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【No.12 陸上短距離走選手において大腿部の筋の大きさに性差はあるか?】

<背景・目的> 
これまでに多くの研究が下肢の筋量とスプリントパフォーマンスの関連性について調べてきたものの,女性を対象とした研究は少ない.そこで本研究では,陸上競技短距離走選手を対象とし,大腿部の筋体積とスプリントパフォーマンスにおける男女差について検討した.

<方法> 
・対象者 
陸上競技短距離走選手(国内レベル, 100 m-400 m専門, 競技歴: 4年以上)
男性9名(年齢: 23.3±1.7歳,体重: 73.8±8.6 kg,身長: 180.0±7.3 cm)
女性8名(年齢: 23.9±5.3歳,体重: 57.0±6.9 kg,身長: 163.3±7.9 cm)

・測定および分析 
MRI装置を用いて,大腿四頭筋(大腿直筋,外側広筋,中間広筋,内側広筋),ハムストリングス(大腿二頭筋,半腱様筋,半膜様筋),内転筋群(恥骨筋,長内転筋,短内転筋,大内転筋,薄筋)の体積を測定.体格の影響を考慮し,身長×身体質量 で標準化.最大努力による40 m走と80 m走の記録を測定.

<結果> 
・大腿部の筋体積における男女差
標準化したハムストリングスの体積は,男性が女性よりも有意に大きかった(13.5%,P=0.021).
✓標準化した大腿四頭筋及び内転筋群の体積に有意な男女差は認められなかった(大腿四頭筋:10.8%,P=0.09 内転筋群:9.8%,P=0.11).

・スプリントパフォーマンスにおける男女差
✓40 m走と80 m走のいずれにおいても,男性が女性よりも有意に速かった(40 m走:14%,P<0.001 80 m走:15%,P<0.001).

・大腿部の筋体積とスプリントパフォーマンスの相関分析(男女含む)
標準化したハムストリングスの体積とスプリントパフォーマンス(40 m走及び80 m走のタイム)との間に強い相関関係が認められた(40 m走:r=−0.647,P<0.01 80 m走:r=−0.685,P<0.01).
標準化した内転筋群の体積とスプリントパフォーマンス(40m走及び80m走のタイム)との間に中程度の相関関係が認められた(40 m走:r=−0.514,P=0.035 80 m走:r=−0.530,P=0.029).
✓標準化した大腿四頭筋の体積とスプリントパフォーマンスとの間に有意な相関関係は認められなかった
(r=−0.401-0.391,P=0.286) .

<考察> 
陸上競技短距離走選手において,体格の影響を考慮しても,ハムストリングスの筋体積に有意な男女差が認められた.また,ハムストリングスの筋体積とスプリントパフォーマンスとの間には強い相関関係が認められた.これは,大きなハムストリングスを持つことが,最大走速度に影響することを示唆している.

<結論>
陸上競技の短距離走選手では,男性が女性よりも大きなハムストリングスを持ち,スプリントパフォーマンスにも顕著な男女差がある.

<文献情報> 
Nuell et al. Sex differences in thigh muscle volumes, sprint performance and mechanical properties in national-level sprinters.
PLOS ONE, 2019
http://doi.org/10.1371/journal.pone.0224862