす隠れた心理」「無意識に行動をかき立てる心理」といった意味で使われるそうで、つまり人の心を考えるのがインサイトということになります。このインサイトを考える上で似ているのが行動経済学という学問です。

 従来の経済学が前提としていたのは、「人は利益を最大化するために合理的な行動をとる」ということでしたが、行動経済学は従来の経済学に心理学の知見を用いて人が必ずしも合理的な選択を取るとは限らないよね?という研究をしていく学問領域です。

タイトルなし

 上記の図は実際に本書で使われていた図を書いてみたものとなります。脳科学の知見によると、人間の思考や行動は5%のニーズ(顕在意識)と95%のインサイト(潜在意識)から成り立つと言われているそうです。つまり、顧客が消費行動を選択する上で合理的な側面(顕在意識)はごくわずかで、顧客の心の奥底に眠るインサイトを見極める事が大切であることがよく分かり、顧客目線という言葉をインサイト(心)に置き換えてみるともしかしたら腹落ちするほど納得できる可能性があると私は思います。

2.コロナ×「心」のマーケティング

 新型コロナウイルスをはじめとした社会を一変とさせる未曽有の危機において、企業がどういう経営活動を選択していくかというのはすごく大変だと思います。第2章で著者の鹿毛氏が携わった事例を挙げていますが、ここでは著者の鹿毛氏の代名詞でもあるエステーで考えてみたいと思います。

 コロナ渦において、除菌をキーワードにするのはCMの有効策として恐らく皆さんも思いつくかもしれません。しかし、有事の時ほど人の心は敏感になるため例え除菌をキーワードにして訴求したとしても短期的にはプラスかもしれませんが、中長期的に見て法人としてエステーが有事に便乗して儲けようとしているという見られ方をされるというリスクをはらんでいます。だからこそ、単に便益(ベネフィット)だけに囚われるのではなく、人(法人)としてどう寄り添っていくか?という広告クリエイティブが求められると著者は語っています。その結果として生まれたのがこのCMです。

 空気を変えるぞ

 当時は新型コロナウイルスに伴う行動制限が要請とはいえ発令され、社会が物凄く閉塞感に包まれていました。それをエステーの主力商品である消臭力の特徴である臭いを変えるに繋げて空気を変えるぞというメッセージに繋げたCMとなりました。

 感染症(新型コロナウイルス)の拡大を防止する上では人との接触を控えるというのは論理的には正しいのかもしれませんしそれが正義としてまかり通る可能性があるのが社会です。しかしその正義に対して心の奥底では仕方ないなと思いつつも、それに疑いを覚える事なく素直に受け入れるのではなくて、疑いの目を向けてみる事は有事における人の心の揺れ動きを把握する上では有効だと著者は唱えています。

3.インサイトを鍛える消費者目線

 社会人の皆さんは何某かの形で価値を提供する生産者である以前に1人の消費者でもあります。消費者が行動を選択するインサイトの重要なポイントは無意識と言われていて、それを理解するためのトレーニングとして著者は本書内で次のステップを提唱しています。

ステップ1:行動を見つめる「眼力」を鍛える

ステップ2:自分の「感情」「意識」に潜む心を見つける

ステップ3:心のフタを開ける力をつける

 まずはステップ1で自分自身が1日の中で行ってきた行動の事実だけをピックアップして一定の文字数で言語化をしていきます。言語化することで、行動の中に不可解な部分がありそれが無意識からきているのでは?と思う事ができます。ステップ1で行動を丁寧に拾い上げる事ができたら、ステップ2で自分が今当たり前に解釈していることをリセットして、感情・意識に潜む心を理解していきます。例えば「イラッ」という感情が生まれたとしましょう。この「イラッ」という感情が大きく動いた瞬間,似たような感情を感じた経験,「イラッ」という感情が湧き上がった時の自分を動物に例えるといった形で潜在意識としての感情を顕在意識に変えていきます。そして、ステップ3で無意識のうちに塞いでいる心のフタを開けていきます。心のフタを開ける上では、その人が弱みと想っている部分やダークサイドとしている部分があり、著者はこれを「心のパンツ」と本書内で読んでいます。つまり、「心のパンツ」を脱ぎ捨ている事で顧客の心を深く探る事が出来ます。

 自己分析というと聞こえは良いかもしれませんが、この一連の流れは自己分析として浸透している手法のように容易くできるとは思えないのが正直な印象ではありますが、これを形として浸透していく事で自分自身のインサイトを知り、それが消費者のインサイトを理解していく土台になっていく可能性はあると私は思いました。

4.「機能」を超越する「心」

 エステーの主力商品にムシューダという防虫剤があります。衣類の防虫剤として皆さんも使用したことがあると思いますが、昔は世帯毎にタンスがあり衣替えの時期を迎えたら季節外れの洋服をタンスに閉まってその間洋服の虫食いを防ぐ意味合いで防虫剤を使うというケースが多く、エステーも過去の防虫剤商品においてはそこに価値を置いて訴求を図ろうとしていたそうです。しかし、ファストファッションをはじめとして安価に洋服を買えるようになり季節毎に洋服を買い替える消費の仕方になっていく過程で、消費者にとって防虫剤の存在意義がそんなに大きくなくなっていった中で、著者がエステーと友好関係にあるフマキラーの研究所へ訪問した際に、「ゴキブリは悪い菌を持っていないよ」と説明を受けて、頭では理解していたとしても恐怖が先だってしまったという経験から、ムシューダを単に虫を寄せ付けない防虫剤としての機能にフォーカスを当てるのではなく、そもそも虫がいなければ虫食いを気にせず安心だよね!という価値観にフォーカス当てた結果として、次のCMが生まれました。

 そして、エステーには同じ防虫という機能を持った米唐番という商品があります。文字通り米びつに米唐番を入れておくだけで、米びつ内の米を食い荒らすコクゾウムシを寄せ付けないという物です。商品の評判としては簡単でお米に臭いが付かずムシの悩みから解放されたという事で、機能としての側面で見たら上々でした。しかし、米びつというニッチなところ専用のこの商品を大ヒットさせる上では訴求させるポイントとしては物足りませんでした。そこで目を付けたのは生活全般という視野でした。

 何気ない日常会話の中から、食べ物を腐らせてしまったり虫が湧いてしまって申し訳ない・もったいないという気持ちを幼少期に親や祖父母から「お百姓さんが作った大切なお米なんだから、ご飯粒を残さないように食べなさい」と教えられてきたことと紐づけて、伝統・文化を守ろうという壮大そうに見えるけれどもお米が持つ神聖な要素と繋がるとして訴求していきました。ちなにみ、エステーの公式YouTubeアカウントに挙がっている米唐番のCMが↓となります。

 どんな商品でも、一見して合理的に買っているように見えて知らず知らずの内に心で買っているという事実があり、商品の「機能」だけにフォーカスを当てるのではなく消費者の「心」にもフォーカスを当てる事で、機能以上の価値を宣伝することが出来るという点で「心」の大切さが如実に伝わってきます。

5.終わりに

 今回はここで筆を置きますが、企業理念をはじめとした企業としての「心」や「心」を大切にしたコミュニケーションをはじめとした、企業(生産者)と消費者の間におけるマーケティングだけに留まるのではなく、これを例えば採用という文脈に置き換えて考えてみるという事をはじめとした物凄く応用の効く「心」にフォーカスを当てた考え方は物凄く勉強になりました。

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