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ニライカナイ(二話「契り」) 【#ジャンププラス原作大賞】【#連載部門】

禍々しい光が満ち、視界を奪われた。
思わず閉じた目。
光が弱まるのにつれて、目を開くと、

「どこだ?ここ…。」
嘘みたいに静かだ。

知っているようで知らないような岸辺。
紫色の空を映し出す、どこか不気味な海の色。
細かく砕けた赤色の貝が鈍い光を放っている。

さざ波の音を聴きながらぼんやりと立ち尽くす。
波が僕のつま先を濡らしている。
濁った海には、見たこともないような不気味な色の魚たちがおよいでいる。

白い手が目の前でひらひらと舞う。

「うわぁ!??」
思わず尻もちをついた。

『何よ、化け物でも見たような顔じゃない。』
にやりと笑いながら少女が僕を見下ろしていた。

僕は、この女の子を見たことがある。
いつも夢に出てくる女の子。

え?これ夢?
さっきのことも?どうかそうであって欲しい。

「あ、あの…僕の他に男の子と女の子を知りませんか?」

『ここにはキミとボクだけ。』
良かった。夢なんだ。
現実的で最悪な夢だ。


少女は涼しい顔で、座り込んでしまった僕の前にしゃがみこむ。風になびく銀髪。エメラルド色に煌めく瞳。細長い手足。
頬杖をつきながら僕を見つめている。

「実は、僕は君を見たことがあるんだ。君は?」
恐る恐る聞くと、

『キミのことなんて知らない。勘違いじゃない?』
つれない返事だ。夢に出てくる女の子と雰囲気が似ていると思ったけど、別人なのかな。

「そうか…。変なこと言ったね。ところで、君は誰?」

『質問ばかりで鬱陶しいわね。命(みこと)と呼んで。あと、敬語は嫌い。構えず話して。』

「ご、ごめんよ。でもこれだけは聞かせて。命…ここはどこなの?」

『いずれ分かる。』
そう言うと、命は真っ白な指を僕の方へ伸ばす。

『勇魚、キミは剣に選ばれた。』

何故、僕の名前を…?剣に選ばれたってどういうことだ?そう思っている間に、
顎にひんやりとした手を添えられる。

『キミとボクには世界を変える力がある。ボクと力を合わせよう。そうすれば、どんな願いでも叶う。』
耳元でゆっくりと囁く。

そのまま流れるような動きで、僕の首に勾玉のついた首飾りをかける。

『この勾玉を握りしめ、キミの願いを口にして。その後に互いの小指から出した血を飲み合うの。』

世界を変える力?なにを言っているのかよく分からない。と思い、黙っていると、

『ちなみに拒否権は無い。断るなら元の世界には戻さない。』

「え!?」
恐ろしい娘だ。見た目は可愛らしいのに。
何故、僕に力を貸せと命令させるんだ?
でも言うことを聞かなかったら戻れない…。
それは、困る。夢ならばいいが、もしそうでなければ2人が心配だ。一刻も早く会いたい。

願いが叶うと言った。
命の言っていることが本当なら。
さっきの凪咲や入鹿の姿を思い出す。
あんなことは絶対にごめんだ。僕は2人が奪われない未来が欲しい。
もし、もしも願いが叶うのなら、僕は勾玉をぎゅっと握りしめた。

「僕は、僕は…入鹿や凪紗、皆が自由になれる未来が欲しい!誰にも奪われない自由を!」
絞り出すように言った。

命は小指を小刀で切り、差し出してきた。

『キミの願い、聞き遂げた。咥えて。そして、差し出して。』
命が首飾りをそっと握りしめ、僕を引き寄せる。有無を言わさないような様子に思わず小指を差し出す。

「っ痛!」
命は尖った犬歯で僕の小指を噛む。そして、僕も彼女の小指を咥えた。ほのかに血の味が口に広がる。長いようで短い時間そうしていた。

命と名乗るその女の子は目の前で不敵に微笑む。
『これでキミとボクは契りを交わした。困った時は首飾りの勾玉を握りしめ、ボクの名を呼んで。この首飾りがキミとボクを繋ぐ依代となる。』

『ただし、願いは双方向でなければならない。キミは、剣の欠片を集め、ニライカナイへ来い。そして、ボクを見つけ出し……せ。そうすれば、真の自由を得るだろう。これは契約。
さて、キミの力を貸してね。もうお帰りよ。』


君はニライカナイにいるの??君の願いが最後まで聞こえなかった。なんて言ったの?
僕の力って?
そう聞く前にまた視界いっぱいに光が満ちて、僕は目を閉じた。

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