見出し画像

花を枯らすほど傲慢な人間

 先日、私は植物園のイベントスタッフのアルバイトに行った。あまりにも家から遠すぎるので、一日だけお試しで働いてみることにした。

 現場について無線とジャンバーを取り、朝礼に参加した。どこの現場でも言っているような似たような話を聞き、私は来場者数のカウントをすることになった。平日だったので、私の予想通りに人はそれほど多くなく、何度もあくびが出てしまう程の仕事量だった。

 休憩に入った。私はどうしてもトイレに行きたくて、ジャンパーを着たままトイレに行った。そして、私はトイレから出て休憩室に入ろうとしたとき、誰かに止められた。

 「トイレ行くときはジャンバーを脱いでください。」

 その男は、すみません等の断りも入れずに注意してきた。その口調は何だか非常に傲慢だった。トイレ行くときはジャンバーを脱ぐなどと言われていないし、他の現場ではそのような公式な服を着てもトイレに行って良い現場が殆どだった。なので私は

 「ここジャンバー着てトイレいけないんですか。」
 
 男はため息を吐いた。脳の中心まで聞こえた。侮辱された気分だった。
 「イベント業界では当たり前ですよ。次からはちゃんと脱いでください。」と死んだ魚を見るような目で注意してきた。私はその指示に従ったがその持論に反論したかった。

 その男の態度、発言に腹を立てた私はその男を観察した。女性と話していた。不愉快だ。今日は暑い日だった。帽子をかぶるのは分かるが、なぜカッコつけてチャンプリンみたいな帽子をかぶるのか。澄ました感じを醸し出してイライラした。そして、無線の声が小さいしぼそぼそと話してくるので何言っているか分からなかった。それで少しでも無線を取るのをもたついてしまったら、無線で嫌みを言われてしまった。

 暫くして、サブチーフが巡回で私のポジションに来たので男について聞いてみた。

 「大野さんはね、好き嫌い別れるよね。僕は年上だから気を使ってもらっているけど、基本的に冷たいよね。このイベントも6年前からあるんだけど6年前からほぼ毎日いるんだよね。しかも千葉から。遠いのに。」
 
 「大野さんは何歳なんですか。」

 「30歳くらいだったはず。」

 なるほど、6年前から同じイベントをやり続けて、気づいたら30歳になっていたということは、大野氏の性格、根性、態度の悪さが災いしてどこの企業も即落選して正社員になれないということだ。私も初めてあって数時間だが、同僚だとしたら後ろから蹴り飛ばしたくなるような人間だ。

 それに同じイベントしかやらないということは、大野氏の世界は狭い。私のようにワクチンやサッカー場、スーパーのポイントカードの切り替え等多くの仕事を経験してきた私に比べると大野氏の経験値は乏しく、水素原子ぐらいの世界の狭さである。よく私にむかって、イベント業界について語れたと思う。話す気も仲良くする気もないが、大野氏は私を見習うべきだ。

 私は間違えて同じ現場をもう一日入れていたことを忘れていた。なので、2日後に行った。

 その日のチーフは大野氏だった。帽子を外している大野氏の髪の毛はパーマをかけていた。髪の毛をいじる前に自分の性格を手術して直すべきだと私は思う。

 朝礼が始まった。「おはようございます。」の声が小さいと小さすぎる声で注意された。相変わらず、澄ましたような態度と口調で説明してくるので聞く耳を一切もたなかった。朝礼の最後に「返事が小さいです。大きな声を出してください」と小さな声で注意された。

 その日は関わりはなかった。ただ、怒りと憎しみが消えないので大野氏をどのように焼いていこうか考えた。その日はずっと大野氏の焼き方を考えた。

 生きる上で一番大事なのは相手への思いやりだ。もし注意したいのであればきつい口調で言う必要はない。それは自分の器の小ささや経験の乏しさを露呈してしまう。人間はいつも自分の持っている情報、相手の持っている情報を交換し、お互いがそれらを吸収することで、人間力を高められる。大野氏は傲慢過ぎた。もっと謙虚になるべきだ。そうすればもう1ランク上の人間になれる。私は大野氏が心を入れ替え素敵な人間になれることを祈っている。

 植物園の花たちもそう願っているだろう。


色々な記事を書きたいです。