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1カ月で制作から販売まで、EMARFで広がるものづくりの授業の可能性

東京理科大学の建築系の修士1年生を対象とする、2020年後期のスタジオ課題をVUILD黒部が担当させていただきました。

株式会社オンデザインパートナーズ代表・西田司さんの設計スタジオの一貫で機会をいただいた今回の授業は、EMARFを用いて10日間で1つの作品をつくることを3ターム行う構成です。また、株式会社ルーヴィスさんのご協力の下、ROOVICE WEB STOREにて学生個人の名前で作品を販売することが最終目標となります。

学生の課題は制作して終わってしまうことが大半ですが、売ることまでを目指す今回の新しい試み。それでは、ものづくりに関心のある修士1年生10名の受講の様子をご覧ください。

授業概要

「自分のための、身近な人のための、誰かのための、ものづくり。」

これは今回の授業タイトルですが、講師を務める黒部自身の経験から着想を得ています。日曜大工シリーズとしてこのnote記事でも取り上げましたが、自宅の家具や友人のお子さんのためのスツールをつくっていく中でそれらをSNSで発信していくと、それを見た誰かが欲しいと連絡をくれ、それが予算と共に仕事になってくるというサイクルが生まれました。この授業は、その経験を短期間で実現できたら面白いという黒部の考えから実装されました。

スケジュール
11月12日(木) 初回オリエンテーション @オンライン
11月21日(土) 第1課題制作日 @VUILD川崎ラボ
12月03日(木) 第2課題制作日 @VUILD川崎ラボ
12月12日(土) 第3課題制作日 @VUILD川崎ラボ
12月17日(木) 講評会 @VUILD川崎ラボ
第1課題:自分の住む部屋を対象として、12mmのラーチ合板1枚で生活を拡張する家具づくり。
第2課題:身近な人を対象として、18mmのラーチ合板1枚でその人との対話を通してのものづくり。
第3課題:これまでの課題を通して発見した「誰か」のために、枚数と厚みは自由に決めてのものづくり。

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このスタジオ課題では、デジタルファブリケーションによって拡張する個人のものづくり能力を、全3回の制作を通じて体感してもらうことが目的です。材料はすべて株式会社ルーヴィスさんに協賛いただき、制作環境はVUILDのEMARFと川崎工房を提供して行ないました。

スケジュールからも伺えるように、10日で1つの作品づくりを3回行うハードさですが、週に1〜2回オンラインでエスキスを行いながら、10人全員が1ヶ月で3つの作品をつくりきることができました!オンラインホワイトボード「miro」というサービスを活用してエスキスを行い、土曜日にVUILDの川崎工房にて切削を行いました。

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△miroに個々人が作品のアイディアを掲示し、zoomで繋ぎながら意見交換を行います。

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最終講評会では、授業を担当した黒部の他に、西田さん、株式会社ルーヴィス代表、そしてVUILDの秋吉がゲストとして参加しました。販売を視野に入れているため、見積もりまでを考慮したプレゼンテーションが求められ、最終的に7作品がROOVICE WEB STOREにて販売されることになりました!

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次に、講評会でも高い評価を得た金子さんの作品をご紹介していきます。

第1課題作品:「自転車ラック」

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これまで、ホームセンターに通って部屋の家具を制作することは好きだったものの、デジタルファブリケーションを用いて家具制作したことは無かった金子さん。この授業を通して、設計ツール「Rhinoceros」を初めて習得しました。構造用合板1枚に収まる「自分のためのものづくり」として金子さんが制作したのは、自転車ラック。ツールの習得も兼て、色々と試行錯誤をしながら、3つの作品の中で一番時間をかけて制作したそうです。

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玄関に無理矢理入れて散らかっていた自転車の収納を、「組む」など日本建築的な構造を取り入れつつも、シンプルでスタイリッシュデな北欧家具も意識したそう。構造的にも意味を成している赤い紐は、自転車を収納した際にタイヤの底面がちょうど合わさる様にデザインされています。また、玄関に納めることを意識した際に、自分の家だけにフィットするものではなく、より汎用性の高いデザインを意識して、ホームセンターでも手に入る規格材との相性も考慮されています。

既製品の自転車ラックは、スチールやアルミ製であったり、自転車を納めるだけの用途に留まっていたりと、他の家具との相性や収納機能が限定的であり、賃貸では壁に穴を開けられないという課題を感じていたそう。そこで、賃貸でも家を傷つけることなく設置でき、規格材を用いて他の収納棚にも拡張できる余白がつくられています。家を改造する趣味があり、ホームセンターに通っていたからこそ思い浮かぶアイディアです!

第2課題作品:「拡張できるウッドデッキ」

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「身近な人のため」の課題では、かねてよりお願いされていた大分県に住む叔母の家のウッドデッキを制作。こちらも、デジタルファブリケーションで切り出す接続パーツと、ホームセンターで全国どこでも手に入る規格材を組み合わせて出来ます

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この願いには、庭いじりが好きだった祖父が最近は外に出なくなってしまったことから、少しでも外に出たくなる工夫をしたいという叔母の意図がありました。そこで、金子さんは家族で楽しく制作できるウッドデッキにしたいと思い、この形になったそう。パズルをする様に、専門知識がなくてもパーツを組み合わせて出来るウッドデッキは、家族みんなで自由に拡張・縮小することが可能です。

VUILDの川崎工房から全てを送らずとも、材料を地元で調達出来るのも利点のひとつ。VUILDのメンバーが制作する作品は、デジタルファブリケーションの利点を生かした曲線美を追及した完成品としての家具が多い一方で、DIYを行なってきた金子さんだからこそ、既存の規格材にデジファブの部材が対応できているのがユニークです。

第3課題作品:「椅子に座る椅子」

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車好きの側面もある金子さんは、コロナ禍で車内で作業するシーンもあったそう。音響もよく、シートも座りごこちを追及された車の作業環境としての魅力に着目し、車をオフィスにしてみたいと思ったのが始まりでした。まずは、車に絶対にある形状としてハンドルに工夫を凝らそうと試みたものの、出来る幅が狭かったため、助手席を活用することにしました。

不安定な助手席に固定する工夫として、脚で支えるのではなく椅子の局面に対応したアーチでテーブルを支える形状にしたり、シートベルトを通せる穴を設置しました。不安定な場所に置ける形状にしたことで、結果的に、一人暮らしでは全面が活用されることのないソファの座面にも対応できたり、ピザの配達のアルバイトをしていた時に見つけた景色の綺麗な河川敷でも活用できてしまいました。

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「キャンプ用品のような身軽さがあった方がいいかも」と思っていた金子さんですが、あえて重量感を出すことであくまでも「日常」の延長の家具として、シンプルなギミックであらゆる場面に対応出来る工夫を凝らしているそうです。家族の形態や働き方の形態が変化しつつある時代に、椅子にも机にもなる家具1つで、新しい車やオフィスのあり方を提案しています。

制作課題を通じて生まれた変化

最近の課題では建築の実現性よりもコンセプトやストーリーの面白さが評価され、構造や施工、予算といった、ものづくりとして欠かせない思考に及ばない課題設定の在り方に疑問を持っていた、と金子さんは言います。

今回の授業では、実物として作品が完成するため構造の誤魔化しが効かないことに加え、販売を見据えることで、予算や歩留まりを意識し、コンセプトに対して本当に必要なデザインやディテールのみを残すといった、実践的なものづくりが行えたからこそ多くの学びがあったようです。

昔からものづくりが好きで色々なものを作ってきたけれど、その根底には作る相手がいて、それを喜んでくれる嬉しさがあるという金子さん。家族のためのウッドデッキや、実際に「誰か」に使われることを前提としたものづくりを通して、今回の授業と同時期に進めてきた就活で忘れかけていたその初心に返ったそう。授業を通じて就活に変化が起きたという金子さんは、授業後からVUILDで働き始めてくれました!

販売作品紹介

他にも沢山の素敵な作品があるので、一部をご紹介させていただきます。これらの作品はこちらのサイトで3月中旬頃を目安に販売予定です


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△第3課題(南さん):角度によって異なる座り方のできるロールドチェア

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△第2課題(津田さん):公共空間に設置することもできるライティングチェア

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△第3課題(安田さん):ちゃぶ台とライティングビューローを掛け合わせたCHA.BU.REAU (チャブロウ)

EMARFのご利用はこちら▼


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