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【寄稿】内田 聖子 さん(PARC(アジア太平洋資料センター)共同代表)杉並区×ミュニシパリズム

2023年、区民とともに、岸本聡子杉並区長の誕生に尽力した内田聖子さん。2人は20年来の友人で、ともに国内外で新自由主義に抗い、農業や食料問題、公共サービス等の課題に取り組んできた。岸本区政で行なわれた杉並区議選では、新人議員が多数当選。女性区議が増え、男性議員の数を超えたことは記憶に新しい。有権者は選挙でしか国政を変える機会はないが、日頃から地域で住民が主体的に政治に参加していく「ミュニシパリズム」が日本でも注目され始めている。内田さんに話を聞くとともに、各地で活躍する自治体議員に寄稿してもらった。

ミュニシパリズムのスピリットは、地域のことは住民が主体的に決めていくという、民主主義の基本です。日本では、議会と住民と行政が不健全な形で機能し、住民は行政に不信感を抱くことが多い。職員にしても、住民の声をクレームとしか受け止められないことがよくある。協働できていないんです。これを変えるのは住民の声。行政を動かし、どうやって実行してもらおうかと切り替えると、見える風景が変わるのではないか。そのためには、良い首長、議員がいないと。だから選挙が大事なんですよね。
区長選を経て、私は現在、PARCの仕事をしながら、岸本さんの政務の仕事をしています。前区政で進められてきた大規模開発や民営化等には住民の声が反映されていなかったので、立ち止まって考えようというスタンスでした。しかし、全てを白紙に戻すわけにはいかず、児童館が既に1つ廃止されてしまった。住民からすれば、廃止を止めてほしいから投票したのに、となる。廃止された後の統合施設の利用方法をより良くすることに出口を見出すしかありません。
杉並区の職員は約6000人いますが、職員の意識は確実に変わっていると感じます。昨夏、施設再編の過程で、区内7カ所で説明会を開いたが、住民に「進め方がおかしい。行政のやりたいことを納得してもらおうというのが透けて見える」と指摘されるなど、予想外の展開がありました。ところが、回を重ねるごとに改善されていき、職員が変わっていったのです。職員には、わあわあ言う住民は「活動家」という偏見があったが、無作為抽出で選んだ様々な人たちも、町づくりや区制に意見を持っていて、圧倒的多数の住民は、自分たちの意見を届けたい、ポジティブなことを一緒にやりたいと思っていると実感でき、顔つきも変わってきたのです。
国際的には、新自由主義に反発し、自治体から変え、動かそうという流れが増える傾向にはあります。しかし、圧倒的多数の自治体は財政的にも国に縛られており、権威主義的国家であれば、そもそも難しい。新自由主義経済の力は大きいが、時代の流れを示す象徴的な意味はあり、「公共の再生」という事例が可視化されることは、他の自治体の住民や首長に対する提案や励ましにもなると思います。
例えば、アメリカでは30程の自治体が顔認証のカメラ設置を禁止する条例を作っています。住民の個人情報を勝手に収集させないための抵抗です。スペインのバルセロナでは、アマゾンに課税する条例を作った。国の法人税以外で地方自治体が課税しているのは世界で初めてだと思います。
いま、欧米の市民社会では、いかに人権を中心にデジタル政策を実装していくか議論されています。人を幸せにするデジタル化は、自治体の中でこそ追求できる。スマートシティにしても、IT企業が儲けるだけではなく、本当の意味での街づくり、良い提案ができるはず。そこでは住民が意思決定プロセスに参画していくことが重要です。
日本では、自治体から国を変えるのに何十年かかるかわからないが、*LIN—Net(ローカルイニシアティブネットワーク)にはポテンシャルがあります。5つの主要政策の理念に共感すれば入れる、緩やかなネットワークです。私たちは「地域の政治から」と活動していますが、塊になって国に物申すことは必要。「恐れぬ自治体」のつながりで、影響力を強めていきたいです。
他方、地域の政治に国政政党の論理を持ち込むべきではないと思っています。住民本位の政策を阻む側面があるからです。例えば、軍事や貿易など、政策的に自民党とは相容れないが、地域の中で福祉、医療、ケアの領域に特化すれば、一緒にできないわけではない。世界のミュニシパリズムの実践から学ぶとしたら、日常的に地域の中でいろんな人とつながって、行政とも議員とも一緒に課題を解決するという、その道しかありません。

(2024年1月1日)


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