薔薇の華美羅を添えて

 目を覚ます少しだけ前、あなたはこれが夢の中であることに気づいているだろう。あなたは夢の中に現実のあなたを招き入れ、夢は少しづつ崩壊へと向かっていく。

 あなたの感じているそれが枕の感触と似ていることに気付き始めるころ、窓の外の鳩の鳴き声や、風になびく木々の葉のこすれ合う音が何者かに姿を変え、夢の中のあなたを追い立てる。逃げ場をなくし、切羽詰まったあなたは咄嗟に目を覚まして、終り行く世界からの離脱を成功させる。あなたが外の情報を目から取り入れるとともに、夢中の記憶は徐々に脳内へと融けこんでゆき、取り出すことは不可能になる。夢中に起きた特別な経験や、アイデアを忘れたくないのなら、あなたは覚醒後再び目を閉じ、まどろみにかかったふりをすればよい。

 ただ、注意しておかなくてはならないことは、それは決して現実に起きた出来事ではないということだ。夢を楽しむ際、それを忘れてしまうと現実の方が悪夢に変わる。

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