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自殺志願者?それともイタズラ?新宿駅で紙切れ1枚を手に、助けを求めていた男性

「困っている人が近くにいたら、手を差し伸べるべきである」

子どもの頃から、私たちはそれが【正しいこと】だと教育されてきました。しかし、実際に目の前に何らかのトラブルを抱えている人が現れた時、果たして何ができるのでしょうか?

私は2020年の1月、東京の新宿駅の近くである男性と出会いました。その時、自分の取った行動は正しかったのか?本当なら、どうするべきだったのか?

そんな自問自答が今でも続いているので、当時のことを振り返りながら書いていきたいと思います。

​ただ一言、「助けて」と書かれた紙を手にした男性

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(Photo by 写真AC

2020年の1月、私はちょっとした用事があって新宿に出かけました。正確な日付は忘れてしまいましたが、土曜日だった気がします。

ちょうど昼時だったのですが新宿駅南口を出たところで、私はメガネをかけた30~40代の男性がガードレールを背に路上に立ち尽くしているのを見つけました。場所はちょうど、この画像の黄色い丸で囲んだ位置周辺だったのを覚えています。

両手でA4程度の大きさの紙切れを掲げていたので、何だろう?と不思議に思って見てみると、赤いボールペンで書いたような細い文字で「助けて」と一言だけ書かれているのが目に入りました。

雑踏のなかで誰も立ち止まらない

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(Photo by ぱくたそ)

往来はいつも通り人でごった返していましたが、誰もが雑踏の中にいる彼を素通りし、道を急いでいました。もしかしたら「関わりたくない」「誰かが助けるでしょ」と思っていたのかもしれませんが、それ以前の問題だったのではないか?という気もします。

というのもその日はとても晴れていましたが、ちょうど逆光になって彼の持つ紙切れに書かれた細い文字は、気をつけて見ないと読めそうにありませんでした。そして、彼も声を発することなく無言で立ち尽くしているだけだったので、気づいていない人も多かったでしょう。

会釈されたものの、声をかけられず

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(Photo by ぱくたそ)

視線に気づいたのか、男性は気まずそうな表情を浮かべたまま、私に向かって何度か会釈をしてきました。しかし、私はどうしてもその場を動くことができませんでした。

心の中では、「どうしたんですか?」「大丈夫ですか?」と彼に声をかけるべきではないか…と何度も考えたのです。しかし、知らん顔をして立ち去ることはもちろん、男性に近づくこともできないまま時間だけが過ぎていきました。

1月6日に起きた「首吊り自殺事件」

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(Photo by pixabay)

ちょうどこの日の数日前、私の職場ではある話題で持ち切りになっていました。1月6日の白昼に起きた、首吊り自殺事件です。

これは「新宿駅南口にあるミロード陸橋(サザンテラスとミロードを結ぶ陸橋)で、若い男性が公衆の面前で堂々と首を吊った」という衝撃的な内容で、Twitterでもトレンド入りする程の大騒ぎになりました。

ちょうど事件現場にも近い場所で、お昼時…ということもあって、私は「黙って放置したら、目の前にいるこの男性も自殺してしまうのではないか?」という強い不安を覚えました。

途中で手を離す方が残酷

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(Photo by pixabay)

しかし、それでも声をかけられなかったのは、一応理由がありました。途中で手を離す方が残酷だと思ったからです。「どうしましたか?」「大丈夫ですか?」そうやって声をかけ、尋ねること自体はカンタンです。

しかし、もし私が手に負えないような問題だったら、どうでしょうか?当然ですが、途中で手を離さざるを得ません。しかし、誰かに声をかけてもらい、「これで助かるかもしれない!」と期待に胸を膨らませていた時に手を離されたら、その人は余計に追い詰められてしまうでしょう。

特に、孤独を感じている時に異性から優しくされてしまうと、相手に恋をしてしまうことだってあり得ます。

金の無心だったら応えられない

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(Photo by ぱくたそ)

それに、もし「失業して今月の家賃が払えない」など、お金の無心だったらどうでしょうか?私も仕事はしていますが余裕はなく、毎月2~3種類の仕事を掛け持ちしてやっと生活しているような状態です。

そんな時に、「家賃が払えないから寄付してほしい」あるいは「今後の生活が不安だから、しばらく面倒を見てほしい」などと言われてしまったら、断ることしかできません。むやみに接点を作ること自体、期待させることにつながるので良くないのではないか…と思ってしまいました。

そもそも「何をどうして欲しいのか」が不明

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(Photo by pixabay)

何より、「助けて」だけでは何をどうして欲しいのか、具体的な情報が伝わってきません。お金を恵んでほしいのか?孤独を感じているから、友達になってほしいのか?体もしくは精神面で不調を抱えているから、どうにかしてほしいのか?せめてそれだけでも書いてくれれば、声をかけることができたかもしれません。

もし、イタズラだったら…?

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(Photo by ぱくたそ)

もう1つ浮かんだのが、この説です。仮にですが、彼がYouTuberか何かだったら、どうでしょう?そして、「先日起きた首吊り自殺の現場付近で助けを求めたら、どうなるか検証してみた」という動画の企画でも立てて撮影に及んでいたとしたら…?

近くにカメラは見当たりませんでしたが、どこか目立たない場所に隠しているかもしれません。それに、離れた場所に仲間がいる可能性だってあります。

もし、ネタ動画の撮影だったとしたら、マジメに取り合う方が馬鹿げています。関わったら最後、私の間抜けな姿が全世界に向けて配信されてしまうでしょう。

迷った挙句、警察へ通報

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(Photo by ぱくたそ)

どうしたものか迷った挙句、私は警察へ通報することにしました。Googleで新宿駅近辺の交番を検索し、そこに電話をかけたのです。

「もしもし、警察ですけど」

「道端で様子のおかしい男性がいるので、保護してもらえないでしょうか?」

場所と状況を聞かれたので詳しく説明したのですが、警察からの回答は以下のようなものでした。

「倒れているわけじゃなくて意識もしっかりあるようだし、騒いで暴れまわっているわけでもないので、それでは保護の対象にはなりませんね」

「では、自殺するかもしれないので、「どうしたの?」と声をかけるだけでもお願いできませんか?」

なおも言い募る私に、警察も一応は来訪をOKしてくれました。しかし、「場所的にビミョーなので、違う交番の者が行くかもしれません」とのことでした。

遅すぎた来訪

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(Photo by ぱくたそ)

それからしばらく、私は警察官が来るのをその場で待ちました。来てもらった時に、「あの人です」と知らせた方が、スムーズに事が運ぶと思ったからです。

しかし、警察官を待っているその間に、思いがけないことが起きました。男性がその場を立ち去ってしまったのです!誰も声をかけてこないことに、疲れてしまったのでしょうか?

何かを諦めたような顔をした彼は静かに歩みを進め、『バスタ新宿』脇の階段を上って駅に向かって行ってしまいました。

警察官が現場に来たのは、それから数分後。結局、彼が何をしたかったのか?何に対する助けを求めていたのか?何も分からないまま、それきりになってしまいました。

いざという時、何ができるのか?

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(Photo by ぱくたそ)

誰に責められたわけでもありませんが、私はこの時の事をかなり長く引きずってしまいました。

「あの時、声をかけていれば」「もっと早く、警察を呼んでいたら」といった後悔もあれば、少なくとも警察は呼んだのだから、現場に来るまでの間だけでも声をかけて引き留めることに成功すれば…という気持ちにもなりました。

しかし、いざという時に何ができるのか?ということは、その場にならないと分からないものです。慣れない状況下でいかに判断し、どう動くのか?それが、その人の持つ度量と言えるかもしれません。




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