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【n%フィクション#7】誰だって一度は夢見るアレ

確かに明晰夢は成功した。

だが、最初から夢は自分の手の内になかった。

〈はじまり〉
自分は都市伝説や怖い話、所謂オカルトそのなかでもホラージャンルが好きだ。それは幼少時分から始まり、有名どころで鬼太郎にぬ~べ~、ニッチなところで学校怪談に稲生物怪録など触りに障った。鳥山石燕もびっくりの英才教育である。それ故、人一倍それ系への好奇心は強いし、試したくなる。今回はそんな話、短文だけどトップクラスに怖かった話。

〈本編〉
高専は4年、夏のことだった。その日は明晰夢の検証を行おうとしていた。明晰夢とは、夢であると自覚しながら見る夢。自然にもたまに発生しうるが、コントロールすることで好きなときに見たい夢が見れる、謂わばオカルト系裏技である。誰だって一度は好きな夢を見たい、そう思ったことがあるだろう。ご多分にも漏ばれず自分もそうだった、だがこの明晰夢、トレーニングが難しい、やれ夢日記がどう。やれスピリチュアルがこう。時間・能力・運、類まれなる確率:その先にようやく成立するのだ。だから興味と天秤をかけても、いつもコストが勝ち実行に移すことができなかった。しかし、その日は違った。退屈しのぎのネットサーフィン、google検索ページの4ページか5ページ、3番目くらいの過疎サイト。そこには簡単に実行できる方法があった。明らかに眉唾、とはいえお手軽。天秤は実行に傾いた。
期待に不安、そして懐疑。折り混ざる意識は夜の帳ともに下へ下へ降りていく。

~~~

気づくと自分は、自宅の浴室に座っていた。目の前というか至近距離、何故か普段着の母も座っている。成人2人が入るには我が家の浴室は狭すぎる。

あ、成功した。

すぐに自分が明晰夢を試したこと、これが夢であることに気づいた。まさかの一発成功である。だけど...これって、ここからどうするんだっけ。よくある話なら、何かを強くイメージすると変わるが、いっこうに変わる気配がない。元カノ・女湯・そらをとぶ、ゲスにも下世話な煩悩をいくら思えど何も変わらない。ふと周りの景色が1mmも変わっていないことにゾッとした。母親は人形のように動かない、夜なのか浴室はぼんやりと仄暗い。これって、ヤバいんじゃないか。普段なら許せる整合性の取れなさが自分の不安をますますと煽る。

「おーい、俺も入るぞ」

ハッと振り返ると、磨りガラス越しの扉に父の影が映る。だけどそれだけじゃない、100cmも満たない身長の幼児2人も立っていた。しかもいずれも全身が殴打されたように所々の青紫、生気のない白に生々しい傷口ばかりが映える。ヤバいと思っているはずなのに、勝手にOKを口にしていた。戸が開き、父と何かはやってくる。だが不思議なのは、浴室に入るところから浴槽に浸かるまでの数秒は、漫画のコマのように断続的かつ第四の壁視点だった。気づけば父も何かもいなかった。あるの耳にベタつく静寂ばかり。父と何かが溶けるように消えていった浴槽を凝視し、「い、今お父さん。入ってきた...よね?」と母へ尋ねるために前方へ視線を移す。

「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

そこには、先程までの静かな姿と打って変わって大音量で何かを叫ぶ母らしきものが居た。よくあるホラー同様、白目はなく深淵のように深い黒、目も口も黒い、まるで黒丸の逆三角形だ。恐怖は最高潮に達し、気づかないうちに自分も大声で叫んでいた。そして、その声によって悪夢は覚めた。

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時刻は深夜は3時、普段ならば少し怖いと思うものの、悪夢明け。その整合性のある暗さはむしろ安心感があった。汗ばむ体で考察する。自分は大きな勘違いをしていた、確かに明晰夢は成功した。だが、最初から夢は自分の手の内にはなかった。自分は"見る"か"見る"かの選択肢のなか悪夢を食まされていた。そもそもでホントに明晰夢を見る方法だったのか?今ではわからない。

〈後日談?〉
自分が現在している4人の家庭教師先の1人に怖い話が大好きな中学生がいる。夏も近い6月頭、ふと思い出しこの話をしたところ、嬉しくもかなり怯えていた。とはいえさすが男子中学生、しばらくすると「やり方ってどうやるんですか?」と尋ねてきた。言うて成功するわけないかと詳細に話し、授業へと戻った。

そして、一週間後の休憩時間、「そういえば」とその子は話題を持ち出してきた。普段はあまり話題を出さない子なので珍しいな聞いてみる。

「明晰夢...僕も成功しましたよ。」

ゾッとしたのは覚えてる、なのにその子が何を話したのか思い出せない。
そこだけ消しゴムで刈り取ったかのように記憶が消えている。

悪夢は再度目覚めた。

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