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感想&雑感『「言葉」が暴走する時代の処世術』山極 寿一・太田 光:著

 どうも!おはようございますからこんばんわ!まで

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 今回はゴリラ研究の第一人者で霊長類学者の山極寿一先生と爆笑問題太田光さんの共著『「言葉」が暴走する時代の処世術』を題材にして書いてみたいと思います。

1.言葉は技術

 日本語・英語・中国語問わず、人間が普段発する言葉というものは7万年前に人間が編み出した技術であり、新しい技術はジャンル問わず使いたい衝動に駆られるのが人間の性であり、その技術が人々に幸福をもたらす半面その技術無しでは生きていくのが難しいという不幸をもたらすという事を本書内で指摘されています。

 ノンバーバールコミュニケーションというものがあります。簡単に言うと、言語以外の手法(表情や香り等)でコミュニケーションを取ることなのですが、山極先生が研究対象としていたゴリラや人間の歴史における一番はじめの人がいたと言われる原始時代のネアンデルタール人といった辺りの人は言葉を使わずともコミュニケーションを取れていたのかもしれません。しかし、これに言葉を介することで分かりやすくかつはっきりと伝わる手法として開発されたのかもしれません。

 そして、この言葉は時として時空を超える事ができる手法でもあります。例えば就活や転職の面接の場において、あなたがこれまでに頑張ってきたこと的な質問をされたこと(求職者目線)・したこと(採用担当者目線)があるかもしれません。他者の頑張った事というのは他者しか本来は知りませんが、これを言葉として表現をするという事その人が頑張ったことを疑似体験できる手法でもあり、言葉というものが人々のコミュニケーションにおいて技術として渡っていることがよく分かります。

2.コミュ障という言葉の罪深さ

 一方で、技術としての言葉を用いたコミュニケーションは短時間と伝わりやすさという二つの価値基準を神聖化した結果としてそれができない人はコミュ障と断罪される傾向にあります。

20200902日経新聞

 2020年9月2日の日経新聞で採用学で有名な神戸大学服部泰宏准教授がオンライン面接へのシフトにより失われつつある冗長性について書いた記事になります。冗長性とは簡単に言うと偶発性を意味しています。例えば、面接やアイスブレーキングを通じて求職者を理解したり、合同企業説明会でたまたま立ち寄った企業の採用担当者と意気投合してその流れで採用内定に至ったみたいなことです。

 短時間で伝わりやすいという事に価値を置いたコミュニケーションは、スティーブジョブスやソフトバンクの孫正義氏やホリエモンをはじめとしたカリスマと呼ばれる人達に特徴的な勝敗のためのコミュニケーションとして見たら分かりやすいですが、これが相手を理解するという側面に置き換えてみた場合において伝わって当然という固定観念から齟齬が生じ時として憎悪のようなネガティブな感情を生み出してしまう事があります。そしてこれを就活や転職における企業選びの過程におけるコミュニケーションに置き換えると、見た目を違和感なく取り繕えばOKという結果に繋がっているのではないか?と思う側面があります。

 本書の中で、山極先生と太田さんが共通で述べていたのが伝えようとするより分かろうとすることです。産まれたての赤ちゃんは言葉を話すことはできません。だけど、親は赤ちゃんが何を欲しているのか?何をしてほしいのか?という事を理解しようとします。つまり、前提条件が違う者同士が言葉という技術を介してコミュニケーションを図る上では伝えようというところに重きを置くのではなく、相手が伝えようとしていることを分かろうとする姿勢が大切でありこれを貫き通せば一般的にコミュ障と呼ばれる人も本当はコミュ障ではないという事です。

3.最後に

 言葉には色んな顔があり、一方通行で使用する言葉は時として人を追い詰めて自殺へ追い込んでしまう可能性があります。一方で、言葉という技術を用いたコミュニケーションは重層的で例えばという言葉に富士山や岩手山といった意味を持っていたり、試合の流れにおける山場を迎えたというような意味を持っていたり等色んな切り口があります。

 新型コロナウイルスにより、コミュニケーションの手法が拡大する中だからこそ、今一度言葉という技術が人間社会においてもたらすか?功罪やそれとどのように向き合って言葉を使用するか?といった事を考えるきっかけとして、本書を読んでみる事をお勧めしますし、人間社会が持ちつ持たれつという関係性で成り立っているという部分にフォーカスを当ててみると、コミュ障なんて言葉はあり得ないんだなというのを学びました。

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