特別連載02 「人生100年時代」のキャリアデザインを考える。中堅デザイナーの実は危険な未来とは?
Wab Design School 特別連載 第2回(全5回)
課題解決の視点を持って、プロジェクトの上流からアプローチできる“デザインジェネラリスト”を育成するオンラインスクール「Wab Design School」がまもなく開講します。ワヴデザイン代表/クリエイティブディレクターの松本龍彦、オンラインスクールの発起人であるインフォメーションアーキテクト/UIデザイナーの渡邉大純へのインタビューを通じて、Wab Design Schoolの全貌に迫る連載コンテンツの第2回では、いま求められるデザイン人材やデザイン業界の現状、デザイナーのキャリア構築におけるポイントなどについて意見が交わされました。
[聞き手・構成・文]
原田優輝(Qonversations)
デザイン界に広がる認識のギャップ
ー前回のお話を通じて、Wab Design Schoolが、プロジェクトの上流から力を発揮できるデザイナーの育成を掲げていることがわかりましたが、デザインの領域が広がり、その有り様も多様化している時代だからこそ、デザイナーの「役割」に対する認識にも大きな開きが生じているように感じます。
松本:採用を通じて若い世代と接していてもそれは顕著ですね。例えば、大学でUI/UXデザインなどを学んできた人であれば、マーケティングのリサーチから課題を見つけていくこともデザインの一プロセスだと認識しています。一方で表現を中心に学んできた学生たちは、表層的な部分だけがデザインだと考えていることも少なくありません。個人的には、もう少し視野を広げて上流から関わるデザイナーを目指すと、より活躍できるのにと思うこともありますね。
渡邉:前回、僕が業務委託の案件で常駐していた会社で感じたカルチャーショックについてお話ししましたが、そこのUXデザインチームを取りまとめていたのが、自分でビジュアルデザインはできないけど、誰よりも精度の高いデザインレビューができる方だったんです。デザインの機能や人間の認知などを深く理解していれば、自分で手を動かさなくともデザインができるのだということも当時の自分にとってはカルチャーショックでしたね。一方で、制作の現場には、「上流工程の情報設計などはディレクターがやってくれないと困る」と言うデザイナーもいます。こういう人たちは、デザイン=表現と考えていることが多いのではないでしょうか。
ー感性や表現に重きを置くデザイナーと、論理や機能に重きを置くデザイナーでは、価値観やスタンスが大きく異なるのかもしれません。特に近年のデザイン界では、「右脳VS左脳」「クラフトVSロジック」といった対立構造が生じているようにも感じます。
松本:僕らは、あらゆるデザイナーがプロジェクトの上流から関われるデザイナーになるべきだという考えを押し付けるつもりはないですし、色々なタイプのデザイナーがいて然るべきだと思っています。ただ、お金をいただいてデザインをするというのがどういうことなのかというのは、意識する必要があると思っています。
デザインに支払われる対価とは
ーワヴデザインでは、デザイナーが関わる領域についてどのように考えているのですか?
松本:表現領域に重きを置いたデザインだけをしていると活躍の場が限定され、スポット的な関わりになってしまうように感じています。自分たちとしては、デザイナーがより広い領域で動けるようになった方が楽しいと思っていますし、プロジェクトの上流から関われるようになることは、社会からのニーズに応えられる人材になることでもあると考えています。ニーズがあるということは、言い換えれば市場価値が高いということなので、給与にも反映されると思っています。
ーデザインに支払われる対価というのは、経済への貢献度と切り離せないものだと思いますが、デザインと経済の関係性も時代とともに変わってきているところがありそうですね。
松本:そうですね。一昔前は、もともとデザインレベルが50点くらいだったところにプロのデザイナーが入り、ロゴやパッケージ、内装などをより良い見た目にすることで70~80点くらいに引き上げるような仕事が多かったと思うんです。それだけでも十分に価値が生まれ、集客や売上がアップした時代があった。でも、表層の部分のデザインの平均点は年々高まっていて、いまでは商品にしても施設にしてもWebサイトにしても、それなりに良いものがたくさんありますし、個人のお店がセンスの良いロゴや内装を自らしつらえるようなことも珍しくなくなっています。そうした中でデザイナーには、最初から75点くらいだったものを10点、20点引き上げるようなことが求められるようになり、それは表層のデザインを磨くだけでは実現が難しい。表層のデザインの質は絶対に必要ですが、細やかなリサーチや分析、情報の整理などまでしっかりやらなければ、デザインが経済に貢献できない状況になっているのだと思います。
中堅デザイナーに残された伸びしろ
ー表層のデザインを提供することで対価が得られていた時代を経験しているデザイナーほど、デザインに対する認識やアプローチを変えることが難しそうな気がします。
渡邉:デザインを取り巻く状況が変化しているからこそ、そうした中堅世代のデザイナーの認識を変えていきたいという意識が個人的には強いです。松本が言うように大学時代に学んできたものによって生じる認識の違いこそあれど、総体的にいまの若い世代の方は、ワヴデザインがスタートした15年くらい前と比較すると、デザイナーの役割をはるかに広く認識しているように思います。一方で、ある程度キャリアを積み重ねてきた30~40代くらいの中堅世代のデザイナーは、マネジメントや後進育成に関わることも多いため、この世代にアプローチすることで社会的な影響力も最大化できます。しかし、単に危機感を促すといった外的なアプローチだけでは人の行動を変えることは難しいため、いかに自分自身で課題に気づき、行動へ移してもらうか、といった働きかけが大事になってくるのだと思います。
ーデザインにおける表現力や造形力は、センスや実践経験などの要素が少なからず影響することから、一朝一夕で磨くことはなかなか難しいように思います。一方でデザインに必要な論理的思考というのは、学びを通して比較的短期間で身につけることができそうですね。
渡邉:その通りだと思います。論理的な思考法というのは、すでに「型」として残されているものも多いですし、最低限の理解力さえあれば短期間で力を伸ばせる部分だと考えています。表現力や造形力に関してもベースを引き上げるためのメソッドはありますが、思考力を鍛えるよりは時間がかかるものだと感じています。そのため、Wab Design Schoolでは、一定以上の表現力を持っている人に思考力をインプットするということをひとつのモデルケースとして考えています。そういう意味でも、これまでのキャリアを通じて表現力を磨いてきている中堅世代のデザイナーというのは、論理的に考えるための方法を学ぶことで飛躍的にできることが増えるはずですし、上流からデザインに関われる即戦力になれると考えています。
人生100年時代のデザイナー
ーデザイナーにとって、キャリアを通じて獲得してきたスキルやノウハウは他に代えがたい資産である一方、それだけで時代の変化に対応していくというのは持続可能な考え方ではないのかもしれません。
渡邉:これは自分がキャリアコンサルティングの勉強をした際に学んだことも大いに影響しているのですが、Wab Design Schoolでは、「人生100年時代」をキーワードとして掲げています。かつては60歳前後で定年退職し、隠居生活を送るようなことも現実的でした。ただ、健康年齢が上がり70〜80歳になっても現役で働くことが現実味を帯びてくるこれからの時代において、20~30代で学んだことだけで乗り越えていくという考え方はもはや通用しないと思うんです。
松本:キャリアの中盤に差し掛かる30、40代くらいで新しいことに取り組むのは重要なことだと思います。一度自分を見直す良いストレッチにもなりますし、「自分って意外に分析も得意なんだ」という新しい発見もあるかもしれません。
渡邉:デザイナーとしていかに進化していくのかというのは常に重要なテーマだと思うんです。そして、僕たちは進化したデザイナー像を、「デザインジェネラリスト」と定義しています。今後も表層だけのデザインが主流に戻るようなことはあまり考えにくい中、課題解決の視点を持って、プロジェクトの上流からアプローチできるようになるために学ぶことは、デザイナーとして長く活躍し続けるための基礎力を身につけることでもあると思っています。
いかがだったでしょうか? 次回は、Wab Design Schoolが考えるこれからのデザイナー像「デザインジェネラリスト」について詳しく掘り下げていく予定です。次回の更新もお楽しみに。
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