デフォルマシオン・オブ・ウォーター④

 どのくらい眠ったのだろうか、目を閉じたまま意識を取り戻した。水の流れる音がする。やはり今までの悪夢は現実の出来事であったと悟り、悟りつつも目を開きたくなかった。屋外の音は聞こえず、朝か夜かもわからない。 

 長い間体を丸めていたので背骨が痛い。目を閉じながら浴槽から立ち上がって伸びをした、はずなのだが、足がそのまま浴槽を突き破った感覚がした。予想外の感覚に驚いて目を開くと、そこは浴室ではなく周囲果てしない水中であった。
 寝ている間に誰かに連れ出されたか、はたまた最初から夢の中なのか現状がつかめない。水の流れる音は上の方からしている。
 水上に顔を出してみると、空は多少の赤さを残しつつ、真っ白な雪が降っていた。雪は見渡す限りの範囲に降り続け、やさしく海中に溶け込んでいる。頭上に雪が降り積もっている感覚はあったが、一向に寒さは感じなかった。四方は水平線に囲まれ、どこかの海のど真ん中にいるらしいことが分かった。再び海中に潜り、今度は底を探ろうとした。

 どんどん下へ潜っていくのだが、一向に底が見えない。魚もいなければ岩場のような場所もなく、海上から離れて、だんだんと暗くなっていくだけである。ただ、引き返してみたところで何もない。何かに集中していなければ頭がおかしくなりそうなので下へ、下へと潜り続ける・・・・・・。
 完全に闇の中に飲まれてからさらに潜った。そろそろチョウチンアンコウの光が見えたり、底に手がついたりする頃だろうガ…。いや全然!いくら手を掻いても状況は一向に変わらず、実は浮力だの水圧だのの関係で掻いた分だけ戻されているのではないかと疑いを持つほどに代わり映えがないのだった。ふと引き返そうとと思い方向を変えて掻いたものの、こちらも一向に暗闇のままなのでどうしようもなく、やはり下へ潜ろうとまた向きを変えると、正しい位置が分からなくなり、本当にどうしようもなくなってしまった。

【続く】

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