昔々のある場所で【小説】
昔、昔の物語。ここから遠く離れた場所にカルテット王国という国がありました。そこでは広大な草原と豊かな土壌、温暖な気候をつかって農業が盛んに行われており、国中の人は毎朝早くに家を飛び出し、へっさほいさと畑仕事におわれておりました。
しかし冬になると農作物は育たなくなり、その間国民達は大いに休み、毎夜の様にはしゃぎ回りました。
そんな国でのとある秋のこと
国の外れにひっそりと父、母と二人の息子で暮らしている四人の家族が暮らしていました。その家族も仕事として農業を行っていましたが、家族が持っている土地は他の農業をやっている人と比べるとたいそう小さく、おまけに土地環境も悪いので、四人がこれから生活していくのもままならない状況でした。それに加え今年の収穫量は昨年の半分にも及ばない。このままだと冬の間にひからびてしまいます。街に行けば皆はうかれて酒を交わしているのにもかかわらず、家は今日の晩御飯の事で手が一杯。仕方が無いから父は自分の結婚指輪を質にだそうと思っていたその時、
「ドンドンドン」と音がしたので窓を除くと、見知らぬ男が家の扉を叩いておりました。男は若いとも老いているとも言えぬ顔立ちで、長いマントで体を覆い、手さげかごを持っておりました。
「どちら様ですか?」
扉を開けてそう尋ねると、男は持っていたかごから種を取り出し父にみせ、こう言いました。
「貴方達に今一番必要な種を売りに来ました。」
「どういうことですか?」
「こんな小さな土地じゃろくに畑仕事なんて出来ないでしょう。家族4人で冬をしのげるほどのお金も無いんじゃありませんか?」
男の言葉には遠慮が無く、失礼きまわりないものでありましたが、それ以上に男の持っている種について気になった父は種について質問をしました。
「これは冬でも育つ魔法の農作物の種です。これさえあれば、冬の間でもお金を稼ぐ事が出来ますよ。」
「いくらですか?」
「貴方がしているその指輪。それを頂ければこの籠に入っている種全て差し上げましょう。」
父は指輪を男に渡し、種が入った籠を手に入れました。
それからすぐに畑に向かい、種を植え始めました。
「お父さん、何してるの?今年の仕事はもう終わったんじゃないの?」
「今年は冬も仕事をするぞ!」
「えー、一緒に遊んでくれるって言ったじゃん。」
「そんな事言ってないで、お前も種をまくのを手伝え。」
父と子は小さな畑に種をまき終えました。
それから一週間後、畑一面に新芽が生えてきました。これには父と母も大喜び。茎が伸び、葉が生えだし、日に日に順調に成長していくので、父と母は再び畑仕事の毎日へと戻っていきました。セッサホイさと働いて、見事作物を収穫することが出来ました。
こうして家族は今年の冬を乗り切る事が出来たのでした。
そして次の冬がやってきました。相変わらず家族はギリギリの状況で生活をしていた為、昨年収穫した作物を再び育てることにしました。昨年収穫しておいた実をうえると、その年も順調に成長をしていきました。しかし、不幸なことに子供が流行り病にかかってしまいました。医者にみせると、治すのにはワクチンを打つ必要があると言われたのですが、そのワクチンを打つためのお金は家族にはありませんでした。
そこで家族は種を他の人達にも売ることしました。
冬でも育てる事ができるというその種は、国中で話題を呼び、とぶように売れました。そのお金で子供は無事ワクチンを打つことができ、健康になったのですが、国は変わってしまいました。街に行けば皆が愉快にお祭り騒ぎをしていたのですが、街が一気に静かになったのです。それは皆か畑に戻り仕事仕事の毎日に戻ったからでした。
こうしてこの国は休むことを知らない国となったのです。
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