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高崎卓馬の クリエイティブ・クリニック 〜広島 往診編

さて今回のお題は、「エディオン蔦屋家電に行きたくなるキャッチコピー」です。たくさんの応募作が集まったようです。ちらっと見るとなかなか幅もあって面白そうです。さて一次選考を残ったこの50本のなかから僕なりの「いいコピー」を選んでみたいと思います。

「高崎さん、いいコピーって何ですか?」

でました。思ったことをズケズケ口にしてしまう生意気な後輩トミタくん(仮名)※です。たいして企画もまだ上手にできないくせに理想だけは高く、そして自分のことを棚にあげる天才です。まあ、この仕事は生意気なくらいがちょうどいいのである意味見込みのある男なんですけど。彼は生まれ持った性格か、本質的な質問をするとひとがひるむことをよく知ってます。だからよくこの手の意地悪な質問をひょいひょい僕にするんです。仕事だと勝てないから、そういう形でリベンジしようとする。ほんとタチが悪い。でもまあよく考えると僕の考える「いいコピー」をある程度は明確にして基準にしないと何となく主観で選びましたみたいになってしまうので、トミタくんの質問はスルーしたいのはヤマヤマですがちょっと考えてみることにします。

「コピーだけで世の中に出るものでもないから、ビジュアルも企画もなくて、よく選べますね」

あーやだやだ。僕がいいコピーとは?と考えているあいだにトミタくんが
ズケズケ話かけてきます。しかも的を得ている。。。そうなんです。コピーだけで完結できる広告はほぼないし、言葉はデザインされてはじめて表現になるので、こういう公募の場合わりと「なんかいいこと言った」モノや「うまくオチつけた」モノみたいな大喜利的なものが選ばれがちです。でもそういう大喜利コピーって実際の広告で形になったときに果たして機能するか?と言うとなかなかそうもいかない。コピーとはあくまで広告の一部なので、その一部としてどう貢献するかというのが大事になります。広告のフレームを決めるようなキャンペーン型のコピーや、広告の世界観を深めるような共感型のコピーなど、実に様々なタイプのものがあるものだったりします。そこを最初に理解できているかどうかは結構大きな分岐点になります。

たとえば、元スマップの中居さんが出ていたキリンの氷結のグラフィックでバットを振った直後の彼のビジュアルにひとこと「言わせとけ。」というのがありましたが(めちゃくちゃ好きなんですが)これ、このコピーだけだと良し悪しを判断するのが難しいですよね。でもキャンペーンは「あたらしくいこう」というフレームがあります。このふたつがあるととてもよくわかるようになります。

あと、樹木希林さんの宝島社の企業広告で「死ぬときぐらい好きにさせてよ」という名コピーもありましたがこれもこのコピーだけだと広告の内容を理解するのは難しいですよね。樹木希林さんがいて、宝島の広告に出てるという距離感とか、あとは新聞というメディアの持っている背景とか、そういういろんなものを背負ってコピーは仕事をする。だから正直とてもむずかしいんです。こういうコピーだけの賞って。僕がそんなことを呟くとトミタくんがぽつりとつまんなそうにいいました。

「いるんですよね、そういう審査前に審査の愚痴いうひと」

トミタくん、ごめんね。もう君に何を言われてもそんなに傷つかなくなってきた。人間慣れとは恐ろしいものです。僕はふいにトミタくんにひとつ質問してみました。トミタくんはこう見えて攻撃されることに耐性がまったくないので、僕が質問するとすぐ目が泳ぎます。僕は目が泳ぐトミタくんが大好きです。

「トミタくん、コピーを書くうえで大事なスキルって何だと思う?」

ほら泳いだ。楽しくなってきました。僕はしばらく泳ぐその目をみてからまるで古畑任三郎みたいにちょっとだけ声色を変えて言いました。「トミタくん、それは選ぶというスキルなんだよね。数を書くのは誰にでもできる。でも、自分が書いたものの中からいいものはこれだ!と根拠をもって選ぶことができるかどうかなんだ」トミタくんの目の泳ぎがぴたっと止まりました。何かを吸収しようとするスポンジのような目です。根は素直な奴なんです。

「選ぶことができるということは、いいコピーとは何かを理解してるということ」

僕は調子にのってもうすこし掘り下げて話すことにしました。実はこの「選ぶ」というスキルこそ、コピーを上達させるうえで超マストなスキルなんです。簡単に言うと客観力。それが身につけば強い広告をつくる起点をつくれるし、自分の書いたものをもっと機能するものにブラッシュアップすることもできる。でも自分の書いたものを客観的に見るのはなかなか難しい。思い入れもあるし、自分のなかでたくさん考えてきた澱のようなものもくっついてるし。

そこで僕がいつもみんなにすすめているのは、同じ課題をやった他人のコピーを見ること。不思議なんですが他人の書いたものってその良し悪しってよくわかるんです。そしてその何がいいのか、何が悪いのかを徹底的に考える。ここでうっすらなんかいいな、なんかだめだな、みたいな感想で止まっていると自分のスキルになかなかならないんです。なんでいいのか?こうしたらいいのに。みたいなことを考えまくる。それをとにかく言語化して自分オリジナルのルールのようなものにまで昇華する。するとそれが自分の企画やコピーを擬似的に客観視するスキルにやがてなっていきます。客観力って後天的にもつのはなかなか難しいのですが、この擬似客観力なら比較的すぐ身につけられます。あとはそれをいろんな場面で繰り返して癖にする。癖になったらもうこっちのものです。それは自転車の乗り方が身につく。泳ぐときの息継ぎの仕方を覚える。みたいなもので一度身についたらもう大丈夫。だから広告のクリエイティブのような誰かに何かを伝えてひとを動かすような仕事をしたかったら早いうちにこれを身につけてしまうといい。そう思います。

さて本題のみなさんの応募作ですが、一番最初に言ったようにざっと見ると
幅もあってなかなか面白いです。これをひとりのひとが書いていたらとても優秀なひとですね。そうありたいものです。よく360度考えるみたいに言いますがそれは数のことではなくて「視点」のことなんです。視点とは切口のこと。コピーって言葉のレトリックを駆使する芸じゃなくて、新しい視点や共感を使いながら商品と世の中の接点を生み出す仕事なんです。

コピーを書く前に、自分が何を書くかをまず考える。それで確信が持てなかったら、自分でもまだ見つけていないものを発見するためにたくさんの言葉を書き散らす。その書き散らした言葉を眺めながら、まるで他人のコピーを見るように「へえ、こういうの効きそうだな」とか考えてその「何を伝えるか」を考える。そういう順番で作業していくといいと思います。

「WHAT TO SAY と HOW TO SAYって分けて考えたほうがいいんですね」

トミタくん、本当はそれが同時にできるのが理想なんだよね。でもHOW TO SAYだけで書いてしまうものが一番最悪で世の中に存在してもほぼ意味のないものだから、そうならないようにするために自分が何を書くのか、書くべきなのか、をきちんと把握する。それができたら失敗が極端に減る。むしろとてもいいWHAT TO SAYを見つけたら、それをそのまま言葉にしてもかなりいいコピーになると思ったほうがいいんだよね。読んでなるほど上手いこと言うなあという感想を持たれるものより、読んで、あ、欲しいとか、あ、行ってみようとか思われるものが正しいコピーということ。

なんだか前提の話ばかりになってしまいました。さてじゃあ実際の応募作品をみてみましょう。僕の審査の基準は、コピーとしての完成度というよりむしろ着眼点の面白さと、そのコピーで企画が走り出しそうかという2点を軸に見ていくことにします。

エディオン蔦屋家電ってこれからもずっとそこにあるものだから、名物広告とかになったほうがいいですよね。新宿のルミネの広告とかいつも女性の生き様みたいなものをガシッと言っててなんだか芯があって存在感があります。昔でいうとパルコの広告や西武の広告もスタイルがきちんとあってシリーズを続けていくことでどんどん強くなっていました。もし僕がこのエディオン蔦屋家電の仕事をやらせてもらえるなら間違いなくシリーズにして強く愛される名物シリーズを目指します。そのための軸になるものを探して「あたらしい暮らしの提案」とは?というのを深く考えて掘り下げてそこでWHAT TO SAYをみつけます。なんだか作りたくなってしまいました。面白いものができそうな予感が・・・。担当の方がいらっしゃったらぜひよろしくお願いします。

また脱線してしまいました。審査に戻ります。僕は1次を残ったコピーのなかから次のコピーをまず選びました。これから5つに絞り、さらに個人賞を選びます。投票結果は審査会に届けますので、ここではひとつひとつのコピーを客観的に分析しながら見ていきたいと思います。

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崎卓馬が選んだコピーたち

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切り口という意味では実は①と⑤は同じですね。③と⑥は同じです。こういう公募系の場合とくに、どんなにうまいこと言っていても切り口が同じという時点でなかなか上位に食い込むのは難しくなってしまいます。誰もが考えることに、ひとは感心も共感もしてくれないからです。もっと言うとすでにこの世界にあるもの、前にあった感じのもの、でも同じです。誰かが書きそうなものは選ばれないので書かないというのもこういう時は決めておいていいことだと思います。

① 買い物、というより 探検。
⑤ 買い物は、冒険だ。

ふたつを並べると、⑤のほうがいいですね。①は自分の言いたいことをただ説明しているからです。説明で人の心は動きません。⑤のほうはエディオン蔦屋家電が、買い物を楽しくするという決意の表明に見えたりもします。もったいないのは「買い物は、冒険だ。」ということそのものがもうすでに手垢がちょっとついちゃってる感じがする点ですね。そこに新しさ、今まで聞いたことのない何かがある必要があります。そういうものがあってはじめてひとはハッとなるので。


③ 本、買いに来たのに ドライヤー買った。
⑥ 料理の本を探していたら、キッチン家電にたどり着いた。

このふたつは狙いはとてもいいと思います。でも少し前にイオンのコピーで、「イオンにたこやきを買いに行った。たこやき器を買って帰った。」という名コピーがありましたが、それにはちょっと及ばない感じがあります。ふたつともこのままだとただ置いてあるもののジャンルが多岐にわたるというだけで止まっていますが、イオンのコピーはここにくると暮らしが変わる、しかもいい方向に。という匂いがありますね。そこに気がついてそれをこの場所らしくいい当てたらばっちりでしたね。


⑨ 単三電池を買いに来ただけだったのに。

これはうまいですね。何を買ったか言わずにその先の世界を想像させる。③と⑥と同じ考え方なんですが、イオン的な着眼点がありつつ、何を買ったかは伏せているおかげで、そこを想像することが買い物そのもののワクワク感ともつながっている。うまいですね。WHAT TO SAY HOW TO SAYのバランスがいいです。


② 行くな!いらんもん買うてまう。

嫌いじゃないです。エディオン蔦屋家電はおしゃれな場所なので、その温度感とはちょっとズレているかと思うのですが、ビジュアルのほうでそこを補うようなものをつくるとちょっと面白い、見たことのあまりないものにできそうな気がします。コピー的には③⑥⑨と似たところを触っていますが、あきらかに違う着地になってますね。


⑨買いに行く、じゃなくて、過ごしに行く。

「過ごせる場所」というのはひとつの発見ではあります。それはきっと蔦屋のコンセプトに近い気がします。そう言う意味だとコンセプトをそのまま言っちゃったなという気がしますね。そしてこれはほとんどのコピーや表現で言えるのですが何かを否定して何かを言うのはあんまりチャーミングな言葉に聞こえないんです。過ごすということの新しさやワクワク感をちゃんと言えたほうがいいんですよね。


⑦ 仲直りできる
 くらい、
 長く居られる。

これも⑨と似た切り口です。でも長居ができる、ということを見つけているのでコンセプトから表現にちょっと昇華されつつあります。こっちの場合、長居できるということをWHAT TO SAYとして発見しているのでそれをもっと効果的に使うなら、逆にそこは言わないほうがいい。長居という言葉を使わずにこ言わずに愛を伝えようとすると、いろんな方法が浮かびますよね。そこに自分にしかできないオリジナルなものも入ってきます。それこそが表現なんです。これは覚えておいてほしいことなんですが、一番言いたいことを言わずに言うとコピーの道が本当にぱっとひらけます。ぜひ試してみてください。


④ 何も買わないけど、今日も行く。

⑨と⑦に似ていますがこれはシャープでいいですね。お店の広告で何も買わなくていいと言う感じが普通のお店ではない感が漂っているし。なんだか素敵なビジュアルをつけたくなります。いろんなひとが登場するシリーズにもできます。うまいですね。


⑩ 広島人は、蔦屋家電に試されている。

これは反感買いそうで面白い。オープン前なら使える感じですね。オープン後だと使えない単発企画のコピーなら強い広告になりそうです。蔦屋家電が上から目線で言っていることがシリアスに伝わるとなんだか炎上しそうですし、そこでむかつくとひとはなかなか好きになってくれないのでかなりの危険球。
でも、これがビジュアルとともにアウトプットされてきちんとギャグになっているとみんなに愛されるものになる可能性があります。


「けっこう面白いですね。高崎さんの好き嫌いもわかって」

トミタくんが僕が選んだものを見てまた上から目線で言いました。けっこう客観的に分析したつもりだけど。まあそれでも自分の主観というか好みはどこかででてしまうものなんだとは思います。逆に言うと、自分らしいものなんか書こうとしなくても、本気で言葉と格闘していたらそれはどうしても自分らしいものになってしまうんだと思います。だから安心して自分のことは考えずに商品と世の中のことだけを考えぬきましょう。とにかく手で書かないこと。それをまず最初に肝に命じてたくさん書いて、たくさん悩んで、みてください。

「 」「 」「 」「 」「 」「 」

今回、コロナのせいで直接うかがえなかくてとても残念です。前代未聞の出来事に、仕事の仕方もいろんな価値観も大きく変わろうとしている感じがします。時代が脱皮しようとしている感じをひしひしと感じます。僕たちの仕事はきっとそういう大きな匂いをきちんと嗅いで、世の中をちゃんと肌で感じて、みんなが思っているけどまだ言葉にしていないことを言葉にしたり、どんなに時代が動いても変わらず大事にしなくてはいけないものをあらためて気づくきっかけになったり、誰かの何かを守ったり、誰かの何かを照らしたりするためにあるのだと思います。広告にはきっとそういう大きな役目があるのだと信じています。僕もこれから新しい方法を見つけたりしながら、今までこの世界になかった何かみんなの心が明るく強くなるようなものを作りたいと思います。広告をやっているひとも、そうでないひとも、すこしでもこの世界が素晴らしいものになっていくようにぜひいっしょにやっていきましょう。来年はみなさんと美味しいものを馬鹿笑いしながら食べたいですね。

                             高崎 卓馬
                             2020. 4. 3

「 」「 」「 」「 」「 」「 」

※トミタくんとは、僕の周辺にいる愛すべき後輩たちをブレンドしてつくった架空の人物です。彼とのやりとりはこの本に詳しく書いてあります。

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この本には特別編があり、https://dentsu-ho.com/booklets/348
で読めます。

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最近書いた青春小説です。80年代アイドル小泉今日子の親衛隊にのめりこんでいく少年ふたりの友情のものがたりです。たくさんの取材をもとに書いたフィクションです。あのトミタくんですら夜中にLINEをしてきました。「泣いちゃいました。まさかあの高崎さんがこんな物語を描けるなんて」
それ褒めてる?ぜひ読んでやってください。



ありがとうございます!
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通称WAH(ワー)は「言葉」と「広告」を愛する「広島県」在住のコピーライターを中心としたクリエイターの活動です。コピーをはじめとする広告制作スキル向上、クリエイター交流、広告業界活性、若手クリエイターの発掘を目的に広島県在住の方限定で「公募賞」を実施。http://wa-h.jp
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