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【インタビュー】VUILD PlaceLabが考える、捨てない展示空間 〜空間体験を通じて環境課題をみんなで考える〜

2023年11月22日、7年ぶりにリニューアルした日本科学未来館の常設展示。そのうちの一つで、「地球環境」をテーマにした展示「プラネタリー・クライシス-これからもこの地球でくらすために」の設計を手掛けたのはVUILD(ヴィルド)株式会社の、内装や空間作りを手がけるチームVUILD PlaceLab(VPL)です。VPLは「すべてのひとが、考える人、つくる人、使う人。」をメッセージとして掲げ、みんなが当事者である場作りを行っています。
未来館の展示はそのメッセージ通りの取り組みができたと語るVPLのチームリーダー黒部駿人さんとディレクターの宇都宮惇さんに、お話を聞きました。

Text by Sayaka FELIX

■10ヶ月かかった取り組み
──日本科学未来館(以下、未来館)「プラネタリー・クライシス」のオープン、おめでとうございます。この展示のデザインは、展示内容も空間作りの全行程もできあがったものもVUILDらしいものだったとお聞きしました。こういった展示の設計の受注はコンペで行われると思いますが、未来館からは最初にどんな要望があったのでしょうか。

黒部駿人さん(以降、黒部):地球環境がテーマの常設展の企画で、国産木材とテクノロジーを活用して空間をデザインするということがテーマの1つとしてはありました。

宇都宮惇さん(以降、宇都宮):本展示計画のユニークな点の一つとして、将来この展示をリニューアルする際に、展示空間をすべて廃棄するのではなく、展示什器を含めアップサイクルやリユースができるようにあらかじめ計画することが、与件で求められていたのです。そこで、未来館に訪れる方や市民の関心を高め、参加型で展示空間にかかわれるきっかけづくりや、一人ひとりの行動変容に繋げられるコンテンツづくりを企画時から検討しています。
そこで僕らが考えたのはVUILDで全部デザインして完成させてしまうよりは、ワークショップ形式で子供たちと一緒に考えるなどをして、デザインのプロセスに市民や来館者を巻き込んでいきたいということでした。

黒部:もともとVPLでは、「『みんなでつくる』を当たり前の未来に」をミッションに掲げていて、ものづくりに普段関わったことがない人も一緒に考えて、できあがった後に「これは僕が作った」「私が作った」と、自分ごととして言えるような取り組みにすることを心がけています。
僕個人としても、木材を使った作品づくりが身近になり、より多くの人が林業の問題などに関心が向く世界になったらいいなと思っていますし、デジタル技術で木材の加工を身近なものにすることで、多くの人が自分の作りたいものを作って、木と木を育む森に関心を持ってほしいんですよね。そういう思いでVPLをやっていて、地域の人や子供たちを巻き込むきっかけとなる企画やワークショップのデザイン・実施も行っているので、未来館のこの展示が手掛けられたら、とてもおもしろいと感じていました。

VUILD PlaceLabのサービスイメージ

──VPLにぴったりの企画だったのですね。この取り組みが始まったのはいつぐらいのことだったのですか?

黒部:1月から2月末ぐらいに企画競争のプロポーザルを提出し、その後、基本設計、実施設計を提出しました。工事は10月に行われたので、10ヶ月ほどの取り組みでしたね。その10ヶ月間にワークショップを複数行って、様々な方に参加してもらって設計を進めていきました。

──長い期間の取り組みだったのですね。当初から、11月22日オープン時のような設計を考えていたのでしょうか。

黒部:「デジタルテクノロジーの活用」がキーワードだったので、当初はデジタルファブリケーションの特徴を生かして、ShopBotという木材加工専用のCNCルーターを使い、未来っぽいかっこいい造形を考えました。この提案は未来館の方にVUILDらしいと好評だったのですが、自分たちとしてはそれだけでいいのかな、という思いがあったんです。

宇都宮:かっこいいかもしれないけれど、完成された情報を来館者に一方的に見てもらうだけのデザインだったかもしれません。来館者や市民の方々とのコミュニケーションにより空間が変化していく余白をどのようにつくれるかを考え、アイデアを変化させていきました。

黒部:丸太を立てるなどのアイデアや、展示パネルに端材を積極的に活用するなど、部分的にはこのデザインも残っているのですが、基本のデザインは当初の案から大きく変わりました。未来館の方々や施工をやってくださったつむら工芸さん、展示プランナーの方などVUILDの社内外の方が関わって変化して、最終的に直方体のモジュールと曲線部のあるモジュールという2種類のモジュールを使って組み立てる案が出てきたんですよね。その方が、展示が終わった後にも再利用できる、と。プロセスとしてとても良かったと思います。

■丸太から什器になるまでの映像作品

──未来館では「市民の行動変容」も目的とされていたと聞きました。VPLでは地域の人や子供たちを巻き込むきっかけとなる企画やワークショップのデザイン・実施も行っていたから、そういった知見も活かせると最初の段階でお考えだったということでしたよね。実際にはどんなことを行ったのですか?

黒部:現地視察と2種類のワークショップを行いました。現地視察は未来館の担当の方々と行ったものです。もともと未来館では、材料調達のトレーサビリティを確保したいという希望もお持ちだったので、材料ができる前の丸太からの過程を見ていただきました。VUILDはShobBotを全国200箇所の木材の産地の方に置いてもらっています。だから材料の板がどの山で採れたか、どういう人がどんな思いで丸太を売っているのを追えるという強みがあります。でも、実際に産地まで見に行くことは多くはありません。今回は未来館の方が希望としてあげてくださって、産地への見学が実現しました。

今回は、鳥取県の株式会社鳥取CLTさんの板を使ったのですが、その会社の近くの米子の材木市場に、競りの様子を見にいきました。競りといっても、今は最初1万円の値がついていたものが、9000円、8000円、7000円と値下がりしていって、ようやく誰かが手を上げるような状況なんです。「昔はもっと高かったのに」などといった現場のリアルな声を聞くことができ、木材活用の重要性を実感してもらえたと思います。その後、鳥取CLTさんで丸太が板に加工される様子を見てもらったあと、滋賀県のShobBotで板を加工したので、その様子も見てもらい、さらに加工した板を大阪で事前に組み立てたので、大阪にも行ってもらいました。

鳥取CLT見学

宇都宮:鳥取・滋賀・大阪への取材は映像としてまとめ、展示スペースで流しているんですよ。

──来館者の方にも、目の前にある板が、どんなふうに売られて加工され、ここにあるのかがわかるようになっているのですね。

■丸太になるまでをじっくり学ぶ来館者参加型ワークショップ
──1つ目のワークショップはどんなものだったのですか?

黒部:1つ目のワークショップは7月に行いました。この時は、未来館の来館者の方が参加しています。登録すると未来館の情報が定期的に送られるメンバーシップの仕組みがあるのですが、それを利用してワークショップの告知を行い、参加者を募って、東京の檜原村にある東京チェンソーズさんのところを訪ねました。親子で参加される方が多かったですね。森の中を一緒に歩き、どんな過程を経て森が育ち、木が伐採されるのかという話や、檜原村の木は戦後に植えられた樹齢60年くらいのものが多く、その前はもともと広葉樹の森で薪木にしていたなどといった、土地の話をしてもらいました。そして、そこで学んだことを形にするために、枝材で箱庭のような作品を作るワークショップを行ったんです。

東京チェンソーズさんは、木を丸ごと1本販売することを推進しています。例えば木の根っこの部分などは普通は木材にはならず、粉砕してチップにしたり、未利用材として捨ててしまったりすることばかりです。しかし彼らはそういった曲がったり変な形をしていたりする木を「ヘンテコ材」と呼んで新しい価値をつけて販売することで林業を活性化させようという取り組みもしています。ワークショップではみんなでそのヘンテコ材の置かれている倉庫にも見にいって、「これをこんなふうに使ったらおもしろそう」などと話しあって盛り上がりました。

宇都宮:このワークショップのときに作った箱庭的な作品は、それをスキャンしたり写真に撮ったりして、未来館の展示の中に組み込んでいるんですよ。

──参加者の方々はどんな反応だったのでしょうか。まだオープンしていない段階から、市民の意識変容を起こそうとする取り組みだと感じました。

黒部:僕自身もそうですが、木や森については知らないことばかりです。材料として使うための木は間伐して枝打ちをすると聞いたことがある人もいましたが、やはり聞くだけではなく実際に案内してもらって触って五感で感じることで理解が深まるという反応が多かったです。またヘンテコ材に関しては、そんな材料があることを知らない人ばかりで、それも喜ばれましたね。

──1つ目の映像作品が丸太から什器まででしたから、その前の丸太になるまでを知るワークショップだったのですね。ヘンテコ材は、それこそデジタルファブリケーションのテクノロジーが活かせるポイントだと感じました。

宇都宮:そうですね。ヘンテコ材を利用した什器も制作し、ワークショップなどに使うテーブルとしてこのスペースに置いています。

東京チェンソーズと檜原村の森を見学

■設計中から施工後もずっと行えるワークショップ
──2つめのワークショップはどんなものだったのですか?

黒部:未来館の展示の設計は、展示が終わった後に再利用するために2つのモジュールを組み合わせた展示になっているとお伝えしましたが、その再利用の方法を考えるワークショップを行いました。モジュールを作るのに切り抜いた板材の余りを使って、実物の1/7サイズのモジュールも作り、それを使って子供向けと大人向けのワークショップを行ったんです。このモジュールを公園で使うなら何ができるかを考えるワークショップで、子供たちの発想が非常に豊かでした。大人では考えないような、「カーブのある什器を組み合わせれば、ブランコのように揺らすこともできるよね」などという発想がでてきたり、周りのチームの真似をしてアイデアを発展させたり、周りの子のアイデアを「いいねえ!」と褒めて盛り上げる子がいたり。みなさん楽しんでくれました。

2回目のワークショップは、未来館の実際の展示スペースが工事をしている期間に行いました。1/7の積み木でワークショップを行った後で、参加者のみなさんにヘルメットをかぶってもらって一緒に工事現場まで見にいって、完成前の状態を見てもらったんです。これに関しても、普段はなかなかできないことだと、喜んでもらえました。展示後のこれらのモジュールの使い方はまだ決まっていないので、今後も定期的に再利用の方法を考えるワークショップを行っていきたいねと、未来館の方々と話しています。

展示什器の活用ワークショップ  photo by toha

──施工が終わってリニューアルオープンした後も何度もワークショップができて、来館者がそこに参加できるのはいいですね。

黒部:VPLが手がけるどのプロジェクトに関しても同じことが言えるのですが、作って終わりではなく、作った後にも関われるような仕掛けや仕組みを仕込みたいと思っているんですよね。

■プロジェクトを通して行った「コミュニケーションのデザイン」

──「未来館の展示スペースの設計」と聞くと、一般の人は、VUILDは未来館の方に「これとこれを展示したいので、ひとつかっこいい展示スペースを作ってね」と依頼されたのだと認識すると思います。でもお話しを聞いていると、未来館の展示の内容も一緒に作り、展示スペースづくりを通して行う継続的な参加型アート作品を作ったようだなと感じました。

宇都宮:そうですね。展示空間をアップサイクル・リユースできるようにすること、市民の行動変容をもたらしたいということについて、単に展示スペースの造形をかっこよく作るよりも、おもしろい提案ができたと思います。モジュール化した什器で構成することで、仕組みを単純化させて組み立てと再構築をしやすくしました。

「行動変容」といっても、やはり気候変動のような課題は個人にとっては大きすぎて、難しく考えて一歩踏み出しにくいですよね。でも、積み木で遊びながら誰かにアイデアをシェアしたり、森で散策して箱庭を作ったり、ヘンテコ材というものを知って驚いたりという、楽しめる第一歩があれば、自分ごとにしやすくなります。そして、頭と体を使って楽しんだ後で、学んだ事柄を作品を作ることで誰かにシェアしたり、森に行くことで館内で得られる情報と現場で得られる情報の濃度や違いに気付けたり、ワークショップに参加した人や来館者が未来館に関して今までとは違う感情を持ったり、参加者同士で交流したりする。こういったきっかけをつくれたのが、今回のプロジェクトで良かったことだなと感じます。

■数字目標ではない目標を持っているからできたこと
──お話を聞いていると、「建築の民主化」を目指すVUILDならではの取り組みなのではないかと感じました。なかなか他の会社さんでこういったことができるところはなさそうです。

  • 黒部:今回は未来館の皆さんの目線の高さによって実現できたこともあったと思います。環境やサスティナブルなどのテーマに関して、以前はどこかキャッチーなもの、言わなければいけないものとして捉えて、自分ごとにはなっていないような風潮もあったように思います。しかし、未来館の皆さんは自分ごとになさっていました。だから、僕らができることを最大限に利用してくれたのだと思っています。

たとえば、展示に木を使う場合、自然素材なのでどうしてもささくれがコントロールできなかったり、虫が湧いたりする可能性は残ってしまいます。また、木の皮がついている状態の根っこを未利用材の例として展示スペースに置きましたが、それはどうしても皮がボロボロ落ちてきます。一般的な運営効率を考えたら、来館者が怪我をしたり虫や木の皮の管理をしたりするのは避けたいものですよね。でも、未来館の皆さんは、長期的に見たらこういった展示がある方が大きなインパクトを与えられると決断してくれました。こういったことを少しずつコミュニケーションして、方法を相談していけたのも、今回良かったなと思うことです。

──環境に関してはだいぶ機運が変わってきた気がします。特に若い人の間で真剣に考えている人が増えてきているから、表面的なことをやっていては見抜かれてしまう時代になっているのかもしれません。

黒部:いろいろ試行錯誤をして未利用材を活用したり、板の加工から組み立てまで全部取材したりするのは簡単なことではなかったですから、表面的なことで済ませたいという人の気持ちもわからなくはないんです。でも僕らにとっては、さまざまな人のアイディアが溢れる場を生み出し、それをまとめながら展示空間を作り出していった今回の取り組みは非常におもしろいものでした。またこういった取り組みができたらいいなと思いますね。

──さまざまな場所で未来館と同じような取り組みが行えたら、VUILDさんのビジョンにまた一歩近づけますよね。今日はおもしろいお話、ありがとうございました。

話し手:Hayato Kurobe /Jun Utsunomiya(VUILD PlaceLab)
ライター:Sayaka FELIX
写真:Hayato Kurobe/toha


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