日本庭園から見る中国文化①~水の景~
(構成・文:田中昭三)
曲線の池
庭園に大きな池を造り、島を築く。この庭の定型は中国古代の秦・漢時代に始まり、そのまま日本に伝わった。
ここでは池の形に注目したい。日本庭園の池はほとんどが曲線状である。曲線化はすでに飛鳥・奈良時代に始まり、時代とともに複雑になった。出島(池に突き出した半島)が多く、庭全体に遠近感をもたらしている。
曲線は柔らかな印象を与える。絵画にたとえれば大和絵風ともいえる。なぜ日本庭園の池は曲線主体なのか。それは日本列島の地形によるであろうし、曲線それ自体が日本人の美意識に適合しているのかも知れない。
▲二条城二の丸庭園(京都市)。松の刈込みも曲線を強調している二条城之丸庭园(京都市)。
直線の池
一方古代エジプトに始まる西アジアやヨーロッパ庭園の池は、直線が主体となる。特にイスラム庭園では、池といえば方形である。
彼らにとって水ほど得難く貴重なものはない。水を支配すること(その後は石油であろうか)は、その地域を支配することだ。方形の池は、権力を手中にした象徴でもある。
では中国庭園はどうだろうか。蘇州の庭を見ると、「平台」などの建物の一部が池にせり出し、直線を強調する。中国の庭では直線と曲線、その両者が巧みに溶け込んでいるのだ。
▲中国蘇州の留園。直線状の平台が池にせり出している(写真:田中昭三)
▲蘇州網師園、月到風来亭と廊下の曲線が特徴的(写真:田中昭三)池の汀に小さな石を敷き詰めた景観を「洲浜」という。平城宮の東院庭園に見られるように、日本庭園では飛鳥・奈良時代からこの手法を好んできた。曲水の庭もこの洲浜の技法を使っている。洲浜は池の汀だけではなく、水の景観も美くし見せるはたらきをする。
洲浜
池の汀と水をきれいに見せる
池の汀に小さな石を敷き詰めた景観を「洲浜」という。平城宮の東院庭園に見られるように、日本庭園では飛鳥・奈良時代からこの手法を好んできた。曲水の庭もこの洲浜の技法を使っている。洲浜は池の汀だけではなく、水の景観も美くし見せるはたらきをする。
平泉の毛越寺庭園の洲浜は規模が大きく、引き潮の干潟の表現とされている。京都仙洞御所の洲浜は、曲線の美しさが目を見張るばかりである。そこに使われている石にも注目したい。
ほぼ同じ大きさで、拾ってきた農民に石ひとつを米一升で交換したとされる。小田原藩の献上で「小田原の一升石」とよばれた。
中国では洛陽市の「唐洛陽城上陽宮園林遺跡」から小円礫(小さな円い石)を敷き詰めた斜面が発掘されている。それが日本の洲浜と結びつくかどうかはまだ分からない。いずれにしろ洲浜は日本人の感性に合ったのか、江戸時代以降の庭にも使われている。
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