見出し画像

特別連載03 新時代のデザイナー像「デザインジェネラリスト」とは何か?

Wab Design School 特別連載 第3回(全5回)

“デザインジェネラリスト”を育成するオンラインスクール「Wab Design School」を開講するワヴデザインの代表/クリエイティブディレクターの松本龍彦、オンラインスクールの発起人であるインフォメーションアーキテクト/UIデザイナーの渡邉大純が、開講の背景やその思いについて語る連載インタビュー。3回目となる今回は、Wab Design Schoolが定義する「デザインジェネラリスト」という新しいデザイナー像や、求められるスキルセット、デザインの現場で提供できる価値などについて、ふたりに話を聞きました。

[聞き手・構成・文]
原田優輝(Qonversations)


これからのデザイナー像を言語化する

ーWab Design Schoolでは、課題抽出や要件定義といった上流工程から、最終の表層デザインまで一気通貫で考えられる人材を「デザインジェネラリスト」と定義していますが、この言葉はどのように生まれたのですか?

渡邉:これまでもお話ししてきたように、プロジェクトの上流から関われるデザイナーはすでに当たり前の存在になっていますし、さまざまな企業の求人情報などを見ても市場から高い評価を受けていることがわかります。でも、実際にはこうした人材はまだ少数派で、現場のデザイナーの中には「表現」を追求したいという方たちも多く、アンバランスさを感じていました。我々がお付き合いのある企業からもそうした人材を探していると聞く機会が増え、それなら自分たちがそのデザイナー像を体現していこうと考えるようになりました。そして、そうした人材を僕らなりに定義しようとしてつくったのが、「デザインジェネラリスト」という言葉でした。

松本:当時、ワヴデザインは組織改善のさなかにあって、「これからはこういうデザイナーが必要だよね」という社内に浸透しつつあった考えをしっかり言語化したいという思いがありました。そして、自分たちが考えている価値観や概念を端的に示せる新しい言葉をつくった方が良いということになったんです。会社としても「デザインジェネラリスト」を育てるという方向に舵を切ることで、自分たちの特徴を明確に打ち出せるということがあったし、結果的にそれがWab Design Schoolのテーマにもなりました。

ーデザインジェネラリストの役割を表す図もつくられていますね。

渡邉:はい。既存のデザイナーとどのように違うのかを明確に説明するためにつくっています。やはり現在最も多いのは「ビジュアルデザイナー」にあたる方たちだと思っており、設計段階からが自分たちの仕事だと考えていたり、上流工程に興味を持ちにながらも、どこから考えればいいのかがわからないという方が多いような気がしています。

松本:自分たちとしては、そうした人たちを「デザインジェネラリスト」に変えていきたいと思っていますし、ゆくゆくはワヴデザインも、デザイナー構成比がデザイジェネラリスト8:デザインスペシャリスト2くらいの組織にしていきたいという考えがあります。ただ、我々はビジュアルデザイナーやデザインオペレーターの存在も役割分担をする上で必要だと考えているので、決してデザインジェネラリストのみが大事と考えているわけではないことも併せてお伝えしたいポイントですね。

「デザインジェネラリスト」の役割を表す図版
(Jesse James Garrett「The Elements of User Experience 5段階モデルで考えるUXデザイン」(マイナビ出版. 2022)をもとに作成 )


クリエイティブディレクターとの違いとは?

ーデザインの世界では、クリエイティブディレクターやアートディレクター、デザイナーといった肩書きもありますが、それらとの共通点や相違点があれば教えて下さい。

渡邉:世のクリエイティブディレクターと呼ばれている方たちも、クライアントとのやり取りを通じて要件を定義したり、情報の設計や伝達の手段を考えているはずなので、デザインジェネラリストとの共通点は多いと思います。ただ、クリエイティブディレクターやアートディレクターというのは、デザインの「表現」部分に寄った肩書きだと思ったんですね。例えば、デジタル領域のデザイナーの中には、主にコーポレートサイトなどWebサイトを手掛けている方と、Webサービスやアプリなどをつくる方がいますが、両者がやっていることは大きく異なります。前者が主に「伝えるためのデザイン」という観点で表現を追求していくことに対して、後者は主に「使ってもらうためのデザイン」という観点を重視し、表現もそれに付随する形で現れます。デザイナーと一口に言っても職能の違いがある中で、クリエイティブディレクターなど従来の肩書きには、広告をはじめ「伝達」や「表現」に特化したイメージがあったので、あえて新しい役割を定義したところがあります。

松本:クリエイティブディレクター、アートディレクター、デザイナーという肩書きは、クリエイターのヒエラルキーを表しているような印象もありました。先にも少し話したように、そうしたデザイナーの「序列」ではなく、「役割」の違いを明確にしたかったんです。また、肩書きというのは人の行動を制限する側面もあります。例えば、「あなたはアートディレクターです」と言われると、その範囲の業務しかしなくなってしまうところがある。一人ひとりのデザイナーにより広く行動してもらいたいと考えている我々からすると、すでによく知られている肩書きに付随する先入観やバイアスを取り除くという意味でも、新しい定義づけをすることは必要不可欠なことでした。


デザインジェネラリストがいることの強み

ープロジェクトにおいて、デザインジェネラリストがいることの強みやメリットは何ですか?

渡邉:最もわかりやすい強みとして、アウトプットのイメージまでを見据えた概念整理によって合意形成ができるということが挙げられます。事業やサービスの方向性を決める会議の場では、メンバーそれぞれの頭の中にあるイメージをもとに意見が飛び交うようなことがよくあります。こうした空中戦のような議論の場においてデザイナーが、「いま論じられているのはこういうことですよね」という概念整理をアウトプットのイメージとともにホワイトボードに描くことで議論が一気に進む現場を何度も見てきました。一方で、情報設計の上流には関わらず、要件定義がなされた段階からデザイナーが関わる場合は、与えられた条件や言葉だけをもとにデザインせざるを得ないため、バトンの受け渡しがうまくいかないことがままあります。サービスの内容やビジネスモデルなどを設計するプロセスと、それを形にする表現のプロセスの双方に関われるデザインジェネラリストがいることによってものづくりの精度は飛躍的に高まり、それは制作者、ユーザーのどちらにとってもメリットになるんです。

松本:最近はコンサルティングを主な事業としていた企業が、表現に強みを持つ会社を傘下に入れるような動きも見られますが、彼らも一気通貫でものづくりをすることの必要性を感じているのだと思います。

ーWab Design Schoolでは、この図にある「デザインコンサルティング」のような思考寄りのデザイン人材に、表現力を身につけさせるということは考えていないのですか?

渡邉:前回もお話ししたように、表現力よりも思考力を育てる方が短時間でできるところがあるので、現時点ではそちらに重きを置いています。ただ、ゆくゆくは時間をかけて表現力を育てるコースをつくるということもあり得ると思いますし、現在のカリキュラムにおいても色彩設計やレイアウトなど必要最低限の表現力を身につけるような授業は用意されています。

設計と表現の双方に関われるデザインジェネラリストによって、最終的なアウトプットのイメージまでを見据えた概念整理や合意形成が進んでいく。


デザインジェネラリストに求められる3つのスキル 

ーデザイナー個人にとっては、「デザインジェネラリスト」のスキルを身につけることによってどんな恩恵が得られますか?

松本:フリーランスのデザイナーであれば、関われる領域が広がり、単価の高い仕事が取れるようになるはずです。また、会社に所属しているデザイナーの場合は、ディレクターと意思疎通がしやすくなったり、自分の意見が通りやすくなるということがあると思いますし、昇進して年収がアップすることも期待できます。さらに、転職する際は選択肢も増え、キャリアアップできて高待遇が期待できると思います。この辺りが現実的に得られるメリットだと思います。

ーWab Design Schoolでは、デザインジェネラリストに求められるスキルとして、「論理的に疑う力(クリティカルシンキング)」「課題解決能力」「コミュニケーション能力」を挙げていますが、これらについても詳しく教えて下さい。

渡邉:良い提案をするためには、クライアントから言われたことを何でも真に受けてしまったり、逆に自分がつくったものに固執することは得策ではありません。そうした中で、周囲の声や自分の考えを常に疑い、本当にそうなのかと問い続ける「疑う力」が大切になります。そして、疑い続けることによって精度高く課題を特定するとともに、その解決策を見出していく「課題解決能力」も必要です。また、しっかりした打ち手を見つけてデザインに落とし込んだとしても、提案の意図をクライアントに的確に伝えられなければ世の中に出すことはできません。そのため、制作意図を的確に伝えたり、クライアントやユーザーのインサイトを引き出すような「コミュニケーション能力」も欠かせない力だと考えています。これら3つの力は市場で活躍している多くのデザイナーに共通するものだと感じますし、それぞれのスキルは密接に関わり合っているものだと思います。(つづく)

いかがだったでしょうか。次回は、デザインジェネラリストを育成するWab Design Schoolのカリキュラムの秘密に迫ります。



-

ワヴデザインでは ”デザインジェネラリスト” を育てるオンラインスクール「Wab Design School」の受講生を募集しています。
数多くのブランディングやデザインコンサルティングプロジェクトを手掛けてきたワヴデザインの社内教育プログラムを元に開発された、論理的思考力やコミュニケーション力重視のデザインカリキュラムにより、現場で求められる課題解決スキルが着実に身につく完全オンライン型のスクールです。

■こんな方に向いています
ビジュアルデザインだけでなく情報設計や課題発見など上流から手掛けたい
仕事の範囲を広げて年収をアップしたい
今後長く通用するデザイナーでいたい
フリーランスとしてやっていけるスキルを身につけたい
説得力のあるデザインを作れるようになりたい


Wab Design Schoolの詳細はこちらから。
まずは話だけ聞いてみたい、という方も大歓迎ですので、お気軽に個別相談会にお申し込みください。

また、Wab Design Schoolではオンラインで様々なイベントを開催しています。「いきなり個別説明会はちょっとハードルが高い...」という方のためのイベントなども行っていますので、ぜひお気軽にご参加ください。