山崎祐介 ローカル

ごせん介護タクシー、公民館主事、コーヒーインストラクター。知って違いを受け入れる、その…

山崎祐介 ローカル

ごせん介護タクシー、公民館主事、コーヒーインストラクター。知って違いを受け入れる、その繰り返しが世の中を優しくする。

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育児休業を終えるとき

息子のいないリビングには、散らばったオモチャが寂しげに転がっている。 私の育休が始まってから6ヶ月、この部屋がこんなに静かに感じたのは初めてだった。 雪国にも、桜の季節がやってきた2019年4月。息子は保育園で新しい生活をスタートさせた。 初登園の朝、息子は思いの外あっけなく、先生に抱かれて園の奥へ行ってしまった。 これで6か月に渡る育児休業は一旦の区切りとなる。息子と2人きりで過ごした日常は、予想より遥かに軽い足取りで去って行った。 自宅で一人、呼び出されることを

    • 深夜のラーメン

      「よし、ラーメン食いにいくか!」  子どもの頃、父はときどき私を深夜のラーメン屋に連れて行ってくれた。夜の10時を回った頃で、小学生が外出するには遅い時間だった。しかし、父がラーメンを食べたくなるのはいつも気まぐれで、飲み会から帰って来てからとか、近所に来たラーメン屋台の巡回を逃してしまったからとか、その食べたい欲求が現れる理由は様々だった。  私はその深夜ラーメンが好きだった。いつもは寝てる時間に外出する非日常感と、カウンターに座って料理をしているおばさんの様子を眺めるの

      • 小さな町の中にも沢山の色がある

        南田中はぶどうの産地、そう聞いてピンと来る人はどれだけいるのだろうか。五泉にぶどうの産地があるなんて聞いたことがなかった。しかし、南田中にはぶどう畑が広がっている。五泉市民があまり知らない五泉が、そこにはあるのだ。  五泉市の南東に位置する南田中によくタクシーを使ってくれるお客様がいる。お迎えに行く度に見えるぶどう畑の景色は、さながら南フランスだ(もちろん南フランスには行ったことはない)。初めて見たときも「これはぶどうを作っているのかな?」とは思ったが、そこまで気にしなかっ

        • 「自分で考える力」について(事業を開催して 感想文)

           先日11/25㈯に五泉阿賀青年会議所(以下JCIと記載)の記念事業として、池上正さん講演会「自分で考える子どもに育てるヒント」と「山王中クエスト&逃走中ごっこ」を同時に開催しました。  私は実行委員長として、この1年間を、福祉タクシー業の傍らJCIのメンバーと共に準備に費やして来ました。いまは事業が無事に終わったことに安堵しております。  私がこの事業を開催したいと考えたのは、現代の便利すぎる環境に危うさを感じたからです。  今の時代は、スマートフォンで何でも簡単に答え

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        育児休業を終えるとき

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        • ごせん介護タクシー新聞に掲載したショートエッセイ集
          21本
        • エッセイ
          4本
        • インタビュー記事
          2本

        記事

          抜歯願望

          5歳の息子の前歯が今にも抜けようとしている。それは前方に傾き、隣の歯との隙間が広がって、既に空間が出来てしまっている。彼の笑顔を見る度に、もう抜けてしまったかと間違えそうだ。 私「あれ!歯、ないよ!」 息子「まだあるよ!」 そんな親子の会話をしながら、その時がくるのを待っている。 息子の歯が生え変わるのはこれが初めてだ。その成長を喜ばしく思うのは親として当然だが、同じく目を輝かせているのが私の父、息子からするとグランパである。 孫が遊びに来る度、歯を確認し「もういつでも抜

          弁当のバラン

           高校生の頃、母が作ってくれた弁当を友人に見られたくなかった。バランのせいだ。  バランとは、おかず同士の間に挟む葉っぱを模した小さなビニールシートだ。おかずを入れるカップ型のものは、フィルムケースやフードケースとも言われるが、我が家ではそれらを総称してバランという。  母は弁当にわざわざバランを用意しなかった。それはいつもアルミホイルを千切ったもので代替されていた。ハサミで切るでもなく、手で千切られたアルミホイル。男子高校生の弁当にオシャレやこだわりが詰め込まれる時代では

          外出のハードル

          「海を見に行きたいけど、車椅子じゃ無理よね」 カーラジオから聴こえる福祉タクシーのCMでは、乗客が諦めかけた願いをタクシーが叶える。しかし実際、諦めとその解決の間には見上げる程の高い壁が反り立っている。  先日も車椅子で介助が必要な息子さんと、そのお父さんをお乗せした。50代と80代の常連様で、よく会話もさせてもらっているお二人だ。中央区の病院からの帰り道「たまにはお昼ご飯を食べて帰りたい」という息子さんに、お父さんは曇り顔であった。目的地を変えますか?と尋ねる私に、お父さ

          Youtubeには負けたくない

           全世界の少年少女と同じく、我が家の息子5歳もYoutubeの虜である。いくら視聴時間を決めても、あと5分、この動画が終わったら、と伸ばし続ける。メディア時間は幼少期から多すぎると依存症の危険がある。あまりに約束を守らないので、これはマズイなと思い始めていたところ、春が来た。  外で遊ぼう、と呼びかけても息子がTVを離れる気配がない。いつものように強制終了させることも出来るのだけど、いつまでもそれでは解決にならない。思い切って、息子への声かけをやめて、娘と2人で庭遊びを楽し

          Youtubeには負けたくない

          卒業文集

           小学校の卒業文集。将来の夢は「少年サッカーの監督」と書いた。なんでサッカー選手ではなく、「少年」サッカーの「監督」なのか。当時のことは良く覚えている。 記憶違いではなく、私は母に「サッカー選手になりたい」と伝えた。母からは「万人に1人なれるかどうか分からない職業だ」と返された。初めて現実に直面した途端、私は卒業文集にそう書いた。比較的なりやすそうな、少年サッカーの監督。 中学卒業時、当時立ち上がったばかりのアルビレックス新潟がユースチームの選手を広く募集していた。選抜テ

          開業10年を迎えた日

           信号待ちの中、ハンドルの上にある手が忙しく掴む場所を探している。自分の気持ちが落ち着かない。ついさっき母に放った言葉を後悔していた。 ・・・  吉田さんと2人で前月の稼働回数を集計していた。集中している私たちに、やたらと母が話を振ってくる。気が散るからと、話を後にするようお願いするも、数秒でまた小話を挟んでくる。どうやら機嫌が良いらしい。  作業が終わって一息ついたとき、待ってましたと言わんばかりに母が言った。 「実は今日で開業から10周年を迎えます。記念にみんなでケーキで

          開業10年を迎えた日

          受話器の向こうで

          「医者に行きたいんだけども… 初めて電話するんだけど…」  不安そうに電話をくれる人はとても多い。初めて利用するサービスなのだから、誰でも多少の緊張はあるだろう。しかし、自分のことは自分でしてきた人間にとって「ただ医者に行く」というシンプルな行為を誰かに頼るのは、私たちが想像する以上の高いハードルがあるのかもしれない。それは極端に言えば、経験の無いことへの「チャレンジ」に似た感覚ではないか。    多少は歩けるがお願いできるか  近距離だけど来てくれるか         

          受話器の向こうで

          かなへび

          かなへびとはトカゲの一種だ。日本のほぼ全域に生息し、私たちの身近にも住んでいる。愛くるしい瞳と流線の体のラインが美しい。私はかなへびを見かけるとつい追いかけてしまうくらい、彼らが好きだ。  我が家の庭に除草剤を撒くのを止めて1年が経つ。その結果、庭の生態系は大きく回復した。大袈裟と言われようが構わない。この春から秋にかけて、庭で見かけた昆虫や爬虫類の数は2倍以上だ。子供達と庭で虫の観察をしようとすれば、すぐに10種類以上の生き物に出会えてしまう。瑠璃色カミキリムシ、オニヤン

          冷笑

          意味 さげすみ笑うこと。せせら笑うこと。あざわらい。(コトバンクより) …  沖縄県辺野古で行われている米軍基地移設工事の反対運動に対し、ある有名人がSNSで言葉を放った。そのSNS投稿に対するコメント欄には、反対運動に対する冷笑が日本中から書き込まれている。今もなおぶら下がり続けている醜いコメントは、現代日本の縮図そのものであり、到底「美しい日本」とは言えない。  「沖縄が抱える様々な問題は複雑に絡まり合い、構造的にも解決が困難となっている。」そんなフレーズは普段、沖縄県

          前輪を上げて見える景色は

           砂利道で車椅子を押して進むときは、前輪を上げてしまうのが良い。後輪の大きな車輪だけ使う方が地面の凹凸の衝撃を吸収できる。いつものように「前輪上げますね」と声をかけて、その人は少し仰向けに傾いた。「今日も暑くなりそうですね」と話しかける私に「そいだね~」と一言だけ返すのがお決まりだった。  自宅から車まで100m程の砂利小道を行く。週三日、病院へ通う。左は畑で右は杉の森。木の枝がつくるトンネルから、いつも涼しい風が吹いていた。  病院からは何度も入院を勧められたが、自宅で過

          前輪を上げて見える景色は

          パパのお仕事

          「大きくなったら パパのおしごと 僕が手伝ってあげようか?」 保育園から帰り一緒におやつを食べていたときのこと、息子から言われた突然の宣言に動揺してしまった。 今まで彼がそんなことを匂わせたこともなければ、私から望んだこともない。昔はあっただろうが、今の時代に父の仕事を継ぐ長男なんて、少し古いとさえ思っていたのが正直なところ。しかし素直に嬉しかった。 そもそも、この仕事に私が参加した理由の一つは、前職では息子の成長に関われないと判断したからだ。朝早く出て、夜遅くに帰る。

          缶コーヒー

          「あんたが淹れたコーヒーの方が美味しいんだろうけどさ、まあ飲んでよ」 去り際に渡された缶コーヒー。そんなやりとりがあるからこの仕事は楽しい。 …  お客様からの頂き物は色んな形がある。ありがとうの言葉から、野菜、お菓子、チップと、気持ちの表わし方は人それぞれ。私たちはそれをお客様満足度の物差しと見ている。  お客様をさらに喜ばせるコツは、素直にいただくこと。 「いやいや、そんな気を使わずに!」なんて野暮な事は言わずに 「やった!これ好きなんですよ。ありがとうございます。」と、