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欧州のBoundary Spanner、多くの灯りのような存在に出会えた、第6回建築、研究、医療、ケアに関する国際会議 ARCH@フィンランド。2024.6.19

日本のほっちのロッヂの建築家さん経由で知り合ったインド在住のこれまた建築家さんがイギリスのマギーズウエストロンドンのツアーでこれまたたまたま一緒になったドイツの小児科医・NPO経営のリザーネから、突然Linkedinでメッセージをもらう。Health infrastructure beyond the Hospitalということである国際会議に参加するため、事例をリサーチしている。ということでzoomで話をし、その1回でグッと近づいた感覚をもててこんな形で始まる友情もあるのだなと考えるうち、リザーネが発表する国際会議が全体的に面白そうで仕方がない。経験上こうした会議で出会う人の引きが良いこともある。マイクを突然借りてピッチだって受け入れてくれるだろう。ということで白夜のフィンランドに弾丸で飛ぶことにしたのだった。15年ぶり2度目。15年!


The 6th International Conference on Architecture, Research, Health and Care “ARCH" -EFFECTS OF DESIGN ON HEALTH AND WELLBEING -第6回建築、研究、医療、ケアに関する国際会議 -デザインが健康と福祉に与える影響-

100名近く、世界中の大陸から、それぞれの事例を持ち寄る3日間。会場はフィンランド アアルト大学内にあるディポリ(Dipoli)とあって宿もキャンパス近くでなんだか学生気分で毎日登校するわけだが、軽井沢町と植生が恐ろしく似ていてここはどこだと錯覚する。

この3日間の収穫はタイトルにあるように、建築、研究、医療、ケア、それぞれの現場・持ち場を持っているBoundary Spannerたちに会えたこと。
特に冒頭名前を出したリザーネと分かち合った3日間は本当に得難いものだった。

リザーネと夕食。すでに20時ぐらい。白夜だ。

ヘルシンキ到着後早々にカードケースを乗り換えの電車内に置き忘れ、3秒ぐらい心臓がギュッとなったが、車内の人をとっつかまえて電話とテザリングを借りて速攻カードを止めるに至った。現金はほぼ無い中一体どうやって数日を過ごそうかと思いつつまぁなんとかするしかない。幸い電車の切符は3日分買ってあった後だった。

駅で到着を待ち構えてくれていたリザーネは対面では初めてなのになんだか幼馴染みたいな安心感。いや〜無くしちゃったよ色々と、と爆笑から始まり、これまた心地いい海辺のお店で話は始まってゆくドイツの状況は難民移民、また国籍による差別が多くみられるようになりそれはあらゆる状態においてのアクセシビリティが危険にさらされていること。特に多くいるベトナムにルーツを持つ人(ドイツに限らずオランダにも多い)たちへの施策はまった無しなのだがなかなか予算において明確な動きに乏しいこと。
リザーネはそのためにNPOを立ち上げまずは通訳、そして言語教育や暮らしの整えに関わるプラットフォームを設立し活動している。小児科医をやりながら。ただ小児科医をやりながら手落ち感がある。いつか自分がもっとあらゆる状態の人が集まり気兼ねなく集える場所をつくってみたい。つまり医療だけ、教育だけ、ということではなくより全体性を持った環境づくりというわけだ。それでほっちのロッヂの実践に興味が湧いたと。私たちは白夜をいいことにずっと明るいフィンランドの地で気づけば深夜まで語った。リザーネおごってくれてありがとう。ダンケ。

そしてその翌日もまたリザーネに会う。場所はリザーネお気に入りのヘルシンキ中央図書館。コーヒーぐらいは買えた。しかしユーロ物価高いぞ。
ここの図書館は日本でも知る人ぞ知る、実はとても有名な拠点でありとあらゆる記事にもなっていて、私もああなるほどとスッとみていたんだけれども、それ以上だった。というかリザーネがここを好きすぎる。
もっとも驚いたのは3Dラボやミシンキットなどハードだけ投資して終わってしまいそうな資源が混み合うほど使われていたこと。ミシンの音がごきげんだった。おそらく中にはマリメッコの生地を買ってきた観光客が意気揚々と何かを作っていたのかも。そう思うとまたそれもいいなと思う。町の人といっときの人が好きを起点に鼻歌を歌う光景。次回は色々と地元っ子に聞いてみたい。

端と端で可視性がそれぞれに高いがその場の音はその場でしか刻まない。1つの空間というのが信じがたい。
ヘルシンキ中央図書館。1枚目の図書館の空間は丁度上段にあたり、テラスに出て日光浴ができる。夏の始まり。人も建物も太陽光を最大化しているわけだ。

そうして3日間のカンファレンスが始まる。カンファレンスは1日目午前と3日目午後を除きそのほとんどがパラレルセッション、選択式の小さなグループに分かれ発表&質問が繰り返されるスタイル。ポスター発表はポスター前での発表とオウドトリアムの両方であった。手厚い発表体制。

ユッタ・トレヴィラーヌス:Ontario College of Art and Design University教授。インクルーシブデザインリサーチ センターとインクルーシブデザイン インスティテュートのディレクター兼創設者。
"Who and what are we missing?” デザインにおいて、誰が、何を見逃しているのか?このタイトルに惹かれた。

”普通”の終わりを目指していく。違いは資産であることが強調され、「Who is the fittest? None of us are safe unless all of us unsafe- 全員が安全でなければ、誰も安全ではない」という言葉が彼女のデザインの根幹を聞いていて示唆に富んでいた。

印象深いパラレルセッションをいくつか。いずれも環境設計そのもの。

●回復のための環境と自然

Keng Hua CHOUNG:STUD/シンガポール工科大学 准教授・コラボレーション&ソーシャル・プログラム・コーディネーター。研究分野は建築史、持続可能なデザイン科学、社会建築、建築デザイン、都市計画、建築情報管理など。

コミュニティガーデン作りに着手を開始。「Palatok Art Farm 」。 どのような庭づくりをしたいのか、40名以上に調査しSTUD/シンガポール工科大学にほど近いJalan Pelatok Parkに設置することになった。名付けてマインドフルネスプレイスメイキング社会的処方プログラム Mindfulness Placemaking Social prescribing program。(ややネーミングの受け取りが広い)。
プロセスとして、①公営住宅に住む人とそうでない人の意識の差が広かったため相互理解のためのツアーを行い ②ボランティアを募り、多様な非営利活動の人たちと共にDIYでFarm table、庭づくりを開始。(シンガポールはボランティア活動が市民としてのポイントを付与されることがシステム化されており、良いか悪いかは別にしてボランティア団体が桁外れに多い。)
毎週土曜日の朝、2時間を8回行うことで状況を作り上げ、2年後、自然とのコネクト、コミュニティへの所属について調査、いずれも数値が上がったとの発表。

高齢化が顕著、そして宗教も言語もほぼバラバラである彼の国では国が主導することが多くある中で、こうした研究機関が率先して実践することを聞くのは珍しい印象。シンガポールの友人らにも伝えて来年春にはまた現場を訪ねたい。

偶然にもKeng Huaは友人と同じ大学の教員で、しかもその友人と一緒に共同プロジェクトをしたこともあって、よく知ってくれている人物だった。シンガポールにまた友人ができて嬉しい。

●ウェルビーングなホスピタル作り

Miia Katariina Heikkilä ミイア・カタリナ・ヘイッキラ:アアルト大学、ランドスケープ・アーキテクチャーのプロデューサー兼博士研究員。特に修復的な緑地環境、環境体験、人間と環境の関係に重点を置いている。

雰囲気づくり、特に自然からインスピレーションを受けたプロダクトの設置、Nature and Multisensory/自然と多感覚の経験ができるもの、過ごす人、働くスタッフに向けてのデザインプランニングにおける発表。
「ソーシャルサポート」、ここではアート作品の設置、しかも過ごす人にとっての共通経験を促すような作品の設置が必要というアイディア。また社会的に孤立しないような機能、人との出会いも視野に入れることを言及。Belongingnessについて頷くことばかりだ。

乗り越えねばならないこととして、①衛生・安全管理②病院の排出量などの持続性③文化の差異。また、照明、自然を想起できる作品の実装について再度言及がある。

いいね、働き手が主語にちゃんと入っている安心感がある。人間が人間らしく働く場が必要だ。

長い初日が終わる。カードケースは未だ駅の遺失物受付に届かない。

学生時代に共にニュージーランドで過ごした友人がわざわざ2時間半かけてミッケリから出てきてくれた。共に母になっちゃったねって昔の恋バナで盛り上がりノンアルで乾杯しつつ再会を喜んだ。嬉しい。

カンファレンスは2日目。予想通り飛び込みピッチ歓迎の時間があり、もちろん手を挙げる。私以外に3人が手を挙げていた。9:30から25分もらいプレゼン。ほっちのロッヂのプレイスメイキングについて、土台となるコンセプトについて。ここに集まる人たちの目線がほとんど同じで共にできることがこんなにホーム感を増すとは。
ケアの働き手をどのようにエンパワメントし理解を促しているのか、というポイントをついた質問が嬉しかった。

その後何人もの方が声をかけてくれる。日本に来る予定のオランダ人と再会を約束。

2日目に度肝を抜かれたのはターナ・クリッツナー:ケープタウンを拠点とする造園設計事務所。公共プロジェクト、コミュニティプロジェクトを手がける実践。A collaborative Engagement in the Making of healing environments.
犯罪率が高い場所に緑を入れる活動、ランドスケープ、The Nex for HOPE Cape Town in Delftというプロジェクト。2010年から2022年にかけて、基礎を含めて3回に分けて場を作ってきた。以下はその場で翻訳したもの。

「2001年に設立されたHOPE Cape Townは、ケープタウンを拠点とする登録非営利団体で、人々と地域社会の生活の質を高めることを目的としている。貧困、HIV/AIDS、関連疾患に苦しむ子どもたち、青少年、その家族に重点を置いている。HOPEケープタウンの提案は、多目的施設(The Nex)の設立であった。この施設は、政府部門、市民社会パートナー、さまざまな組織とともに、デルフト・コミュニティに、子どもたちが育つ「我が家」、教育や学習が行われる「教育拠点」、人々がサービスや支援を利用できる安全な空間を提供するもので、遠距離を移動することなくニーズを満たすことができる。
私たちは、建築家であるCCNIAと緊密に協力し、建物の配置や敷地内での建物の関係を決定した。この協力的なプロセスにより、内部空間と同様に景観も優先されたものとなった。その結果、長居したり集まったりするスペースが確保されるとともに、移動が容易な屋外の「部屋」が連続することになった。砂地のケープフラッツの環境に適した弾力性のある植物パレットを決定するために、私たちはミッチェルズ・プレイン病院のプロジェクトで開発され、成功裏にテストされた植物の知識を活用、この庭園はすぐに開花し、乾燥した厳しい環境の中で、緑豊かな敷地となりました。」

http://vpuu.org.za/projects/hope-cape-town-the-nex/

「大きな窓と自然光、それぞれの建物からながえる景色の違い、植物の影..全てがお気に入り」と子どもたちが言うメッセージが流れる。
厳しい環境下の中で、今改めて緑の環境と人間性の回復に着目があるわけだ。

全体を通して、建築家またランドスケープに関する人たちは、建築が環境問題心配性を解消できるか?という話題を間違いなく話題にすることが目立った。後述する欧州の安藤忠雄みたいな人の話に通じていくわけだが、日本の建築家はこうしたことを聞いてどう思うだろう?対岸の火事では無いはず。

別のパラレルセッション、Matti Kuttinen マッティ・クッティネン:アーキテクチャー Can architect cause cure for eco-anxiety? 建築家は環境問題心配性を解消できるか?の発表から。

次のパラレルセッションは、この国際会議においてほっちのロッヂの事例を発表してくれた友人、Lissane Knop リザーネ ノップ:ドイツの小児科医、NPO経営者の登壇。

もちろんニコニコ最前列で聴く

Health infrastructure beyond the Hospital/病院以外の医療インフラについて。ドイツにおける病院にまつわる歴史、80年代、ドイツにおける病院の設計の変化が起こる。大きいものではなくできるだけ小さい設計の潮流、ドイツの現状:病院は大きな立替の時期を迎えており、すべての病院で25%の病床の削減が予定され、その分の土地の使用、新しい建物の価値、意味が問われている。
その上で、ほっちのロッヂのコンセプトはドイツの未来のシナリオになり得るとまでいってくれた。嬉しい。

ついに国際会議の場で発表されて嬉しい限り。会場でも私から少し挨拶。

夜はネットワーキングディナー。アサインされたテーブルでひたすら話す。印象的なのは一度それぞれに転身している率が高いこと。理学療法士から建築家、建築家だけどNPOしてるなど。いいね。Boundary Spannerの渦に入った感じ。よく飲みました。

今日も遺失物届けには届いていない私のカードケース。

建築家やサウンドデザイナー、学者たち。ドイツ、フィンランド、デンマーク、スロバキアに友人ができた。

3日目の最終日。終わったら速攻で空港へ向かわねばならない。

欧州の安藤忠雄みたいな存在感があった、Morten Rask Gregersen:モーテン・ラスク・グレガーセン:パートナー兼建築家 AA Dipl RIBA II。

タイトルは“Demotecture” デモテクチャー。なんだろうこの響きは。

デンマーク出身の建築家、あらゆる政府機関からケアの現場をクライアントに持っている。2009年デンマークのがんセンター、2016年デンマーク初めての近代的ホスピスの設計。“Demotecture” デモテクチャー(造語)社会システムの再構築を唱えている。デンマーク、Asagardenエリアでの実践中の事例においての紹介。精神障害、刑務者など。病院、ケアの手が届かない場所が国内に数多く存在すること、そしてヘルスケア=住宅ケアと同義語として動き出している、まさにまちづくりそのものであること。福祉をさらに人の暮らしの中にするために、市民、行政、建築との3者のコンバインが大きく必要になってくる。隣接させコンパクトな人の動線を設計し始めていると。

その上で紹介があったのが、2020年 フランス、認知症村。彼の設計だったのか。
続いて2023年 オスロ 認知症村。進行中の2025年完成予定 アメリカ・フィラデルフィア、メモリー・ケア・センターの紹介。とにかく圧倒される量。

「True architecture exists only where climate change, biodiversity and demographic change stands in the center.」「気候変動、生物多様性、人口動態の変化が中心にあってこそ、真の建築が存在する」

建築としてできることは、あらゆるチームと協働し時代に即したものを作り続けることだという。


全てにメモをとりながら、奄美大島在住の建築家の友人にそのままの文章をリアルタイムで送る。次のカンファレンスは絶対彼と一緒に行きたい。

以降はARCH2024 チェアパーソン、Laura-arpiainenラウラ・アルピアイネン(アアルト大学 建築学科教授)によって締められていったARCH2024。ラウラは本当にビッグマム感が満載で一目で好きになった。

きっといい先生なんだろう、生徒がいつも周りにいた。いいな。

ラウラによってConcluding Panel、ARCH24 Awards and ARCH26 Introductionがなされ、閉会。私は急ぎヘルシンキ空港へ向かい帰国。2年に1回開催されるARCH「建築、研究、医療、ケアに関する国際会議」。
次回は2026年 in Sweden 6月中旬、おそらく6/15-17 @Chalmers University of Tecnology。ぜひご一緒に。

シンガポールのKeng Hua、リザーネを含むドイツのお姉様たちと。

実に3週間後、フィンランドからメールが届く。無くしたカードケースには名刺も入っていてそれで連絡をよこしてくれたらしい。
見つかったよカードケース。9月末までは保管しとくと。そっか、あったか。でももう免許証も再発行してカードも新しくなった。悔やまれるは鬱の時から大切にしていたBTSのムービーチケットが入っていること。
彼の国の人が丁寧に遺失物に届けてくれてこうしてメールがきたことが一番の朗報。思い出深きカンファレンスになった。

ARCH2024 チェアパーソン、Laura-arpiainenが10月の来日に合わせ、ほっちのロッヂを訪ねたいとメッセージ。もちろん喜んで。

2024.6.19