電車内群像曲

私は今日も疲れているのであろう

帰宅途中の電車が揺れる度
隣に立つサラリーマンと肩がぶつかる度

足元は不安定になり

力が抜けていくのがわかる

何気ない毎日が幸せなのは解っているつもりだが

私にとっての何気ない毎日とは
パソコンの画面という水面に
数字を投げ込み
会社の事業数値で
その水面に大小の波紋を作り続ける
それが日常なのだ

他のどんな仕事を選んでも

水面に波風が立つことくらい
わかってはいる

しかしながら漠然と日常を消化していることは
私にとって幸せなことなのだろうか

独り身で身勝手な私は
幸せの上に成り立つ怠慢
だと今日も自身に言い聞かせていた


揺れる電車の中は湿った熱気がこもり
私は吊り革に捕まっては項垂れていた


イヤフォンで聴くラジオの声も
なんだか煩く感じてきた
きっと眠気が私のもとにこんばんはの挨拶を言ってきたからだろう

トボトボと意識が薄れそうになるほんの一瞬

耳元のラジオからそれは流れてきた


ゆったりと健気なピアノの旋律
湿った熱気を払う様な清々しい調べ

吊り革に項垂れた私の背筋は
少しずつ起き上がっていた

それは優しい川の流れ

鍵盤が織りなすの慈悲の連続に

私は心身ともに包まれていった


私も社会に貢献が出来ているという
そんな事実を思い出させてくれた


私が電車の中で息を吹き返したのは

美しい旋律に包まれたから

それはまるで母の様な強さと清らかさ



ありがとう

それは優しい

アラベスク第1番


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