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【作品紹介】気に入るものがないならつくればいい!自ら生み出すことへのはじめの一歩

沖縄県石垣島在住の小山夫妻が、3Dモデリングソフトを一から習得して制作したオリジナル家具をご紹介します。
夫妻の友人でもあり、VUILD ARCHITECTで「まれびとの家」や「川崎WE屋台」を担当してきた黒部駿人の指導のもと進めた、その制作経緯と設計プロセス、そしてそれらを経て考える、自らアクションに繋げていくことへの動機ついて、お話しを伺いました。

【聞き手】
VUILD株式会社 ビジネスデベロップメント 濱田祥利
VUILD株式会社 アーキテクト/フォトグラファー  黒部駿人


こだわりゆえに生じる「諦め」をなくす。自分でつくることへの一歩

濱田 まず初めに、EMARFを使うことになったきっかけを教えてください。

小山 今年の4月頃、VUILDがEMARFに力を入れているという話を黒部から聞いたんです。その時に、「俺が教えるからやってみなよ」と誘われたのがきっかけです。

濱田 無茶振りがすごいですね(笑)。

小山 というのも、以前から棚が欲しいという相談をしていたのですが、彼が忙しそうだったのでずっと延期になっていたんです。CADを使ったことも全くなかったので、今回はパソコンを買うところからはじめました(笑)。

濱田 では、今回制作したものを教えてください。

小山 自宅のキッチンに置く棚と机を制作しました。2つが一体型になっていますが、ゆくゆくは分離して使うことも考えて設計しました。

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Photo 久保田天祐

小山 僕の家は、玄関のドアを開けたらすぐ左にキッチンがあるという非常に生活しにくい間取りで、収納もほとんどありません。収納棚の購入を考えたこともありますが、妻も僕もこだわりが強く、結局何も決まらないということを繰り返していました

濱田 お店で色々見たものの、気に入るものが見つからなかったということでしょうか。

黒部 彼の場合、沖縄の石垣島に住んでいるというのもあると思います。例えば、普通だったら家具量販店やネットで買うことになりますが、石垣島に配送するとなると商品以上の送料がかかる。そのような立地的条件もあり、なかなか買うという感覚にならないのではと感じました。

濱田 同じく石垣島に住んでいる周りの方はどうしているのでしょうか?

小山 ネットで買うこともあるとは思いますが、家具を諦めている人が多い印象です。立地的な不便さによって、気軽に楽しめない環境があります

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Photo 星川慶

生活環境を整理してイメージを明確にしていく

濱田 パソコンを買うことから始めたということで、実際の制作プロセスについて教えてください。

小山 引越し当初からキッチンの使いづらさを感じていた妻が、率先して作りたいイメージをスケッチしてくれました。そのスケッチを元に、設計はRhinocerosを使って行い、黒部からアドバイスをもらいながら、まずは部屋をモデリングするところから始めました

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小山 「なんか微妙なんだよね」という、ちょっとした違和感にもアドバイスをもらうことで、思っていた以上のものができたと感じています。結果的には、オンラインで計3回やりとりしながら進めました

黒部 「来週までに家の寸法を図ってモデリングしてください」と宿題を出したりして、塾のようでしたね(笑)。zoomで画面共有しながら、一緒にモデリングしていくという進行でした。ライノをゼロから勉強すると、球体を作るところから始めたりするのですが、今回はEMARF特化型の講習をしました。

濱田 3回のやり取りで作れるというのは相当すごいですね。

黒部 すごいですよね。本人の努力が必要条件だとは思いますが、彼の場合、作りたいものがあったというのもよかったのかもしれません。

小山 作りたいものの姿が明確にあれば、誰でもできると思いました。

黒部 今回教える側として面白いと思ったのは、設計段階で家の寸法や棚に置きたいものの寸法を測ることで、自分の生活環境や自分が所有しているものに向き合う時間が生まれていく過程です。一つ一つのお皿の寸法を測ってモデリングすることで、置きたいものと場所を自分の中で整理しきった瞬間に形ができていく、ということが発見になりました。

既製品の場合はどうしてもその寸法に合わせて物を置いてしまうし、余計な余白が生まれてしまいます。だけど、自分のものに真剣に向き合う工程を経て作った家具は、そこにいて自然なんです

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小山 作りたいイメージがないのに技術(ツール)だけ渡されると難しいですが、作りたいものが明確な人にとっては気持ちさえあればできてしまうので、非常に画期的だと思いました。

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Photo 久保田天祐

新しいツールを得ることで見えた視点

濱田 今回、制作にあたって参考されたものはありますか?

小山 行きつけのカフェに置いてあるテーブルを参考にしました。

黒部 おそらく普段通っているからだと思うのですが、彼に作りたいイメージを聞いたときに、それを参考にしたいという声があったんです。ただ、完全コピーするのではなく、その机のイメージを踏まえつつ、以前から欲しいと言っていた棚の要素も入れようと。

小山 机と一体型にすることで、机の下にできたスペースにゴミ箱を置いたりと、キッチンが大分すっきりしました。

濱田 設計にあたって工夫した点を教えてください。

小山 テーブルの高さと棚の天板の高さを、それぞれシンクと冷蔵庫の高さに揃えて設計しています。

黒部 面の高さが全て揃っていたのには驚きました。モデリングデータを確認した時に、普通の机にしては少し高さがあるなと思ったのですが、キッチンの面をどうしても合わせたいという話を聞いて、すごいと思いました。

ソフト上で俯瞰して部屋を見ると、面が揃っていた方が気持ち良い。3Dモデリングソフトを使うことで自分の部屋を俯瞰して見ることができ、その上で全体をイメージすることができるからこそ、新しい視点につながると感じました。

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Photo 久保田天祐(左)、本人提供(右)

小山 その他、棚の物を置く部分に入れる天板を少しカーブさせたり、フレームの部分を斜めにすることで、物を取り出しやすくしました。

黒部 あと、仕上げとして蜜蝋を塗ったよね。

小山 以前、ShopBotで作ったスツールやテーブル、まな板やディスクオーガナイザーを黒部に頂いたのですが、その時に仕上げとしてヤスリをかけたり蜜蝋を塗ったりしていたので、この作業には慣れていました。玄関先の通路に部材を並べて、子供や猫も一緒になって楽しんでいます。大変ではありますが、完成した時の愛着が違いますね。

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濱田 蜜蝋を選んだのには何か理由があるのでしょうか?

小山 蜜蝋は、子どもが噛んだりしても安全な天然素材として黒部が勧めてくたのですが、調べてみたら島産のものがあったので、ぜひ使ってみようと。

黒部 小山がパソコンデスクとして使っているものも、実は島産材で作った特注品です。彼が島の材料で何か作りたいということで、自ら地元の木工場に出向いてオーダーしたそうです。

小山 これは地元の「うえざと木工」という木工場に依頼し、ソファーに合うサイズのものを特注で作ってもらいました。これまでは、違和感をフワッとした言葉で伝えることしかできませんでしたが、棚の制作時にRhinocerosを覚えたことをきっかけに思考の視点が変わり、要望を明細に伝えることができました。

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ものづくりを通して思考と行動を広げていく

濱田 今回EMARFを使ってみて、不便に感じた点があれば教えてください。 

小山 最初にプラグインをダウンロードした際にソフトに反映されず、つまずいてしまいましたが、これは、サポートに伝えることで改善されました。

あとは、部材が届いてからですね。自分自身が初心者であるため、ちゃんと組み建てられるだろうかと、初心者なりの不安はありました。正直、慣れてないのでドキドキでしたね。

濱田 全体の金額感と、届いて組み上がった印象も含めてどうでしたか? 

小山 妥当だと思います。ただ、価格に対しての満足感というよりは、できたものに対する満足感がとにかく強かったので、そう考えると値段がどうこうとは思わなかったですね。

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Photo 久保田天祐

濱田 今後、作りたいものはありますか?

小山 リビングに置くスタンドライトを作りたいと思っています。妻が以前から照明を探しているのですが、棚と同様に気に入るものがなかなか見つからないんです。先日、電気工事士の資格を取ったので、配線も自分でやって、コードをきれいに収納できるものをEMARFで作れたらと思っています。

黒部 そういえば、いったい全体小山は何者なんだ!というところをまだお話ししていませんでしたね。

小山 「星のや竹富島」という星野リゾートが運営する宿泊施設で働いており、今は、施設課という部署で竹富島の畑文化復興に関わっています。具体的には、失われつつある畑文化を島に永続させるため、伝統的作物を残し、固有種を復活させる活動をしています。例えば、伝統芋復興のための芋掘り体験を企画したり、地元の子供達と島の伝統的な大豆で豆腐を作ったりしています。お客様に向けて畑文化を活用した体験作りをすることで、畑文化を観光産業に繋げて島に永続させて行こうという試みです。

島産材に興味があるのは、仕事でこういうことをやっているということが関係しています。パソコンデスクを製作してもらったうえざと木工さんも、島材を残したいという共通の思いを持っていて、なぜ島に木材があるのに海外から木材を買うのか、疑問を感じています

だからこそ、先日秋吉さんがnoteに投稿した記事を拝読し、とても共感しました。VUILDが地域分散型で全国に拠点づくりをしているのを見て、将来的に僕が住んでいるエリアにも拠点ができて欲しいと思っています。

また、これは個人的な希望になりますが、EMARFがShopBot以外のルーターに対応してくれたら、うえざと木工で導入している「HOMAG」というCNCルーターでも活用できるのに、と密かに思っていて(笑)、移住者含めて島全体の問題として取り組めるようになったらいいですね。

濱田 今後EMARFに期待することがあれば、教えてください。

小山 EMARF3.0はプロ向けの印象があるので、一般の人にも広がるような取り組みがあったらいいなと思いました。僕の場合は教えてくれる人が近くにいましたが、スキルがなくても作りたいと思っている人は沢山いると思うし、それこそ、僕みたいに地方に住んでいる人はそういう欲求をより強く持っているんじゃないかと思います。だけど現状は素人にとってはまだハードルが高い。なので、教えてくれる人がいて、「実際にやってみよう」というアクションに繋がる何かがあればもっと広がるのではないかと思っています。

濱田 今後はワークショップの開催も考えています。今回、お話を聞いて参考にさせていただきたい点が多くありました。ありがとうございました!


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