切れないナイフのうた声よ
私はナイフが好きなの。
おかしいでしょ。
周りのナイフ達は、みんなフォークに恋をして、
フォークはナイフにときめくの。
フォークがお肉を支え、ナイフで切って召し上がれ。
そうやってみんな結ばれていくのよ。
だけど、ナイフとして産まれ、ナイフとして育った私なのに、物心ついた頃には、同じナイフを目で追っていたの。
鋭い刃先に、三日月の端っこの様なしなやかさ。
私は他のナイフに本能的な手を差し伸べてしまう。
でも、みんなフォークに夢中でしょ。
私はゆっくりと切れ味を失い、ナイフとしての意義を失っていく。
フォークとして生まれていれば。
なんて考えた時間も沢山あったわ。
でもね、私はわたし。
軽蔑はしないでね。
ここで言うのも恥ずかしのだから。
ステーキやポワレは鋭利には切れないけれど、
わたしの様なナイフやフォークがもっとピカピカに輝ける場所がありますように。
その為にわたしは今日もここで歌います。
カチカチと、そしてカシャカシャと。
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