自分の見たい風景を形に残していく
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自分の見たい風景を形に残していく

VUILD株式会社

デジタル日曜大工 #1】
趣味でものづくりをするデジタル日曜大工がVUILD内で最近盛り上がっています。今回は、そのムーブメントを起こしたデザイナー・黒部駿人さんとその作品群を紹介いたします!

【プロフィール】
黒部 駿人 HAYATO KUROBE
デザイナー/フォトグラファー

1993年埼玉県生まれ。2015年芝浦工業大学工学部建築学科を卒業後、東京藝術大学大学院美術研究科デザイン専攻へ進学。1年間の留学期間中にDGT ARCHITECTS(現ATTA フランス・パリ)でのインターンとTakuji SHIMMRA photography (フランス・パリ)でのアシスタントを行う。2018年よりVUILD株式会社に入社し、まれびとの家や屋台、スツールなどの設計と各プロジェクトの竣工写真の撮影を行う。

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1. ひらめきを形に

まずは作品の紹介から。

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【即日設計ハンガーラック:2019年6月制作
なんと、思いついてから形に落とし込むまでたったの1日で製作したこちらは、日曜大工ムーブメントの先駆けとなった作品です。

築50年の古い賃貸アパートに住んでいるため、家のいたるところに余白があることに着目。手始めにハンガーラックを作ろうと思い立ち、使い道のなかった押入れ下の空間の寸法をその場で測ることからはじめました。午前中に3Dモデリングソフト「Rhinoceros」でモデリングをし、午後には川崎のVUILDの工房にて、プロジェクトで出た端材を活用し加工。その日に持り帰り、組み立てまで行うという驚きのスピード感で制作しました。

でも実は、「仕事しろよ」と言われそうで、制作してからしばらくの間VUILDのメンバーに共有できずに居た黒部さん(笑)。そんなある日、メンバー3人と帰宅中にふと見せてみたら、思いの外「いいね」と言ってくれたことをきっかけに、社内の共有ツールであるslackで共有したら、代表の秋吉さんも評価してくれたところから、このデジタル日曜大工が始まりました。

また、これをきっかけに、週末にShopBotを使用したり、端材を利活用することが、インターン生や社員関係なく福利厚生の一つとして代表より公式に承認されたという嬉しい変化もありました。

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【即日設計の押入れ棚:2019年7月制作
この作品は、かつて敷布団などをしまっていたであろう「押入れ」に着目し、文庫本から大型の本などサイズの異なる本だけでなく、レコードや花瓶、オブジェも置くことができるように、曲線を描いた棚板が重なり合い余白を残す設計になっています。

築50年の木造アパートに残された、現代の生活では使わないような空間を生かした家具づくりを、思い立ってから使い始めるまでを1日足らずで実現してしまうスピード感に驚かされます。

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【即日設計のシューラック兼ポスト受け:2019年8月制作
玄関横のポストに投函された郵便物が、これまで床に散らばるしかなかったストレスを解消すべく、郵便を受け止めてくれる機能を兼ね備えた靴箱を制作。

床のぼこぼした石をストッパーとして活用し、既存の靴箱の上に郵便物が流れていくような設計になっています。

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【haru:2019年11月制作
これまで黒部さんが自主制作した作品は全て自宅用でしたが、この作品では初めてギフトを制作しました。

担当していた「まれびとの家」のプロジェクトが終わった後に訪れた、石垣島に住む中高時代の親友家族のために、「ライフスタイルに合わせてアレンジできる家具」をコンセプトに制作したこのテーブル兼スツール。

繋げることでテーブルとしてもスツールとしても広がるこのアイディアは、生まれて一ヶ月の男の子(通称・春坊)と猫二匹と暮らす親友宅に、5日間おじゃまする中で膨らんできたそう。

「石垣島には、物資の少なかった背景から身近な植物を用いて生活に必要な道具を作る民具の文化が未だに残っているらしく、訪れた親友宅には月桃を編んだ円座と呼ばれる円形の座布団のようなものがあり、子どもの成長に合わせて編み込んだりほどいたりしながら大きさを変えていくことができるようになっていました。今の時代にありがちな『使い捨てな消費』のあり方とは大きく異なっていることに驚きました。」と語ってくれた黒部さん。

そんな沖縄らしさと親友家族の暮らしを体験する中で、「きっとこの家族には1つの用途に限定された家具はふさわしくないという思いが浮かんできた」という黒部さんは、「春」という名前から着想した原っぱのイメージで、クローバー型で組み合わせ式の家具を作ることにしました。

また、沖縄に送付することを考えて部材はできるだけコンパクトにし、子どもでも組み立てることができるような簡単な設計にし、材料には、36mm厚のヒノキの無垢材を使用しています。

「到着後は、春坊が噛んでも良いように自分たちで塗装をしてくれたり、やすりがけをしてくれたりと、自分が想像もしなかったような使い方をしてくれていて、一緒に一つの作品を作り上げている様な感覚がとても新鮮でした。」

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【チェスボードと時計置き:2019年12月制作
「クリスマスにチェスの駒を貰ったけれど、ボードは無かったので作ってみました」という黒部さんですが、自身がプレゼントした時計にもひと工夫加えたそう。

アンティークの時計を買ったものの箱がついてこなかったため、箱と一緒に時計置きを制作してプレゼントしました。

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【窓辺の棚:2020年2月制作】
黒部さんのもとに、最近お子さんが生まれた大学時代の友人家族から、「住み始めた木造のリノベーションアパートの3階に、南向きの大きな窓からはいつもたくさんの光が入ってくるけれど、そこには手すりがなくて子どもが落ちないか心配」という相談がありました。

「手すりはなんだかネガティブなイメージがある。それに、街との接点である窓をカーテンで遮ってしまうと、外の風景も見られなくなるし、光も遮られてしまってなんだかもったいないと思いました。子どもの目線では、窓を見上げたらそこには建物ではなく空が映るはず。幼少期の一番長い時間を過ごすはずでああろうこの空間を、感性が豊かになるような場にしてあげたい!という思いでアイディアを膨らませていきました」と語ってくれた黒部さん。

その結果、適度にプライバシーを守りつつ、街との接点は壊さない。そしてそれが街の風景も変えるような、常に空の移り変わりが見えて、移ろう光や影で子どもに遊んで欲しい。そんな想いが、窓辺の棚として形になりました。

2. 視点が「自分」から「街」へ

ものづくりを通して、自分のためのものづくりから、街並みを意識したものづくりへと視点が変化していることに気づかされたという黒部さん。

「自分のための家具制作から始まったこのデジタル日曜大工も、だんだんと人にプレゼントするための作品制作になり、親友のお子さんのための家具になり、最後の窓辺の棚では『外観がどう見えるか』にまでこだわるなど、日曜大工を通して自分の視点が変化していることに驚きました」

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3. 「豊かさ」の再定義

何か足りない時に手間をかける『豊かさ』
自分で制作するからこそ生まれる『自由』

「『まれびとの家』のプロジェクトの際に、何度も訪れた富山県南砺市の五箇山エリアは、一番近いコンビニまで車で40分というような山の深い自然豊かな場所でした。

そこでは、お隣さんが朝取れた野菜を持ってきてくれて、そのお礼として力仕事で人手が足りないないときには手伝ってあげるような相互に補完し合いながらの暮らしがありました。都会のスーパーに並ぶ、価値の決められた野菜との在り方の違いに驚きました。

また同じように、『デジタル日曜大工』を始めてから、今まではネットや量販店で商品を選ぶという行為が、ミリ単位までこだわり抜くとっておきの作品制作へと変わった。そして、作品をプレゼントする相手との細かいコミュニケーションを取りながら一緒に一つの作品を作りあげる楽しさまで感じられました」と語る黒部さん。

便利になりすぎたからこそ不足するコミュニケーションや、一手間がもたらす喜びをひしひしと取り戻しつつあるのかもしれないと話を伺って感じました。

4. 自分の手でつくる喜び

今回紹介した作品は一貫して、既存の物には手を加えない家具のかたちです。賃貸ということもあり、接着材を使ったり、穴を開けたりはしたくない。そうなった時に、このようなリノベーションのあり方・家具の作り方は新しい提案になると感じました。

もともとの家の個性は生かしつつ、それに一手間加えることで利便性がアップしたり、自分にとってお気に入りの場所になる。

一般に販売されている商品は、機能性・安全性・コストなど様々な物が論理的に考慮されることでどんどん丸く削られ、最終的に規格化された物になる。機能性には欠けるかもしれないけれど、自分でつくる作品の持つ、決まりきっていないからこそ生まれる自由さが生活をほんの少し愉快にしてくれるのかもしれません。

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5. 「個」が反映された街並み

これまでは、黒部さんの制作した作品に関連する話をしてきましたが、話を聞く中で、「感性」にこだわる理由が知りたくなりました。ここからは黒部さん自身のバックグランドをお話させていただこうと思います。今の彼を形づくる大きなエピソードを3つ書かせてもらいます。

5-1. 個性を探し続けた幼少期

さいたま市の同じ家々が並ぶベッドタウンで育ち、満員電車で校則の厳しい男子校に通った学生時代に培われたのは、個性のない暮らし・生き方に対するカウンター精神でした。

そんな男子校で友達が教えてくれる、ロックミュージやファッションに関心を寄せていくうちに60年代に起きたカウンターカルチャーに惹かれるようになったそう。そんな中、リーマンショックを機に、

「仕組みの中に取り込まれてしまうと、自分の出来ることが極端に少なくなってしまう。」
「肩書きをとったら何も手に残らない。」

この危機感を感じたからこそ、個として生きられる力を身に付けたいと感じるようになったと話す黒部さん。「大きなものに巻かれすぎる怖さ」はこの時代、多くの人が感じていることなのではないでしょうか。

5-2. 震災直後に踏み込んだ建築界

もともと関心のあったアートやファッション、音楽に長く関われると思い、建築学科に進学したのは2011年4月。3.11を踏まえて、当時とても暗かった建築業界の入学直後の講義は、どれも建築のあり方を問うような内容だったそうです。そんな中、黒部さんの「建築」のあり方に対する考えに大きな影響を与えたのが、震災の半年後に訪れた石巻だったそうです。

「そこに街があったことを物語るむき出しになった基礎や、街が海に飲まれたことを物語る地面に転がる魚の死骸と生臭さ。半年という月日が流れてもその状況であることに衝撃を受けると共に、涙が止まらないほどに無力さを感じました。

中高時代に影響を受けてきた現代アーティストたちが、震災後すぐに渋谷駅の岡本太郎の壁画をハックしたりと、至る形で行動を起こしていたのに対して、建築という分野はとても時間がかかることを痛感したできごとでした。」

5-3. 留学で醸成されたアイデンティティ

芝浦工大で4年間建築を学んだのち、もともと好きだった写真の勉強をしたいと思い、東京芸術大学大学院デザイン科へ進学した黒部さん。大学院時代の一番の転機は、1年間休学して行ったパリでの留学体験だそうです。

留学中は、建築家・田根剛さんのアトリエで半年間インターンをし、その後にフランスで活動する、建築写真家である新村卓二さんのもとで3ヶ月間アシスタントを経験しました。

様々に影響を受けて形成される「街」
「建築事務所では、ヨーロッパ、アメリカ、ブラジルなど様々な国からきた人たちと仕事をすることができました。定時になるとどんなに仕事がスタックしていても家には帰り、ヴァカンスは必ず取り、個人個人が意見をしっかり主張していました。いわゆる日本とは異なる海外の仕事の仕方を体感することができた場所です。

写真家のアシスタントでは、日の出前から日没後まで一つの建築物を見続け、写真に納めるという新しい体験をすることができました。すると、どんなにつまらない建物でも、環境の変化によって色々な表情を見せてくれることに気がつくようになるんです。そして、その訓練を3ヶ月続けると、あらゆるものの見方が変わってきました。旅に行っても、3日間違うタイミングで同じ場所を訪れて見たり、物理的には何も変わらない建物や街の「変化」を楽しむようになりました。」

そんな黒部さんがパリ留学の中でもっとも衝撃を受けたのが、「一人一人の個性が街並みを作り出す」ことを目にした時だそう。金曜日の夜はどこの酒場も大盛り上がり。バルコニーで大合唱していたり、道ばたで周囲を気にすることなく抱き合ったり、スケーターが広場を占拠していたりと、パリで出会った若者たちは街に対して生き生きとしているように見えました。

構造化された日本社会のど真ん中で育ち、東日本大震災で建築の課題を感じ、留学したパリで「有機的」な建築・街の在り方に刺激を受けた今、デジタル日曜大工で「自分の見たい風景を形にしていく」ことがそれらの延長線上の活動であるように感じているようです。

6. 自分の見たい風景を形にしていく

「2011年4月に建築学科へ入学した世代は、従来の建築に対する課題を目の当たりにしながら、4年間建築を学んびました。だからこそ、VUILDのやっていること、デジタルファブリケーションのスピード感に魅力を感じています」

そう語る黒部さんが、スピード感を持ってしても日曜大工の中で一貫してこだわるのは、「見た瞬間の面白さ・綺麗だと思う形」であり、「規格化されていない」ものづくりです。

黒部さんの作品や話を通して、いつの間にか「利便性」「生産性」ばかりが重視され、誰がやっても同じ結果になるように仕組み化・規格化されたサービスに溢れてしまった現代において、「生活者」が自らの手で形にする範囲が狭くなってしまっていることに気付かされました。

だからこそ、彼の作り出す利便性だけでなく美しさを重視した作品のもつ「自由さ」に心を打たれるのかもしれません。

黒部さんの活動が気になる方は是非instagramを覗いてみてください!

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