見出し画像

ニライカナイ(三話「萌芽」) 【#ジャンププラス原作大賞】【#連載部門】

再び目を開くと、
「「勇魚!!」」
入鹿と凪紗が僕の顔を覗き込んだ。

良かった。2人が無事で。心から安堵した。やっぱり夢だったんだ。思わず涙が滲む。
2人に悟られないようにそっと拭った。
空は晴れ渡り、禍々しい光を放っていた剣も消えている。

「お前夢でも見てたのか?うなされてたぞ。」
入鹿がほっとした顔で僕を見下ろしている。

「急に倒れて心配した。体起こせる?」
凪紗が肩を貸してくれて、僕は起き上がった。

ふと見下ろすと、首飾りが揺れていた。
命とのことは夢じゃなかった?
薄く緑ががかった翡翠の勾玉のついた首飾り。暖かな日に照らされてキラキラ光る。

謎の島。ニライカナイ。命という少女。
僕の願い。
思わず勾玉を握りしめた。

入鹿「訓練行けるか?まだおねんねしててもいいんだぜ。」

勇魚「大丈夫。さあ行こうか。」

剣で貫かれた感触があったのに体には傷一つなかった。
そういえば、命は僕が
『剣に選ばれた』
と言っていた。
どういう意味だったのか。

入鹿「そうだ、実戦の前にオヤシロ様の所へ、お祈りに行こうぜ。無事帰って来れるように。」

勇魚「そうだね。」

僕らは、オヤシロ様のおわす霊木へと向かうために森の中へ入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

この島の小鳥や蝶たちは、みな元気がいい。
歌を歌い、踊っているかのようにひらひらと目の前を舞う。アダンの実は、まだ青い。やがて真っ赤に熟れる。本当に豊かな島だ。

海神の杜には、中心部に僕らが住む集落がある。

5歳になると、外の島から、ここ海神の杜に連れてこられて共同生活を営む。
産まれた場所も親も不思議と皆覚えていない。
僕らは「海神様に選ばれた仔」だから。
精霊の力に選ばれし仔。
世界の安寧のために寄与する運命なのだ、と言い聞かされて育った。

7歳から僕らは、様々なことを学び始める。
事情があって闘えなくなった年嵩の仔たちから、この世界の歴史・悪鬼について・精霊の能力について座学で学ぶ。
また、基本的な闘い方や能力解放の訓練は同じ学び舎の学兄に指導を受ける。

そして、15歳を迎えるといよいよ悪鬼との実戦へと赴くのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

実戦へ臨む仔らが、祈りを捧げる場所がある。

凪紗「いらっしゃるわ。」

目の前にそそり立つ霊木。葉は鬱蒼と繁り、日が差さないため地面は苔むしている。計り知れないほどの歴史、そして知性すら感じさせる佇まい。

相手の顔もぼやけるような暗さで、
「太古の闇」と呼ばれている。
それほどの暗さだから、この霊木には精霊が宿っていると言われているのだ。

「よく来たね。待っていたよ。」
大樹の前にオヤシロ様がお掛けになっていた。

オヤシロ様はここの長老で、200年も300年も生きているそうだ。海神様の具現したお姿だとも語られている。
真偽は分からないが、僕らにとっては心から敬愛し、偉大なる父のような存在だ。

勇魚・入鹿・凪紗「オヤシロ様。」
僕らは方膝をつき、頭を垂れた。

入鹿「この度、初の実戦に赴きます。この3人に、海神様のご加護のあらんことを。」
居住まいを正し、両手をつけて平伏する。

大麻(おおぬさ)で、オヤシロ様が一人一人の頭に優しく触れる。
さらさらと頭の上を紙垂(しで)が通っていく。心地よく、不安が少しずつ溶けていく感覚。

オヤシロ様「頭を上げてご覧。」

頭を上げてオヤシロ様を見ると、僕の方を真っ直ぐに見つめていた。正確に言うと、僕の首飾りを。

オヤシロ様は僕の方へ近づき、耳打ちしてきた。

オヤシロ様「勇魚。その首飾りは?」

「分かりません。夢の中で貰って…。」

オヤシロ様「何か契りを交わしたかい?」

「はい。でも僕はあまり聞こえなくて。」

オヤシロ様「難儀なことだ…。そなたの中で芽生えた力は実に強大だ。世界を変えることも可能だろう。しかし、行きつく先に、そなたにとって最も残酷な運命が待ち受けているだろう。勇魚、そなたがどのような選択をしたとしてもだ。」
オヤシロ様は哀しそうに顔を歪める。

勇魚「!?…それは、どのようなことでしょうか?お教え下さい。」

ぱっと僕から離れ、オヤシロ様は元の場所におかけになった。
オヤシロ様「私からはこれ以上何も言うことはできない。凪咲、入鹿。勇魚をどうか護ってあげておくれ。」

「「…はっ!」」
凪紗も入鹿も戸惑った顔で僕を見つめている。

オヤシロ様「さあ、お行き。学兄たちが待っているよ。」
そう言って優しく微笑んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕らは、年長の仔らが待つ東側の海岸へと向かう。

入鹿「オヤシロ様は何を勇魚に仰ってたんだ?その首飾りをじっと見てたよな。貸してみろよ。」
と言って、首飾りに手を掛けた。

入鹿「外れないぞ…!?何だコレ??」

勇魚「えっ外れないの??!実は、僕もよく分からないんだ…。」

入鹿「分からないって…。ぼうっとしてるのもたいがいにしてくれよ。」

凪紗「大丈夫。何があっても私が護る。」

入鹿「凪紗はどこまでもパワー系だな…。」

???「やっほ〜!可愛いはなたれ達!!年上待たせて何よちよちちんたら歩いてんだ~!?もしかしてビビっちゃってる~??」
にこにこしながら、船付き場で手をぶんぶん降っている男性がいる。

勇魚「笑ってるけど、言ってること怖いな…。すみません、すぐ行き…っ」

遮るように入鹿が前に出る。
入鹿「すみませ〜ん!先輩が余りにも小さくて見えませんでした〜!今行きまーす!」

男性が笑顔のままピタッと固まるのが見える。まずい…!

勇魚「ばっ…!馬鹿か!今日同行していただく学兄たちだぞ!口を慎め!…本当にすみませんっすぐ行きます!」
小走りで学兄たちの元へ向かう。

勇魚「凪紗も走って!」
後ろでゆったりと歩いていた凪紗も不服そうに走り出した。

駆け寄ると、確かに年長なのに小さい。

???「お前らみたいな礼儀のなってねえ奴らは初めてだ!あと、俺のこと見下ろすな!○ね!」
腕を組んで、分かりやすくむくれてしまっている…。

勇魚「本当に何と謝ったらいいか…。」

オロオロしていると、傍で黙って聞いていた人が立ち上がった。長身痩躯で、整った顔をしている。
宿禰「稲置(いなき)。器が小さいぞ。だからいつまでも八位なんだ。」

稲置「な…!宿禰(すくね)まで…!咲和(さより)は俺の味方だよな!?」

沙和と呼ばれた少女が振り返る。柔らかい亜麻色の長い髪。ふわっとこちらに向かって微笑んだ。
沙和「ふふっ。初対面で舐められる方が悪いんじゃない?」
見た目に反して毒を吐く。

稲置「腹黒い女だ…!もう知らねぇ!何があっても俺は絶対助けねえ!」
彼は、少し涙目になって、ずんずんと船に乗り込んでいった。

勇魚「稲置さんに大変なご無礼を…。誠に申し訳ありませんっ!」

入鹿「やられたら100倍やり返すが俺の信条だ。絶対謝らないぜ。」

勇魚「……。」

咲和「いいの。後でちょっとでもおだててあげたらすぐ機嫌直すから。」

宿禰「仲間が失礼な事を言って済まない。今日の実戦、よろしくな。」
一見、冷たそうに見える宿禰さんだが、声色は優しい。

勇魚「いえ、こちらこそすみません…。よろしくお願いします!」

海神の仔の中でも特別に強い8人は「八色の姓(やくさのかばね)」と呼ばれ、闘いの中で主核となる存在だ。

その中でも第八位の「稲置(いなき)」、第三位の「宿禰(すくね)」の仔が所属する組と今回は実戦に向かう。

咲和「じゃあ早速行きましょう!船に乗って乗って~!」
咲和さんが柔らかく僕らの背中を押してくれる。

初めて外の世界に出る。
恐ろしい悪鬼の元へ行く。
夢の中で見た入鹿と凪咲を思い出し、気持ちが陰る。と、同時にそれでも胸が期待に膨らんでいくのも分かる。

入鹿「いよいよだな。」
凪紗「ええ。」
勇魚「うん!」

真の自由を得るために、剣の破片を悪鬼から集める。そのための闘いだ。
『剣の欠片を全て集めてニライカナイへ来て、』という命の言葉を思い出しながら、決心を新たに、勾玉を握りしめる。

待ち受けるのは真の自由か、それとも…。
そうして船は出立した。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?