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三日月が透き通る夜

「実」という言葉を改めて調べたら、
「満ちる」や「まこと」という意味を持つことを知った。



最近、夜は肌寒くなった。
一夜で、夏から秋へと季節を超えたらしい。
「実りの秋」という言葉通り、秋は豊かに満ちる季節だ。
大きくて、まろいまろい月。
太陽の光を吸い込んだように艶やかな柿の実。
秋風は、嘘偽りなく街に馴染んでいく。

私は、そんな秋を上手く愛せない。


綺麗な円よりも、少し歪で寂しいものに惹かれる。

ピンク色の華やかな秋桜畑より、まばらに畦道に咲く彼岸花を見たい。
空に咲く紅葉より、地面にひらりと散る枯れ葉に趣を感じる。


完璧な真実よりも、小さな偽りの傍に居る方が安心できる。

秋、月の明るい夜に貴方が話してくれたことを思い出す。

「サンゴは満月の夜に卵を産むんだって。だから、今夜は海まで散歩しよう。」

後になって知った。
サンゴの産卵は別名"サマースノー"と呼ばれ、夏に行われること。
そして、ここの海では見れないこと。

でも真かどうかは問題ではない。
貴方の不器用な嘘が愛おしかった。

私が秋を上手く愛せないのは、きっと自分が欠けているから。
心満ちるまで愛されたことがないから。

欠けるところを知らない月を見る度に思い出す。
愛されて当然という顔をした無邪気な笑顔のあの子。
に感じた、どす黒い気持ち。

どうせなら、透き通りそうな細い三日月の夜に散歩しよう。
テトラポットの横、暗がり、手を繋いで。
ほんのちょっとステップ踏んで。
暗いねって笑い合いたいの。



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