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「メタ職人 - つくるひとをつくる - 」OPEN VUILD #11

*本記事は2019年6月27日開催のイベントを基に執筆しています。

建築テック系スタートアップVUILD(ヴィルド)株式会社では、多様な領域で活躍する専門家をお招きして、さまざまな経営課題や組織のあり方についてオープンな場で語り合うトークイベント「OPEN VUILD」を開催しています。

2019年6月27日にVUILD川崎LABにて開催した第11回のテーマは、「つくるひとをつくる メタ職人」。ゲストにHandiHouse projectの加藤渓一さん、KUMIKIPROJECTのくわばらゆうきさんをお招きし鼎談を実施しました。

ものづくりのバックグラウンドを持たない一般の人をどのようにつくり手に変えていくことができるか。様々なプロジェクトを実践するお2人に“つくるひとをつくる”ための秘訣を伺いました。

Text by Naruki Akiyoshi

たとえ下手でも手を動かせば、世界の見え方は変わっていく

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秋吉 今回は、「メタ職人 - つくるひとをつくる - 」をテーマに、つくり手をいかに増やすのか、ものづくりのバックグラウンドを持たない一般の人をどのようにつくり手に変えていくことができるかについて、議論できればと思います。

VUILDと加藤さん、くわばらさんそれぞれの活動との共通点は、つくるひとをつくることを1つの目的としている点です。今後のコラボレーションを見据えた公開打ち合わせというかたちでお話できればと考えています。

加藤 HandiHouse projectの加藤渓一です。自分自身もセルフビルドの領域で活動しているので、この機会に意見交換ができればと思います。

活動紹介の前に、2014年に東ティモールに現地初のコーヒースタンドをつくりに行った時のことをお話させていただきます。東ティモールの公用語はテトゥン語なので、現地人の大工さんやスタッフとは言葉でコミュニケーションできませんでした。そういう状況で一緒に内装工事することになりましたが、そんな中でも、作業していくうちに徐々に距離が近くなっていき、最後は大工のアントニオと抱き合って別れるほど親密な関係を築くことができました。

この言葉が通じない現場での経験を通して、ものづくりはすごい力を持ったコミュニケーションツールだなと実感しました。なので、HandiHouseでは、それを武器として活動しています。

HandiHouseは「妄想から打ち上げまで」、つまり設計・製作を経て最後に完成した空間で乾杯するという、建築のプロセス全てをできるだけアウトソーシングせずに自らの手で行うことを目指しています。さらにそのプロセスを徹底的に公開をして、お施主さんや時には街の人なども巻き込んでつくる。というつくり方をしています。

僕らは、お施主さんを職人に見立てて、徹底的に施工作業に巻き込んでいます。”なんとなく素敵なワークショップ”で終わらずに、お客さんにも現場に入ってもらいペンキを塗ってもらったりとしっかり汗をかいてもらいます。現場では「パテが甘いぞ」など、お客さんに対して職人さんと同様の指示を出すので、施主と施工主の立場が逆転するような場面もありますね。

DIYは工費を安くするための文脈で語られることが多いですが、実際に計算してみるとあまり安くありません。僕らはお客さんに本気になってもらうために、お客さん自身に責任を与えて、自分で手を動かさないと完成しない環境を半強制的に与えています。毎日現場に通うことになったりもしますが、そこまですることによって、そこにはお金に換算できない体験価値が生まれると考えています。

あるお客さんから、HandiHouseと一緒につくる経験をして、ものづくりに対する考え方が変わり自分でもつくれるという勇気と覚悟を持てたと言われました。最終的に、このお客さんは自分で家の扉をつくっていました。廃材をコラージュしてつくられたそうです。このように一緒につくることで、建築家にはできないような図面では書き出せないデザイン、住み手にとって心地のいい場所が生成されていきます。

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DIYの重要性を説いているわけですが、僕にとってのDIYに対する考え方の原点はHi-STANDARDです。ハイスタは昔、自身の音源をカラオケで公開していませんでした。これには、「下手でもいいからバンドを組んでステージにあがれ、見える景色がかわるぞ」というメッセージが込められていたそうです。下手でもいいからまず手を動かすという点で、ハイスタのメッセージとDIYの精神は同じですよね。

たとえ下手でも勇気を持って手を動かしてつくってみると、世界の見え方が変わります。物の捉え方や都市との向き合い方の解像度が変わり、最終的には主体性の獲得に繋がるのだと思います。DIYは主体性を得るための、最適なアプローチ方法ではないでしょうか。

確かに、つくることは日常的な行為ではありませんし、ものづくりのバックグラウンドを持たない人にとっては難しいことかもしれません。ただ、つくるというスタンスを備えた日常ほど、自由で楽しいものはないと思っています。家がきちんとしないと文化も美意識も育たないということを、原研哉さんは過去におっしゃっていました。僕らはこの家づくりを通して、どのようなスタンスをとるか、どのような武器を持つかを考えてもらいたいと思っています。

そのスタンスや武器を育てるために2018年から、HandiLaboという「家を趣味にしよう」をテーマにしたプロジェクトをスタートしています。HandiLaboでは、オンラインの場で有料会員制グループ(月額540円)を作っています。オフラインでは横浜市の駒岡というところに大きな倉庫を借りて、工房付きのコワーキングスペースを運営しています。ここはホームセンターなどで誰でも買える流通材料を組み合わせ、倉庫内にオフィス空間を。VUILDとは違って、ローテクなDIYです。新建築の表紙も飾らせていただきましたが、セルフビルドのプロジェクトが評価されるような時代の変化を感じています。

他にも、「アパートキタノ」というDIY賃貸を運営しています。これは、ごく普通のワンルーム賃貸の壁と床L型に合板を14枚貼り、その範囲で自由にDIYして良いというものです。この部屋でポイントなのは、14枚の合板をビスで固定しているだけという点です。壁の取り替えが簡単なので、住人それぞれの個性が現れた面白い場が生まれます。また、管理者側にとっても、問題が発生した時に点検しやすいというメリットがあります。

日本の建築は、ビス頭が見えてることに異常に敏感ですが、その考え方は建築を硬いものにしていると思います。なので、僕はそれらの既成観念をどんどんやわらかくしていくことを意識していますね。

オンラインサロンは、ユーザー同士がお互いのDIY欲を刺激しあう場として機能しています。オンライン上で繋がることで、ゆるやかな関係性が生まれます。そこから出来上がるコミュニティがある種の工具のように、DIYに役立つものになると思って運営しています。HandiLaboでは、それぞれの活動から家を趣味にする人を育てていければと考えています。

はじめの一歩を支える共創の場

くわばら KUMIKIPROJECTのくわばらです。KUMIKIPROJECTは、2013年に陸前高田で創業した空間づくりのワークショップをやっている会社です。僕らは、“DIT(=Do It Together)”を理念に掲げていて、誰かのはじまりを支えあえる世の中をつくりたいと考えています。僕らが目指す成果は、はじまりを支える人を全国の街に増やしていくこと。空間のデザイン性だけでなく誰とどういう時間を過ごすのかを大事にしています。一歩踏み出す人が初期コストを抑えてスタートしやすくなる社会を実現しようと思っています。

ワークショップ後は、その街に住む人の幸福度や信頼関係がどのように変化したのか、その地域で暮らす人々の質がどう変わるのかを定量的に調査してその結果をウェブで公開していく予定です。第一弾としてワークショップの実施数や参加人数などを公開しました。ほかにもサイト内にはクラウドファンディング機能も備えています。

また、僕らは国産材を使った家具や内装のキットを製作・販売しています。全国の木材産地と連携して、あらかじめカットした状態で現場に届けており、キット化されているので素人でも平均3日程度で空間づくりを実践できます。短工期、低コストを売りにしていたのですが、まさにVUILDさんの活動と近く、社内からもShopBotでいいのではないかという声が上がっています(笑)。今後なにかしらのコラボレーションができればと思います。

ワークショップを実施する際はまずお店の方に、空間づくりに対する考えをヒアリングしてコンセプトを固めていきます。最初は基本的に「この場所で誰のどういう笑顔が見たいのか?」と聞きますね。僕らは、単に空間をつくるというより、お店が出来た後にそこで過ごして欲しい人たちとの関係性をつくることを目的としています。ワークショップ当日は参加者にお店に対する思いを語ってもらうなど、参加者と一緒につくるなかに人とのつながりや愛着が増えるような仕掛けを詰め込んでいます。

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そもそもの話ですが、僕のバックグラウンドは建築ではありません。6年前までDIYもやったことがありませんでした。新卒では4年間営業として働いて、その後はコンサルティング会社に転職して、省庁や経済産業省に地域の補助金メニューづくりのコンサルをやっていました。

コンサル会社在籍中に東日本大震災が発生したので、出向というかたちで地域の方々と連携して、気仙杉の産業化とまちづくり計画の作成と行政への提出を目標に、陸前高田の産業再建に取り組みました。

しかし、震災発生から2年経ってもなかなか思うように取組が進まなかったんです。当初まちづくりの会議に集まっていた人々も次第に参加者が減っていきました。議論ばかりしていても物事が実際に形にならないと人の心はかんたんに折れていくんですよね。予算もなく絶望的な状況だったある時、住民の1人がなんでもいいから自分たちで建物をつくって前に進みたいと言い出しました。その言葉をきっかけに、セルフビルドで流されてしまった集会所をつくり直そうとはじめたのが、KUMIKIPROJECTの原点です。

これは2日間で21坪の集会所をみんなでつくるというプロジェクトで、あらかじめ加工された国産杉のブロック材をつくって施工しました。このブロック材は宮崎県高千穂出身の方が開発したもので、仮設住宅建設用部材として提供する想定で陸前高田にいらっしゃっていたところ、偶然出会いこのプロジェクトに使わせていただくことになりました。

DIYや建築の素人だったので、職人さんに怒られたりもしましたが、地域住民の方々と協力することでどうにかつくり上げることが出来ました。当初まちづくりの計画に関する議論で対立もしていた住民同士でも、このプロジェクトを通じて仲良くなったりしていたので、つくることを通して人と人とは繋がれるんだと実感しましたね。

また僕たちは、職人不足の中で作業の一部をセミプロで賄う方法を考えていました。建築施工業務の中でも一部は職人でなくてもできる業務はいくつかあります。セミプロに代替可能な業務の分析、割り振り、人材の手配をシステム化できれば、地域にもっと仕事が増えるのではないかと考え、一般財団法人KILTAを立ち上げました。

KILTAとはフィンランド語で、“つくるひとのつながり”という意味を持っており、「暮らしをつくる人になる。」をコンセプトにしています。現在KILTAは宮城、横浜、春日部、富山、神戸、下関に拠点を構えており、ものづくりのワークショップや講座、地域で活動するセミプロの育成などを実施しています。今後は、リフォーム会社からの業務のアサインや、職人の職場復帰のサポートなどを行なっていきたいと考えています。

ものづくりをやわらかくする姿勢

秋吉 加藤さんのお話を聞いて、硬い建築をやわらかくしていくという話が印象的でした。ちょうど同じようなことを課題意識として持っていて、建築雑誌にやわらかい建築家像についての論考を書いているところです。

建築家という職業は、ルネサンス期にアルベルティが図面を発明したことによって誕生しました。それ以前は、マスタービルダーと呼ばれる職人が指揮してつくっていましたが、図面の発明以降は建築家が権威として振る舞うようになってしまいました。それ以降の建築家は現場や地域から離れるようになったため、現在の硬い立場になっていったのだと思います。さらに、図面が複製できるようになったため、建築の工業化が推し進められるようになりました。日本においては明治以降に建築の硬化が進んでいったように思えます。

しかし本来のものづくりは、バラバラな人と多様な材料という変数の大きい中で生み出していく行為であるはずです。僕らの場合は、テクノロジーを使うことで建築を人の手に取り戻してやわらかくしていこうとしています。加藤さんは人々のマインドを変えていくことで、くわばらさんはファイナンスも含めた場づくりをすることで、やわらかくするデザインを実践しているのかと思います。つくることをサポートすること、ものづくりをやわらかくすることが、皆さんの活動との共通点のように感じました。

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加藤 最近は、DIY賃貸などをやるようになってから、コミュニケーションに興味を持つようになりました。つくる気持ちを加速するために、工具と同列にコミュニティや共につくる場が重要なんだと思います。ものづくりにまつわる環境をやわらかくしながら、人の心もやわらかくしていく必要があるのではないでしょうか。

つくり方のハウツーに関する情報はすでに世の中にたくさんありますが、情報だけがあっても意味がないと思います。DIYの分野では、つくり方などの方法論ばかりにフォーカスがいきがちです。しかし、本来大切なのはどういう暮らしが欲しいかというイマジネーションだと思います。つくる人をつくるために本当に必要なのは、ものづくりへの想像や欲望を引き出すコミュニケーションだと最近は考えていますね。

大切なのはどういう時間を過ごしたいか

秋吉 手が動かないという課題は、そもそもどうやって発想していくのかという高次のレイヤーの部分から考えることが大切になってくるのではないかと最近考えています。

加藤 一回つくったら終わりという人が多いですよね。だから、手が動かなくなるということもあると思います。

秋吉 神泉の公園プロジェクトでは、子供がつくりたいと言ったものをファシリテートすることで製作していきました。つくりたいという欲求がものづくりの原点なので、ハウツーが普及した今の時代においてその発想をどのように引き出すのか、いかに個人の発想に関与して指導していくのかが、つくり方のデザインとして問われるのではないでしょうか。

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くわばらさんのプロジェクトでは、インプットの方法が体系化されている点に鍵があるように思えます。そして、先ほど事例に挙げられていた集会所のように、各人のアイデアや動機を維持しつつ統合して1つの形に導いていくことが 、本来のアーキテクトの仕事ではないでしょうか。

くわばら 集会所は、まちづくりでの議論が参考になりましたね。例えば、陸前高田今泉地区の近くには金山があるのですが、安全に金を搬出させるためにクランク状の道路を敷いていたという歴史的経緯があります。津波で流された跡に13mほどの盛り土をしましたが、もとのクランク状の道路を敷くのか、都市の交通量を意識して直線の道路を敷くのかで住民同士の意見が対立することがありました。

僕らはその答えがわからなかったので、まちづくりの参考にするため国内の街を見て回ることにしました。その時に知ったのですが、京都には舞妓さんがすり足で登れる角度で設計された坂があるそうです。その坂が舞妓さんがゆっくり歩くという風景とゆったりとした時間が流れる空間をつくっている。そのことから、まちづくりにおいて、住民がその景色の中でどういう時間を過ごしたいのかが重要な問いになるということに気づきました。

僕らのキットもひとりでは組み立てられないようになっています。そうすることで、もの以外にも一緒につくった時間が生まれますよね。それが積み重なることで場の愛着に変わっていくと思うので、僕らはそれを大事にしています。

やわらかいものづくりには時間軸が伴う

加藤 HandiHouseも、子供も大人も巻き込んで一緒につくっていくことを意識しています。建築や住居に関して、前段階なくただ購入してそこに身を置くよりも、つくるというプロセスから関わって身を置く方がプラスになることが多いと実感しています。そのつくるのスタートラインまでその人たちをどのように導くか。そこに建築家の手腕が問われるのだと思いますね。

一方で、つくるという行為は参加できる人が限られる行為です。つくった人はその成果物に愛着を持ちやすいですが、それ以外の人たちには伝わりづらい部分ができてしまいます。つくり手が感じている愛着を、物語を共有していない人に対して、どのように伝えていくことができるのか。公共空間などをつくる際にも、それは1つの課題になるのではないでしょうか。

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秋吉 最初につくった人は盛り上がれるけど、その後の人はどうするのか。VUILDとしても課題を感じています。そのために意識していることは、立ち上がった後の維持管理の形態や使われ方、祝祭性を組み込んだシステムを設計することです。

モジュールを増設できる空間なのか、配置の可変性が高い空間なのか、それとも追体験できるキットなのか。あらゆるアプローチがあるかと思いますが、いずれにせよ、今求められているやわらかいものづくりには、時間軸が伴うはずです。“どんな時間をつくることができるのか”という、つくり方の設計が重要なのではないでしょうか。「アパートキタノ」の合板の仕組みもその一つですよね。

時間軸が伴うデザインが、いま一番面白い領域だと感じています。ShopBotの面白さは、データをシェアできたり、再生産できたり、つくり直しやすかったりする点なので、その利点を生かしながら考えていければと思います。

加藤 おおらかさも1つのキーワードですよね。例えば、子供の成長を見越して家をつくっても、独立してしまえば子供部屋はいずれ物置になってしまいます。しかしその問題も、自分たちで小屋を新設できたり、仕切りの位置を変えられたりできる家、自らモディファイしながらカスタムできる家があれば解決できるはずです。

そして、そのようなカスタムを前提としたシンプルな構造の家であれば、従来の住宅よりも初期コストは大きく下がると思うんです。現行の住宅ローンの仕組みでは難しいかもしれませんが、お金をかける部分も変わっていくはずです。

共創という思想

くわばら 加藤さんが先ほどおっしゃっていた、つくって終わらせないという考え方はいいと思います。新潟には、“空木建て”というあえて住宅の一部分の内装を完結させない建て方があります。これは冬の時期の大工さんの仕事を担保するための仕組みでもあるそうで、発注者側のつくり手に対する理解がないとできない建築のつくり方ですよね。

僕らは共創を手法から思想に昇華させていきたいと考えています。発注側と受注側も同じ思想を持っていればクレームも起こりにくいし、Win-Winの関係を築けるはずです。僕らの事業によって考え方が変わり、行動が変わり、習慣が変わっていけば、本当の意味での共創になると信じています。発注側と受注側の関係がもっと入り乱れたものになり、境目が曖昧になっていくような関係性のあり方を目指していきたいですね。

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加藤 マンションの購入者が小さい傷などを隅々から洗い出して施工者にクレームを出すということはよく起こります。購入者と施工主の間に対立が生まれているのは、つくるに対する理解を共有してこなかった僕らの責任だと思うんです。自分でつくるというマインドがあれば、建築の形も関係性のつくり方も変わりますし、もしかしたらそこから新しい建築が生まれるかもしれません。アパートも原状回復が基本ですが、前の住人の痕跡が積み重なっていく部屋があっても面白いはずじゃないですか。

R不動産の馬場正尊さんは、新しいプロセスから新しい空間は生まれると言っていました。コミュニティやテクノロジーの力でそういう世の中、建築のあり方を実現させたいですね。

秋吉 例えば所有の考え方についても、製作者がステークホルダーに組み込まれるようになれば考え方は変わると思います。製作者と所有者の境界を曖昧にするような方法も考えていければなと。また、“空木建て”のような方法を組み込んだ業務受託に関する契約のありかたや、原状回復義務を課さない引き渡し時の契約のありかたなど、ルールメイキングにまで踏み込んでいけたらおもしろいと思っていますね。

ものづくりをゆるやかにおおらかにやわらかくするために、所有に対する考え方や制度などをアップデートする必要はあるかと思います。もちろんつくるに巻き込むことで意識は変えられると思いますが、所有の考え方やルールのあり方などの積み重ねでも意識は変わっていくのではないでしょうか。

ものづくりにおける信頼関係の築き方

質問者 短納期でプロトタイピングしていくと、短期間であるが故に信頼関係を上手に築けないというデメリットが出てきてしまいます。これまでのプロジェクトでは、どのようなコミュニケーション方法で発注者側と信頼関係を築いてきたのですか?

加藤 信頼関係の深さは時間の長さに比例するものではないと思います。例えば、東ティモールのプロジェクトの工期は2週間程度でした。あの時、もし建築家という立場で参加していたら、指示を出す立場と指示を受ける立場という線引きが生まれていたため、信頼関係は築けなかったと思います。同じ立場になることが大切なので、大げさに言えば図面を書かないということも1つの手かもしれません。いずれにせよ、同じ目線に立つことがいい関係を築くためには大切なのではないでしょうか。

質問者 以前実施した海外の企業との共同プロジェクトでは、伝えていたことが伝わっていなかったりと、クオリティを担保できない場面が生まれたりと、コミュニケーションが難しい場面がいくつかありました。現地の施工会社とのコミュニケーションはどのようにしていましたか?

加藤 ある程度自分の弱みを見せるようにすると、言語が通じなくても相手は助けてくれたりしますね。東ティモールの時は、電圧の都合で日本から持っていった電動工具全て動かなくて、現地の人に工具を借りて製作することになったんです。そういうところからスムーズにコミュニケーションしていけたと思います。あとは、現地の人に日本のクオリティをもとめると一線引かれてしまうかもしれませんね。

現場は思い通りに行かないし、嫌になることはたくさんあります。一方で、紆余曲折ありながらも一緒につくり上げたことで、それまでのことが関係なくなる瞬間もあると思うので、あとはどの立場で関わっていくのかというスタンスの取り方次第なのではないでしょうか。現地の人と一緒につくり上げていきたいのであれば、現地に1ヶ月ほど寝食共にして汗をかいている姿を見せたりすれば、簡単に信頼関係は築けるはずです。

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価値観の統一と自ら選んだという実感

くわばら 前提となる方法や感覚、最終的に目指す価値を統一させることが鍵だと思います。例えば、ワークショップでは一緒に空間を楽しくつくることがもっとも重視される価値になるので、プロの大工が見たら怒るレベルの隙間が仮に空いていたとしてもある意味問題ではありません。もちろんより高いクオリティの完璧な空間は目指しつつも、どこに価値を置くのかを擦り合わせることが大事なのではないでしょうか。

秋吉 ブレストは、アイデアを否定せずにアップデートさせるプロトタイピング思考を共有していくため方法なので、相手を巻き込みながらブレストしていくことも重要だと思います。なにより場の動かし方が大事なので、ある程度のファシリテーション能力が求められるかもしれません。

質問者 つくり手の立場としてやっぱり隙間や誤差が気になってしまいます。その後の成果物を担保できないのはサービスの提供者側としては心苦しいなと。

くわばら 基本的にDIYのレベルが職人のレベルに到達することはもとからありえません。なので、事前に木材の特性などあらゆる情報を伝えて、選択肢をたくさん用意した上でコンセンサスを得ることが大切です。自ら選んだという感覚が積み上がっているかどうかが、分かれ道だと思います。

質問者 ものづくり経験がない人でもつくり続ければ、いつか面白いものが生まれてくると思います。その人たちのつくる行為に付き合っていくことが今後大事になると思いますが、その経験がない人たちとどのように関わっていけばいいのでしょうか?

加藤 簡単にしすぎないことが大事だと思います。わかりやすくすることは大切なことですが、経験がない人のレベルに合わせすぎてしまうと、それ以上の成果に到達しづらくなる上、そこでコミュニケーションは終わってしまいます。ものづくりの世界をめげずに伝え続けることが必要だと思います。

対価に対する理解とクライアントの線引き

質問者 HandiHouse projectやKUMIKIPROJECTのクライアントには、取り組みに興味を持って思想に共感してくれた人が多いと思いますが、自分たちのスタイルとは異なる成果や対価を求められた場合はどのように対処してきたのでしょうか?

くわばら DIYだから安くできるだろうと考えて発注してくる人も中にはいます。やはり、僕たちが目指す共創関係や手間をかける豊かさはメジャーな価値観ではないので、安く早くを重視した依頼も少なくありません。それらの依頼に対しては、意思を持って断ることもありますね。

例えば、発生したゴミの処理などは自身で処理してもらうようにしています。こちらでオプションとしてやることもありますが、基本的には依頼者でもできることはできるだけやっていただくことを先に伝えるようにしてますね。

加藤 HandiHouseも同じ苦悩を抱えています(笑)。僕の場合はHandiHouse側だけで完結した場合の見積もりから、お施主さんがDIYで行う工事分については減額をします。お客さんを職人に見立てるという話をしましたが、差し引いた分の業務を委託した外注先に見立ててお客さんと契約するようにしています。

あやふやなままものづくりを始めると、自分はなにもしなくていいと思われかねません。もちろん作業の方法や道具の使い方はレクチャーしますが、本当にギブアップするところまではその業務を自分でやってもらっています。HandiHouseでは、お客さんにしっかりとその旨を説明しながら、ドライに金額で線を引いていますね。このバランスはこれまでの数年間の失敗を通して気づいたことです。

くわばら KUMIKIPROJECTでも、提案ごとに単価を計算して細かい金額をお客さんに見せていますね。“〇〇一式”のような表現は価格認識があいまいになってしまうので、とにかく具体的にすることが大切です。

秋吉 これまでのクライアントは、VUILDにしかできないことと対価に対する理解を持ってくれているケースが多くありました。ただ、最近少しづつですが、考え方や対価に対する認識のズレを感じる依頼も増えてきています。お2人のお話を聞いて、見積もりを明確にして価格を透明化させること、自分たちを安く売らないように対価を設定することなど、スクリーニングの設計が大切だと感じましたね。

加藤 誰かに頼む時点でお金はかかるはずです。その感覚がDIYに対しても生まれるべきですよね。本当に安くやろうと思えば、ネット上の情報を見ればある程度のことは自分でできます。それを放棄しておきながら値踏みするのは、あまり好ましくありません。個人的には「とりあえず先に見積もりください。」と言われたらその時点で難しい部分はありますね(笑)。

秋吉 発注者のお金に対する美意識は大事だと思います。対価とリターンへの理解があるクライアントと一緒に仕事をすると幸福度が高いですよね。

地方における漸進的なものづくりのありかた

質問者 都心から離れた地方だからできるものづくりの可能性について、どのようにお考えですか?

くわばら 僕らは地方案件が多いのですが、一緒にやろうとするマインドは都心部と比較しても強い印象があります。また、地方は空間の余地が広く可変性が高いので建築領域としての可能性はあると思います。

質問者 地方案件はどのように獲得するのですか?

くわばら 僕らは営業活動をあまりしていないのですが、やっぱりいい事例をたくさんつくっていくことが肝心なのだと思います。一緒につくって形にしてきたという実績があれば、声をかけられやすくなるはずです。

質問者 地方では大工不足が問題になっています。どのように介入していけるのでしょうか?

くわばら セミプロの出番があると思っています。そのために経済収入をつくれるような流れをつくる必要があると僕らも考えていて、KILTAではその問題に取り組んでいます。月10万円でも経済基盤をつくれたら可能性は広がるはずです。

加藤 時間の流れも重要な要素ではないでしょうか。地方の時間の流れはゆっくりしている印象があります。地方であれば都心よりも製作するためのコストを抑えられるので、5人いれば半年でできるプロダクトを1人で2年半かけてつくっていくというような漸進的なものづくりのありかたも実現できるかもしれません。VUILDの「まれびとの家」のように建築確認が必要のない地域でいくらつくり続けても怒られない環境があるかもしれないので、都心よりも自由な可能性が潜んでいると思います。

長期的な視座から見る潜在的なつくり手

質問者 最後に、潜在的につくり手になりそうな人はどういう特徴を備えていて、どのようにアプローチしていくのでしょうか?

くわばら KILTAにいらっしゃる方の大半は30代女性の主婦の方ですね。いまはその層に向けてDIYのインストラクター講座などを開いています。

ゆくゆくは、働き詰めでつくるなんて無理と言っている層にも共創の価値観を伝えていきたいと考えています。例えば、インストラクターとして活動するようになったことで家庭内の可処分所得が上がれば、ワークショップに来れなかった人たちが来れるようになるかもしれない。経済の仕組みを考えながら、そういうサイクルをつくっていきたいですね。

加藤 HandiHouseでは、塚越暁の原っぱ大学と共同で「セイシュンラボ」という子供向け秘密基地づくり講座を開いています。今すぐに効果は出ませんが、長期的な視野から若い世代にアプローチしていきたいです。

僕らのプロジェクトを通して、自分がどういう空間で暮らしたいのかを考えて、あらゆる選択肢の中からつくるを選べる人を育てられればと思っていますね。

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[2019年6月27日、VUILD川崎LABにて開催]
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