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李白の「山中与幽人対酌」をコースターにする話

相方の堀江がお世話になった常石造船、海外クライアントはタンカーの入水式までながければ1ヶ月ほど細かなファイナルチェックのため滞在する。そんなVIPをしっかりとしたおもてなしで迎え入れたい、世界のトップホテルを旅したオーナーファミリーはそのアイディアを余すところ注入した、それがベラビスタ境ガ浜だ。WAGYUMAFIAもポップアップをさせていただいたり、僕らもプライベートで訪れたりと思い入れあるホテルだ。いつも食事が終わり、ラウンジのような空間があるのだが、そこにモダンなホテルらしからぬ漢詩の書が額装されて掲げられている。

李白の晩年の作だ。「山中与幽人対酌」と呼ばれるこの詩が、堀江はえらく気に入って、どういう経緯か忘れたがオーナーから作品そのものを頂く内諾まで取ってきた。酒飲みの話だ、山には花が咲いているにも関わらず、二人で飲んでいるとついつい一杯と酒が進んで夜も更けてしまう、今晩は帰ってまた明日琴でももって戻ってきてくれという、そんな意味だ。

「浜田、うちのどっかで飾らない?」

さすがに2m近い、レトロな作品を飾ろうとすると額を変えたとしても落とし所が難しかった。それでもこの李白の詩が、ちょうどこのコロナ禍の状況とも重なったのは事実。僕の中でもこの詩をWAGYUMAFIAのどこかにクリエイティブとして入れ込みたいという思いがあった。うちには書道家のアルバイトがいる富岳といって、成功している書道家なのだが、なぜか忙しいときにサービスを手伝ってくれてる子がいる。彼にこの詩を改めて書いてもらうことをお願いした。この時点ではデジタルアートにするのか、改めてアートとして額装するのか全く決まっていなかった。

クリエイターの方々には申し訳ないが、僕は一度プロジェクトを寝かすことがある。不思議なもので光が差し込まない瞬間に無理して何かを生み出そうとしてもそれはどことなく嘘が混じった作品となってしまう。この李白の詩プロジェクトもそのひとつで半年ぐらい冬眠の期間を要した。その間に生まれたのがYATCHABARとTHE HIGHBALLSだ。前者は日本酒をテーマに、そして後者はウィスキーをテーマにしている酒がベースの店だ。ある時、この詩をこの2つの店舗で出すコースターにしようと考えた。ほとんどの人は気づかないだろうが、もしかすると堀江のように気づく人がいる。そうしたときに幽人の存在が酒を媒介にして浮き彫りになってくれるに違いない。そんな新しい想いがこのコースターには込められている。

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