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空・雨・傘で考える顧客の課題

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
マーケティングを行なっていくと、必ずぶつかるのが「インサイト」の壁ですよね。顧客となり得る人は、何に困っていて、何を欲しているのだろうかということは真っ先に考えることのひとつだと思います。
最初はざっくりとした仮説から徐々に解像度を上げて、実行する施策を考えていくのですが、この仮説を導くのに使い勝手の良いフレームワークが「空・雨・傘」です。今回は、様々な書籍で紹介されている事例を交えて、このフレームワークをご紹介していきます。


空・雨・傘のフレームワーク

空・雨・傘は、ロジカルシンキングを行うための手法の一つです。簡単に説明しますね。
「空」・・・「西の空に黒い雲がある」
「雨」・・・「まもなく雨が降り出すので凌ぎたい」
「傘」・・・「傘を持って出かけよう」
というふうに、空(原因)から雨(課題)を抽出し、傘(解決策)を導くロジック構造になっているのがこのフレームワークです。
このフレームワークを使う利点は、顧客のニーズ(雨)とそれが生じる理由(空)、そして解決策=必要なベネフィット(傘)を構造的に捉えることができることです。
マーケティング分野での活用場面は、提供便益(ベネフィット)を考える時などでしょうか。ターゲット顧客にはどんな課題があって、なぜそのニーズが生まれるのかを構造的に理解することで、訴求すべき便益が見えてきます。その便益を提供すべく、製品や商品を開発していくといった流れが見えてきますね。

空・雨・傘を使った好事例

割と汎用的なフレームワークなので様々な使い方ができると思うのですが、ここでは多数の書籍で紹介されている有名な事例を共有したいと思います。それが、Panasonic社の「ポケットドルツ」という商品です。
皆さんはご存知ですかね。「ポケットドルツ」は携帯用電動歯ブラシです。この商品が生まれた背景を整理する際に空雨傘のフレームワークが活用されています。

ポケットドルツ パナソニック公式より

電動歯ブラシの空・雨・傘

ポケットドルツが参入している「電動歯ブラシ」という商品カテゴリの空雲雨を整理すると以下のようになります。

「空」・・・「口腔内のトラブル」(ニーズの発生源)
「雨」・・・「歯磨き時に磨き残しが生じる」(ニーズ=磨き残しをなくしたい)
「傘」・・・「手で磨くよりも細かく綺麗に磨ける=電動歯ブラシ」

「手で磨くと磨き残しができ(雨)、口腔内のトラブルが生じる(空)」というのが、ユーザーが抱える課題であり、「電動歯ブラシ(傘)」はそれに対する解決策で「手で磨くよりも細かく綺麗に磨ける」というのがベネフィットになります。よって、各社は「綺麗に磨ける」ということに重点を置いて性能を高めることに注力していきます。

ポケットドルツの空・雨・雲

成熟してきた電動歯ブラシ市場で、「口腔内のトラブル」という課題を深掘りして、質をずらすことで差別化を実現したのがポケットドルツです。
ポケットドルツを「傘」として用意するに至る「空」と「雨」をみていきましょう。

「空」 市場環境とターゲット顧客

ポケットドルツを開発する段階では、電動歯ブラシが市場に受け入れられ、成熟へと向かっていました。市場は成熟してくると差別化が難しくなり、「同軸競争」に陥ります。電動歯ブラシ市場も例外ではなく、「振動数」という機能面を競う展開になっていました。

また、当時の主要顧客は中高年の男性で、自宅での利用が一般的でした。
そこで、担当チームが目をつけたのが若年層の女性だったようです。市場の拡大を狙ったのですね。調査・観察から若年層の女性は「ランチ後に化粧室で歯を磨く」という行動を発見したそうです。これは「中の人」の考察なのですが、おそらくランチ後の歯磨きに歯周病ケアなどの「口腔内の健康トラブル」という電動歯ブラシ市場の「空」は当てはまらず、「身だしなみ」や「口臭ケア」といったもう少しライトなものが「空」になるのではないかと思います。

「雨」消費者が抱えるインサイト

若年層の女性は、ランチ後に「歯磨き」という行為をしているにもかかわらず、なぜ電動歯ブラシを使わないのか。という点がこの場合の「雨」にあたります。
担当チームの調査によると「電動歯ブラシは音が大きい、無骨、オヤジ臭いから使いたくない」というユーザーの本音(Pain)が見えてきたそうです。
加えて、「周りの女子の話題の中心にいたい→化粧室は社交場、使うものはおしゃれでありたい」というGainが見えてきます。

「傘」インサイトに応える解決策

ポケットドルツはこれまでの電動歯ブラシの評価軸であった「性能」に加えて「おしゃれさ」という評価軸を加えて開発されました。
これまでの電動歯ブラシとの差別化要素を整理すると以下のようになります。

(従来)→(ポケットドルツ)
大きくて持ち運べない → 化粧ポーチに入るサイズ
モーター音がうるさい → 性能よりも携帯性を重視した結果軽減
無骨なデザイン → マスカラのようなデザイン、豊富なカラーバリエーション

「ランチ後に気軽に使える携帯性に優れた電動歯ブラシ」からさらに一歩踏み込んで、「マスカラのような電動歯ブラシ」というコンセプトを掲げています。

「雨」のフェーズで表層的な課題だけでなく、しっかり深掘りしたことで、対策となる「傘」が消費者に受け入れられたのでしょうね。

まとめ

ということで、今回はロジック整理に使えるフレームワーク「空・雨・傘」をご紹介しました。原因・課題・解決策と事象を切り分けることで見えてくるものがありそうですよね。
今回はマーケティングという文脈でご紹介しましたが、本来はロジカルシンキングで使われるそうです。汎用性のあるフレームワークなので、一度使ってみてくださいね。

今回の参考文献を載せておきます。
・安宅和人『イシューからはじめよ』英治出版
 →空雨傘のフレームワーク
・桶谷功『戦略インサイト』ダイヤモンド社
 →ポケットドルツの開発ストーリー
・田所雅之『起業参謀の戦略書』ダイヤモンド社
 →ポケットドルツの考察

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
ロジカルシンキングって鍛え方がいまいちわからないですよね。笑
「中の人」は比較的ロジカルに考えることが得意な方ですが、苦手な方は今回紹介したようなフレームワークを活用してみるといいかもしれません。

ちなみに、ポケットドルツがとらえたPain「オジサン臭くてイヤだ」はカテゴリインサイト、Gain「話題の中心にいたい」はヒューマンインサイトに当たります。インサイトに関する記事は下記を参照してみてくださいね。

それでは、またお会いしましょう。

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