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エッセイ

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山﨑祐介のエッセイ集です。
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あの時、君が褒めてくれたから

「山崎の作文、めっちゃ泣けたんだけど!!」  すれ違いざま、興奮気味に感想を投げ付けてくれたのはコトミだった。  読者の感想を待っていた私は、「え?そう?」なんて平静を装いながら、期待していた反応があったことに手応えを感じた。  あの冬の日、私は一つの宝物を手に入れたのだ。  私は現在37歳。自営業をしながら会社員の妻と3歳になる息子との3人暮らしだ。息子が生まれてからというもの、育児が私の頭の半分を占めている。  息子が伸び伸びと成長するにはどうすればいいか、それ

育児休業を終えるとき

息子のいないリビングには、散らばったオモチャが寂しげに転がっている。 私の育休が始まってから6ヶ月、この部屋がこんなに静かに感じたのは初めてだった。 雪国にも、桜の季節がやってきた2019年4月。息子は保育園で新しい生活をスタートさせた。 初登園の朝、息子は思いの外あっけなく、先生に抱かれて園の奥へ行ってしまった。 これで6か月に渡る育児休業は一旦の区切りとなる。息子と2人きりで過ごした日常は、予想より遥かに軽い足取りで去って行った。 自宅で一人、呼び出されることを

好きな曲を掘り下げると自分が見えてくる

頭の中に映像が浮かぶ曲が好きだ。それはきっと、自分の経験と歌詞をリンクできているのだろう。過去の喜怒哀楽が頭の引き出しから取り出され、歌詞に乗せてくれるのが、私にとって心地いい曲なのだ。 私の好きな曲を掘り下げると私が見えてきた。何かひとつの「好き」をきっかけに自分を知るのはとても健全だ。今回はそんな作業を皆さんに読んでいただきたい。 竹内まりや「駅」 良い音楽は時代を超える。30代の私でもこの曲の歌詞は胸に突き刺さり、学生時代の恋愛をありありと思い起こさせる。 あの

ハンドドリップは私の調整弁

いつの間にか急いでしまう現代人には、日常生活でそれに気づかせてくれるルーティンが必要だ。 私にとってそれは朝のハンドドリップ。コーヒーの抽出作業だ。 私は「ドリップ」よりも「抽出」と言う。日本語で言うほうが大そうな事をしているようで楽しい。しかし抽出方法が多岐にわたるコーヒーの世界では、ハンドドリップといえばドリッパーと濾過紙を使ったアレとイメージし易いので、今日はそれを使わせてもらう。 日本の日常に深く浸透しているコーヒー。インスタントコーヒーから輸入された豆まで、ス