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特別連載01 デザインファームがなぜ?ワヴデザインがオンラインスクールを始める理由についてお話しします

Wab Design School 特別連載 第1回(全5回)

幅広い領域のブランディング、デザインコンサルティング、サービス開発支援などを手がけてきたデザインファーム「ワヴデザイン」が、“デザインジェネラリスト”を育成するオンラインスクール「Wab Design School」を開講します。これから5回にわたって、ワヴデザイン代表/クリエイティブディレクターの松本龍彦、オンラインスクールの発起人であるインフォメーションアーキテクト/UIデザイナーの渡邉大純へのインタビューを通じて、Wab Design Schoolの全貌に迫ります。

第1回となる今回は、デザインファームのワヴデザインがオンラインスクールを始めることになるまでの経緯や、その背景にある思いなどを聞きました。

[聞き手・構成・文]
原田優輝(Qonversations)


常駐先で感じたカルチャーショック

ーワヴデザインはこれまでにさまざまな領域のデザインを手がけてきたと思いますが、なぜいまスクールを始めることにしたのですか?

渡邉:実は、デザインスクールの構想自体は5年以上前からあったんです。僕自身は、ワヴデザインでWebデザインなどをしていたのですが、やがてサービスのUX/UI設計を専門とするようになり、2014年から2020年まで業務委託の案件で某事業会社に常駐していたんですね。その会社でUIデザイナーやアートディレクターとしていくつもの案件を手がけたのですが、関わり始めた当初はカルチャーショックを受けることが結構あって。

ーカルチャーショック、ですか?

渡邉:はい。最初のカルチャーショックは、余白から角丸のRまで、すべてのデザインをロジカルに考え、ロジカルに説明して、合意形成をしなければならないということでした。要は、このデザインは何を解決するために役立っているのかということをすべて説明できないといけない世界だったんです。それまでの自分はもっと表現に依った感覚的なデザインをしていたところがあったので、そこにまず驚きました。ただ、同時にもともと理詰めで考えていく方が好きだった自分にはこっちの方が合っているとも感じたんです。

松本:もともと渡邉は表現に興味があってワヴデザインに入ってきたのですが、傍から見ていると、周りに自分よりも表現に長けたデザイナーもいる中で、自分がどこに進めばいいのか悩んでいるように見えていました。そうした中で、サービスやプロダクトを設計の観点から考えていくようなロジカルなデザインが求められる環境が肌に合ったのだと思います。


デザイナー採用で感じた大きな課題

渡邉:その会社では、組織マネジメントの一環としてパートナーデザイナーの採用もお手伝いするようになったのですが、数年続ける中で良いデザイナーと出会うことがいかに難しいかを痛感するようになりました。ちなみに、その会社は誰もが知る有名企業で、仮にA社とさせてもらいますが、そのA社でさえ100人の応募のうち書類を通過するのが5~10人、採用にまで至るのは1、2名という状況でした。

ーそうなんですね…。ちなみに、採用の基準はどんなものだったのですか?

渡邉:採用基準は大きく2つあって、まずは機能的かつ情緒的で審美性の高い表現ができるか否か。例えば、近接や整列といった基本的なルールや、適切な余白が取れるかといったことなどもここに含まれます。そしてもうひとつは、オペレーターのように指示通りに画づくりをするだけではなく、より上流のプロセスに関わろうとするスタンスを持っているかということでした。「これはデザイナー(=私)ではなく、ディレクター(=あなた)の仕事でしょう」と線引きをしてしまうような人ではなく、自ら上流に染み出していけるような人を求めていました。

ー前者の基準はあらゆるデザイナーに共通して求められそうですが、後者については色々な考え方がありそうですね。

渡邉:この2つを満たせる人が本当に少なかったですね。また、僕自身その会社でデザイナーに講義をする機会も多く、人を成長させることに強い興味を持っていたので、デザイナーを探すよりも、自分で育てた方が早いと思うようになったんです。そして、デザイナー仲間や松本などとも繰り返し話す中でだんだんと構想が固まっていき、あるタイミングで常駐スタイルに区切りをつけて本格的な立ち上げに着手したんです。

松本:当初、A社には渡邉を含めてワヴデザインから3人が常駐していたのですが、年月を経て10人ほどになり、これが会社にとっても大きな転換点になりました。その頃にはデザイン、エンジニアリング、ビジネスの専門性を融合させるtakramのようなデザインファームが存在感を増すようになっていて、寡黙な職人のようなイメージがあったデザイナー像が変わりつつあることを肌で感じていました。そして、自分たちのアイデンティティもそこにあるんじゃないかと考えるようになったんです。


ワヴデザインの活動の変遷

ーワヴデザインとして手がける仕事も、時代とともに変わってきたのですか?

松本:そうですね。ワヴデザインは設立から15年ほどが経ちますが、当初は単館映画のチラシやパンフレット、音楽関係のグッズのデザインなどをしていました。やがて、デザインのフィールドが印刷物からWebに広がってきたタイミングで渡邉らが関わり、Flashを使ったキャンペーンサイトなどを量産していた時代がありました。その頃もグラフィックの仕事は並行しながら、映像などにも活動の領域を広げていき、やがてブランディングの仕事なども増えていく中でサービスのブランディングや改善の依頼なども受けるようになっていきました。

ー一口にデザインと言っても、当初手がけていた映画や音楽関連のデザインと、サービスにおけるUI/UXのデザインというのはだいぶ異なるものだと思いますが、こうした幅に会社としてはどのように対応していったのですか?

松本:正直そこに対応していったのは社内でも数名だけで、デザイナーたちの意識はバラバラだったと思います。自分を含め経営に関わる人間としては、能動的にデザインのフィールドを開拓したというよりは、時代に身を任せ、必要に駆られる中で領域を広げていった感覚の方が強いのですが、スタッフの中には印刷物の仕事を中心にしたいと考える人間もいましたし、採用についてもグラフィック、Web、サービスデザインなど領域ごとに行うことがほとんどで、これらをまたいで仕事ができる人材はなかなかいなかったですね。

2011年のワヴデザインの実績。ライヴ&サウンドスペース「SOUND MUSEUM VISION」のロゴを制作した。当時の社員は6〜8名ほどで音楽関連の仕事も多かった。


デザイナーを育成するということ

ーそうした問題意識も今回のスクール事業につながっていると思いますが、社員の育成についてはこれまでどんな意識で臨んできたのですか?

松本:先ほど話した職人的なデザイナー像をベースにするのであれば、表層のデザインスキルを中心に高めるやり方は色々ありますよね。でも、それだけではプロジェクトの上流から関われるデザイナーを育てることは難しいですし、正しくリサーチをする、ユーザーとの接点を考えるといったことができなければ、表層のデザインスキルも本当の意味では高まらないと感じていました。そうした人材を育てていけるような会社の仕組みが必要だということをモヤモヤと感じていたところがありました。

渡邉:まさに今回のスクールでは社内の教育も見据えています。ワヴデザインのコアメンバーには、ブランディングやUIデザインなどそれぞれの得意領域があるのですが、社内でスキルの伝承ができていないという課題がありました。だからこそこのスクールを通じて、体系化した学びを構築して、社内に伝えていきたいという思いがあります。

松本:ワヴデザインでは、コロナ禍を機にリモートワーク体制に切り替えたのですが、オンラインでスタッフとコミュニケーションする中で、言語化の重要性をより強く感じるようになりました。どんな伝え方、教え方をするとデザインの質が上がるのかということを渡邉とよく話すようになり、自分が20年以上デザインの仕事をしてきた中で得てきたことを言語化、メソッド化して伝えるようになると、目に見えて伸びるスタッフが出てきたんです。また、人に何かを教えるようとすると、自分の考え方を補完しないといけない部分も見えてくるんですよね。どんな難しい案件に取り組むよりも、教えることが何よりも個人の成長につながると強く感じていて、自分自身この2、3年ほどが一番成長したようにも思います(笑)。

2021年のワヴデザイン忘年会の様子。2020年に続いてオンラインで開催した。コロナを機にリモートワークに切り替え、オンラインコミュニケーションが日常となった。


なぜ教育を外に開くのか?

ーデザイン人材の育成には内部で完結する社内教育と、外に開くデザインスクールがあると思いますが、ワヴデザインが後者を選択したのはなぜですか?

渡邉:これまでに我々の案件に関わって頂いていた外部のデザイナーとのつながりが大きかったですね。そうした方々のように社外には優れたフリーランスのデザイナーもたくさんいますが、一方でまだまだ伸びしろを感じるデザイナーも少なからずいると感じてきました。これからの時代に求められるデザイナーを社内外で一人でも多く育成していくことで、世のデザイナーたちのパフォーマンスが総体的に高まれば、良いプロダクトやコミュニケーションが増えていくはずです。同時に会社としては受託の仕事以外の事業をつくっていきたいという考えもあったため、社外向けのスクールという発想はわりと自然な流れでした。

松本:個人的には、高いスキルを持ち、経済的にも成功しているデザイナーは、人を雇用することで技術を伝承していってくれればと思っているのですが、雇用はリスクもあると思うので、個人事業主で終わってしまう人もいる気がします。デザイン組織としても、新規の人材を育てなければ業界が続いていかないという危機感がある中で、それこそ自分たちの周りにいるデザイナーなどにも講師になってもらえるようなスクールを開講し、技術が伝承されていく機会をつくりたいと考えています。また、自分たちの方法論を外に開いていくことで、また別のメソッドを持っている人たちのノウハウが入ってくることも期待しています。その循環が誰かのスキルを高めることにつながり、社会もより良くなって、さらに自分たちの新しい事業になるなら、こんなにやりがいがあることはないと思っているんです。(つづく)

最後までお読み頂き、ありがとうございました。次回は、ワヴデザインの2人とともにデザイン業界の現状と課題、今後求められるデザイナー像などについて考えていきます。今後の更新にもぜひご期待ください。


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■こんな方に向いています
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