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【早稲田祭2024企画×文芸分科会小説】『あの子の靴を履いて』 作:帆唄

企画概要

早稲田祭2024企画として「奥華子トークショー in WASEDA ~あなたと恋を語りたい~」を開催するにあたり、文芸分科会では奥華子さんの楽曲に着想を得た小説の執筆を行いました!この企画では、文芸員が各自好きな楽曲を選び、執筆した小説全3作品を順次投稿予定です。

この企画もいよいよ最終回となってまいりました。今回は第三弾となる小説『あの子の靴を履いて』を投稿します。
ぜひ、楽曲を流しながら、歌詞を見ながら、読み進めてくださいね。

第一弾の『いろどり』はこちら!

第二弾の『星の観測者』はこちら!

今回の楽曲

あなたに好きと言われたい - 奥華子
「あたし」の切実な思いが曲全体から伝わってきます。穏やかな曲調で歌声が聞き取りやすく、歌詞がとても心に沁みます。眠れない夜に聴きたい曲です。(帆唄)


あの子の靴を履いて 作:帆唄

 机の上の携帯電話が、あたしのお気に入りだった曲を奏でた。たった一人だけのために用意した着信音。この曲を聴くだけで、誰からの電話なのかが分かる。
「はいもしもし!」
 あたしはわざと明るい調子で電話に出た。あなたがそれを求めていると知っているからだ。
 本当はもっとかわいい声を出してみたりとか、「声が聞けて嬉しい」と言ってみたりとかしたい。あたしだってそういう健気さぐらい持ち合わせているのだ。
 だけどあなたが待ってるのはそういうあたしじゃないと知っているから、あたしは今日も役に徹する。

 あなたがあの子と付き合う前に、いつだったか恋愛相談を受けたことがある。一緒にご飯を食べようと言われて、浮かれたあたしはこの街で一番お気に入りのカフェを紹介したのだった。
 それから二度とあのカフェには行っていない。
 あなたは「あいつとここに来れたらどんなにいいだろう」と言いながら笑い、スマホであのカフェをお気に入りに登録していた。
 あたしのお気に入りの店をあなたも気に入ってくれたようで嬉しかった。けれど同時に、あなたが素敵な場所に連れていきたい人間はあたしではないのだという事実を突きつけられた。
「あいつ」という呼び方にも温かさがこもっていて、あたしはその温度に嫉妬した。
 あなたはスープを静かに飲み干して言った。
「君にだったらなんでも話せる気がする」
 その言葉を聞いて無邪気に喜ぶことができるほどあたしは馬鹿じゃなかった。けれど口先では喜んでおいた。
「ほんと? 嬉しい」

「聞いてくれてありがとう。またね」
「うん。じゃあまた」
 あなたからの電話は考え事をしているうちに終わり、簡単に切れた。
 夜風に当たろうと家を出てふらふら歩いていたら、道端でうっかり占い師に捕まってしまった。「報われない片想いをしていますね」と既知の事実を突きつけられたあたしは、占い料金三千円をちゃんと支払って言った。
「占い師さんって魔法とか使えないの? 人と人を入れ替えるとかそういうやつ」
 完全に冗談のつもりだった。冗談のつもりで道端の怪しい占い師に魔法を求めたのだ。
 すると占い師は綺麗に口角を上げた。
「誰になりたいのですか?」

 起きたらあの子と入れ替わっていた。
 物語ではよくあることだが現実世界では聞いたことがない。あの占い師は本物どころか魔法使いだったのだ。
 あたしはあの子の姿でめいっぱいのおしゃれをして、あなたに会いに行く。あなたはあの子に「好きだよ」と言う。あなたはあたしの名前を呼ばない。
 あなたに好きと言われたかった。その一言さえ引き出せればなんでもよかった。
 それが現実になったのだから、これはきっとハッピーエンドだ。




さて、第三回にわたったこの企画はお楽しみ頂けましたでしょうか?企画を通して、皆さんが自分の好きな曲を改めて見つめ直す機会になったり、好きが深まったと感じられていたら幸いです。

最後にはなりますが、早稲田祭2024企画を行うにあたり、講演会を快く引き受けてくださった奥華子さん、開催において尽力してくださった外部の方々、そして当日会場にお越しくださった全ての方に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

文芸分科会noteでは文芸員が普段の活動で執筆した小説などの文芸作品を公開しています。ご興味がある方はぜひ!


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