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【みみみの映画記録①】教育施設としての図書館「ニューヨーク公共図書館―エクス・リブリス」

音楽なし。ナレーションなし。テロップすら、なし。
出だしはいきなり「無神論者」と「寄付」の話で、一瞬何かの予告編でも流れているのかと勘違いさせられる。作り手からは何の説明もなく、この映画は始まる。そしてそのまま約3時間半、「説明なんかない方が良いんだ」と言わんばかりに映画は続き、終わっていく。

フレデリック・ワイズマン監督「ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス」は、そんな超硬派なドキュメンタリー映画である。

この映画を教えてくれたのはゼミの先生だった。
大学で教育学を専攻している私(みみみ)は、いろいろと縁があって社会教育ゼミに参加している。そこの先生が「私たちみたいに社会教育が大好きで仕方のない人間なら、絶対に観に行く映画があってね?」なんて言いながら教えてくれたのが、この「ニューヨーク公共図書館」という映画だった。

正直3時間半の映画とあって、見るまでになかなか気持ちの踏ん切りはつかなかったし(私は90分映画が好きだ)、見始めたらいきなりよく分からないシーンから始まるしで「不親切な映画やなー!」などと思ったりした。私が一番好きなのは、効果音や音楽でばーっと盛り上げてくれる映画なので、これは真逆である。
が、逆に「最後まで観て読み解いてやる」みたいな気持ちになってきて、ひとまず1時間はちゃんと座って観ることにした。

いや、ほんとうに面白くて結局最後まで観てしまった。

中身はニューヨークにある公共図書館とその分館で行われる事業、そしてその舞台裏となるスタッフミーティングを、ただただ180分映し続けるだけ。なのに、やることなすこと「これホンマに図書館のやることか!?」という感じで、とにかく衝撃を受けるのだ。
聴覚障害者が観劇するための手話ボランティア育成、就職支援では実際に企業と話せるスペースを作り、Wi-Fi貸し出しに大量の講座・講演会、演奏会、目の不自由な人たちへの住宅案内まで行い、人種差別やホームレス問題にまで対応する。
ここだけで1つの自治体では?と思うような仕事ぶり。圧巻!!

さて、そんな素晴らしい図書館で働く職員の方々が口にする言葉も、まさに金言ばかりである。
図書館を単なる書庫から教育施設に
未来に図書館は不要だと言われた。でもそんなことはない
ホームレスに関しては文化の問題がある。規則は(厳しくしたり)どうにでもできるが、それだけでは解決しない。図書館利用者同士の共存について考えなければ
人気を取るか、使命を取るか。我々が収蔵しなければ、10年後必要となったときその本はなくなってしまう。我々は使命を取るべきだ
社会教育を学ぶ身としては、いい意味でぞくっとするというか、本当にその通り。

しかし、図書館が教育施設であることを、知る人は少ないのではないかと思う。実際私は、大学に入ってゼミの先生と出会うまで知らなかった。
特に最近は町づくりに利用されたりして、ますます「社会教育施設としての図書館の使命」みたいなものが薄れてきているように感じる。
私が幼いころから利用してきた地域の図書館は、少し前に指定管理になった。「半官半民」とやつである。どうやら書店の方で売れ残った本を図書館にいれたり、元々いた専門職の人がばっさり切られてしまったり、ある議員の一声で特定の資料が図書館から撤去されるような事態を許しているらしい。
ニューヨーク公共図書館にも民間団体が入っていると思うので、別にすべての半官半民が悪いとは私も言わない。言わないけど、この映画を観ているとあらためて「図書館の使命ってなんやねん」、ということを考えずにはいられない。
ただの書庫でもなく、かといって人気取りのための施設でもなく、教育施設として、教育の拡充から地域を良くしていく。遠回りかもしれないけれど、儲けることだけが町づくりの方法ではないんじゃない?――と、私は思うのである。


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